昭和30年代にその大切な幼少期を過ごした私には忘れられない悪魔がいる
クロスロードで魂とひきかえにBluesを手に入れた話も有名だが
今日は私がその頃出会った悪魔の話をしてみたいと思うのだ。
まあ、最初に言っておくのだが、歳を重ね生きて行く上で大切な事ってのは
重要で意義有る事からばかり得られるものではなくて
時には「なんじゃこりゃ」と言う様な
不条理と悪魔の仕業とも思える所業から教えられる事も多い
特に幼少期や、まだ物の見方が適切ではない
年少期に受けた傷というものは心の最深部に刻まれ
深い痛みと共に無意識に眠らされるだけに
或る意味、感動、喜び、楽しかった思い出といった物以上に
事ある毎に思い起こされ
その人の人格形成に影響を与えるのだとも思う。
さて、.....その悪魔は小学校の放課後,近くの公園に
ある日突如として自転車に乗って姿を現す........
「おっなんだなんだ」と公園中の悪がき共が興味を注ぐ中
おもむろに公園の一角に陣をとり、ござを取り出し
売り物を拡げ始めるのだ
このおっさんは通称「かた屋」と呼ばれ
売り物は、煉瓦で作られたカタ、そして粘土、更に薬梱包袋のような新聞紙に包まれた
メタリックな粉末、通称「イロ」と呼ばれるブツ
値段は一式、一番小さな「カタ」と「粘土」と「イロ」一色で200円位だったろうか
正確な値段は覚えておりません、今の価値からいうとこの位の値段という事ですが
まあ、小学生にとってはぎりぎり一杯の値段とご理解下さい
小さなカタと粘土一本そしてイロ一袋也を買い求め
徐に公園の一角で悪がき共は黙々と制作に入る
で、粘土をカタから外してメタリックな粉で彩色された作品は
おっさんの拡げたゴザの上に次々と並べられていく
で、20程の作品が出揃った頃、おっさんは手に持った鐘を鳴らしながら
「はい~!締め切りだよ~!」と、おもむろに叫ぶのだ
そしてこれからが一番どきどきする時間帯なのであるが
おっさんは、その一つ一つの作品を採点して
点数が印刷されたカードを作品に刺していくのだ
最初に僕が製作した奴は小さな亀のカタに銀青色の彩色をした奴
次々と採点がおっさんによってされていよいよ僕の作品
「はい、これ誰?これ10点!」....10点?
他の奴のは20点、50点等の評価を貰ってる作品もあるのに
ここで説明させて貰うのだが、この点数は即この「カタ屋」ではお金を意味するのだ
つまり一点一円の価値を持つ
で、この点数だと、イロ一袋10円分の価値を持つ
そしてカタ屋のおっさんは一通り採点を終えると、展示された粘土作品を一まとめにして
「又明日ね~」とか言いながら去って行くのだ
僕の手の中に残されたのは買い求めた小さなカタと10点カード一枚。
まあ、諸氏に問いたいのだが
ここで止められます?
ゴザの上には僕のカタの何倍も多きいカタが円では無く、
500点等と表示されているのだ
ああ、あれが欲しい!あのゴジラが城と共に彫られてる奴
実際その後一週間程、それに夢中になってしまう訳ですわ
何故なら、資本主義世界の鉄則とも言えるのだが
通っている内にある事に気付きはじめる
つまり.....
僕はあらゆる美的感覚、センスを持って丁寧に納得した作品を提出し続けたのだが
この、ある種の最終判断を下す神ともいえる存在のおっさんは
どうも、作品的には今一だけど、
大きいカタで沢山粘土を使い沢山のイロを使用した作品が好きなようなのだ
で、それに気付き始めた僕はコツコツと点数を集め
一日も早くあの大きいカタを手に入れ、大きな作品で高い点数を貰おうと
それから、その公園に入り浸るという次第になる。
ゴジラのカタに手が届くまでには色々な難関をくぐり抜けなければならなかった
まず、毎日のおこずかいの使い道は、駄菓子とか文房具類
それらを切り詰めて粘土にあてた
クラスのホームルームでは自分達だってリリアンばかり編んでるくせに
「最近男子がヘンな煉瓦ばかり見ているんです~」等と先生に告げ口する女子もいた
そんな圧倒的不利な状態の中でさえ
粘土汚い~えんがちょ~!の罵声の中
全身全霊をかけてカタ神の正当さや尊厳を護ったりもした
そんな努力節約の日々を重ね、
とうとう、遂に、あの日を迎えたのだ
その日僕はあのゴジラのカタが手に入る栄光の500点を手に公園でおっさんを待った
まあ、もう、皆様なら、お解りだろうが....
僕は公園で日が暮れるまでおっさんを待ち続けたのだが
その日も次の日も、おっさんはその公園には二度と姿を現さなかった。
悲しい話でしょ、あんまりでしょ
悪魔でしょ
思うにビットコインて、きっとカタ屋の点数みたいなもんなんだろうな~。
まあ、あれから数十年
同年代の東京のミュージシャン達と
よくこのカタ屋の話をすると
どうも、皆このカタ屋に少なからずやられた経験があるのだろうか
妙に話は盛り上がるのだが
その後、決まって少年のような目になって
淋しげな表情を浮かべるのだ
勉強させて頂きましたわ、カタ屋さんには
いや、今となっては決してあのおっさんを恨んではおりません
全ては自らを巻き込んだ悪魔の仕業だったと思うようにしております。
The Charlie Daniels Band - The Devil Went Down to Georgia (Official Audio)