11月4日の某番組で野辺山駅が紹介され、近くのホテルで開催している星空観望の話が出ていました。
ちょうど紫金山-アトラス彗星 (C/2023 A3)が肉眼で見えている時に収録していたようで出演者は肉眼で見ていたようです。
この番組でもナレーションとイラストで「紫金山-アトラス彗星 (C/2023 A3)の周期は8万年」と紹介した後に「専門家の間では二度と戻ってこないという推測もあります。」と説明していました。
現状の軌道要素では後者が正解という事になるのですが、過去に報道してしまっているためか周期8万年にこだわっているようでした。
繰り返し報道されていた周期8万年という数字がどこから出てきたのか知りたくなって調べたところ、みゃおさんの「ほんのり光房」というブログ記事に行き当たりました。
紫金山-アトラス彗星 (C/2023 A3)が発見された当初は離心率が1を切っていて楕円軌道となっていました。
上記で追記したように発見後の観測データが増え、離心率が1を超えて双曲線軌道となり、二度と太陽に近づくことが無いという話になりました。
新彗星発見の情報は昨年の2月28日のMPEC 2023-D77で、離心率が1を超えた軌道要素は昨年の3月6日のMPEC 2023-E49で発表されています。
発見のニュースの1週間後には離心率が1を超えていることがわかっていました。
みゃおさんの「ほんのり光房」で紹介されているNASAのブログ記事は紫金山-アトラス彗星 が近日点を通過し明け方の空に明るく見えてきた後の今年の10月2日に更新されていて、それ以前の記事を見ることが出来ませんでした。
(インターネットアーカイブを使っても見られませんでした)
更新された記事の下にある注釈では「以前の記事で引用していた8万年という周期は最新の観測データでは正しくない」としています。
この記事が更新されたのが今年の10月2日だとすると10月1日まではNASAが「周期8万年」という表現をしていたことになります。
「天体の話となればNASAが一番」という事でNASAのこのブログ記事を見て周期8万年説が広がったものと思われます。
NASAのブログ担当者は周期8万年説の元になっていると気づかずに1年半以上も訂正しなかったのでしょう。
「以前の記事で引用していた」という表現が何だか言い逃れをしているようにも感じます。
何故なら元になった新発見の速報に記載されている軌道要素には周期が載っておらず、誰かが計算しなければ出てこないからです。
情報元がNASAであったことがわかると「周期8万年説が広まったのはやむを得ないのかな」と感じます。
ただ、テレビ局などの大きな組織の中に星好きの人がいないのかなという事と、国立天文台に問い合わせなかったのかという事が疑問に思えます。
国立天文台に問い合わせていれば周期が8万年ではないことは伝えてもらえたはずです。
みゃおさんの「ほんのり光房」で紹介されている「A.離心率と近日点距離の振動」のグラフの左側の直線部分が実測データと思われ、気になって過去のMPECの軌道データを調べたところ、徐々に離心率が小さくなっていたことがわかりました。
昨年3月6日の離心率は 1.0002300でした。
最新の10月31日の離心率は1.0000986になっています。
観測数が増えて計算精度が上がってきているのに加え、ダストの放出による重さや速度の変化、太陽風の影響、惑星の重力の影響(摂動)など、軌道が変わる要因がたくさんあるのでそのうち1を切ることになるかもしれません。
そうなると周期8万年も嘘ではなくなる可能性が出てきますが、ちょうど8万年にはならないでしょう。
私は周期8万年説を批判していましたが、多くの情報を調べて判断しなければいけないですね。(反省)