大寒からほぼ1か月、立春は過ぎ野の草花も春めいてはきましたが、まだ寒さは続きます。我が家からは遠景に東京湾越しに富士が見えます。朝の澄んだ大気に冠雪がまばゆい。大宮神社の参道からの初詣にはこの富士の遠景が誠に神々しく。
この寒く夜の訪れが早い季節には、鍋を囲んでお酒というのが、なんとも楽しみになります。
こちらのブログではお酒の話題をいくつか紹介しておりますが、わたくしお酒が大好きでございます。外でも家のみでもほぼ毎日欠かしてないくらい。
本日は日本酒のお話。ホットラム等のカクテルやホットワイン、更に紹興酒などの中国酒でも暖かいお酒は供されますが、日本酒は燗酒に代表されるくらいに、この季節には嬉しいお酒でございます。
お酒の燗というのは、昔の料亭にはお燗番という専門のお役があったように、基本の飲み方。
常温のお酒が「ひや酒」で、火にかけないすなわち室温。夏にはこれに近くなりますが32度くらいが「日向燗」最も高い温度が「飛び切り燗」で55度くらいでしょうか。ここから5度くらいずつ下がり、「熱燗」「上燗」「ぬる燗」「人肌燗」となるわけです。
逆に少し前から流行の冷たいお酒は冷酒となり、15度くらいの「涼冷え(すずびえ)」10度で「花冷え」5度で「雪冷え」となります。
あたくしの好きなのはぬる燗で、ほぼ40度前後のちょっとぬるめのお風呂程度。
居酒屋でぬる燗と頼むと、ほぼ人肌程度で出てくるのが多いかもしれませんが、ぬる燗はちゃんと暖かいのであります。
何故日本酒を温めて飲むようになったのか。諸説ある様ですが、習慣としてはいわゆる清酒が台頭してきて、通年を通じて商品として出回ることになってからです。都市部で流通することになり、むろん冬場は暖を取るためというのが、一番でしょう。ただ夏場にも燗酒は普通に飲まれます。最近こそ冷蔵庫が普通になり、生酒が流通し始めて冷たい酒が飲めるようになりましたが、冬場に製造されるお酒は、冬を過ぎると火入れをして出荷されます。夏になると数回の火入れとなり、言わば燗冷まし状態となります。多少の異臭がする可能性もあり、それを飲みやすくするためというのが、燗酒の普及した理由ではないかとの説があります。
日本酒は材料である米が、戦中に働き手が軍に招集されたことによる人手不足と、軍への供出が最優先となったこと、更に米の不作が続き。戦中の昭和18年には清酒もしくは醪にアルコールを加えたアルコール添加酒(いわゆるアル添酒)製造がなされ、このアルコールには甘藷、糖蜜などが使用され、更にはドングリから生成されたアルコールが使われるようになりました。ドングリ酒などと呼ばれていたそうで、これはこれで名前に趣はありそうですが。あまり旨そうではないな。
戦後も白米の統制は続き、ついに昭和24年には三増酒と呼ばれる粗悪な酒が造られるようになりました。
三増酒とは水で希釈した醸造アルコール、糖類や酸味料、グルタミンソーダ等で酒を三倍に増やすところから名付けられた悲しい名前です。日本酒が悪酔いするとか、宿酔いするとかの悪しき評判はこの戦中・戦後の低品質によるものに起因します。
あたくしのお酒を飲み始めた時代も、学生ということもあり、貧しくて日本酒は当然この部類の2級酒で不味さこの上もなく。
従ってアルコール分の高い、安いウィスキーがコンパの主役でした。
戦後の統制令は昭和24年には解除され(酒類の自由販売)ましたが、実はこの低品質のお酒はしばらく続きます。理由は売れたから。酒造メーカーは品質を上げるよりも、量産に力を入れてきたためです。これでは年々台頭してきた洋酒に太刀打ちができるはずもなく、消費量は低下一方となるわけです。
このある意味の戦後処理が日本酒業界で終わったのが、昭和50年代に入ってからといわれています。すなわち本醸造酒、純米酒が作られるようになり、大手の得意なアル添酒等では太刀打ちできない地酒と呼ばれる少量醸造メーカーが、その個性で呑み助たちに取り入れられたことによります。
お酒の製造法により清酒には分類があります。
- 純米酒: 精米歩合70%以下で、白米・米麴・水のみを原料としたもの。
- 本醸造酒: 精米歩合70%以下で、白米・米麹・水に加え醸造アルコールを、白米1トン当たり120ℓ以下添加したもの。
- 吟醸酒: 精米歩合60%以上で、上記1・2の条件を満たすもの。
- 大吟醸酒: 精米歩合50%以上で、上記1・2の条件を満たすもの。
その他には「手作り酒」「樽酒」「原酒」「新酒」「生酒」という名称にも原料・製法の決まりがあるのでございます。気になった向きは調べてみてくださいませ。
大人になって、地酒を中心に本来あるべき姿の純米酒、すなわち醸造用アルコールを転嫁しないお酒というのを知り、お酒つまり日本酒ってこんなにおいしいんだと分かった訳です。
知名度の高い純米吟醸酒や、大吟醸などは普段の晩酌という訳にはいきませんので、大手の灘や伏見で比較的良心的なパックの純米酒をぬる燗で美味しい自作の料理を食することの幸せに浸っている、真冬の夕べでございます。
あ、もちろん寝酒のカクテルやウィスキーにも十分お世話になっております。そのうちお気に入りのウイスキーについてもひとくさり。
※参考文献: 神崎 宣武 「酒の日本文化」角川選書