櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

◉新作ダンス公演2024年7/13〜14 ◉コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー

ポルトガル公演8

2007-01-16 | 海外公演の記録 past dance works in EU
連載中の海外ツアー報告。残りわずかですが、よろしくお願いします!

櫻井郁也/十字舎房ポルトガル公演報告
第4章「ファロ公演~地の果てにあった懐かしさ」(2)


【イメージハンティング】
ポルトガルで、舞台作業と連夜のワークショップを行いながらも、時間さえあれば、あちこち歩いていました。これから上演するダンスのための、イメージハンティングです。

迷路のような白い街角。
ひなびた漁師町。
点在する廃墟。
小さな教会の周囲にひっそりと佇んでいた集落。
ビーチでの、乾燥した砂とアフリカからの風を受けた大きな波。

実にさまざまな風景の中で、はっきりとつかめてきたのは、この土地ならではの光の表情の豊かさ、日本には無いような陰影と色彩のカオスでした。

陽光が強い分、影もまた濃く黒い。
切れるような月の光、不動の星。
あちこちに咲き乱れる花々は、さしずめ光の化身です。
それら、自然の光に、仄かな電灯の点滅が、ささやかに語りかけるようで、これはこれで切ない美しさを醸し出しています。

そんな景色を肌が吸っているのでしょうか。
スタジオリハーサルでも、次第に立ち居振る舞いが変化し、作品にも濃い陰影が現れはじめました。

そして、さらに興味深い体験が、内部に起きた日がありました・・・。

【塩田・光の呼吸】
ファロ郊外、ある夕刻。
目の前に、真っ赤な夕陽と広大な塩田がひろがっています。

ワークショップでの舞踏体験に感動してくださった数名の方々が、僕らを小さな旅行に招待してくれました。
その最初のヴュー・ポイントが、ここ。

アルガルヴェは塩の産地でもあります。
そして、奇遇ながら、僕らの作品「TABULA RASA」の舞台美術には、重要な要素として、塩によるインスタレーションが含まれているんです。

作品では、死者の世界とこの世をまたぐようにダンスが展開するのですが、美術家の櫻井恵美子は、その境界線として、浄化のシンボルである塩を素材に、禅画を想わせるようなドローイングを舞台上に施したのです。
彼女は、舞台にも、自らの美術作品にも、しばしば塩を登場させます。
そのシンボル性にも増して、塩の持つ独特のマテリアルや美しい白の扱い方には、いつも惹き付けられます。

作品に含まれる重要な要素と、その上演地の産業が重なり合っている、というのは、とても不思議な偶然、霊的な働きを感じました。
さらに、今は黄昏時。僕らの作品も夜明けと夕刻の二つの境目を、その情景としています。
シンクロナイゼーションというのでしょうか・・・。

僕ら一行は、ほとんど何も話さずに、太陽が沈みきるまで、留まりました。

互いに差異をもつ、異邦人同士が、同じ太陽をただ見つめる体験。

足元の大地の底から、沸々と湧き上がるように白い塩が泡を吹いています。
そこに、強い夕陽が射し、淡い血液の色のような色彩がひろがり、地平線に溶けて。
鳥の一群が、真っ黒なシルエットのまま、深紅の太陽に呑み込まれていきます。

そして、山陰に太陽が隠れる一瞬・・・。
淡い淡いグリーンの光が、闇との境目に現れて消えました。

ティンクトーラ。生死の境を象徴する、存在光。

ジュール・ヴェルヌが描いた、「緑の光線」とは、このようなものだったのだろうか。

この風景は、僕の内部に強く滲みわたりました。
心の中で、宇宙の不滅に、消えゆく人間の儚さが対置されます。

この静かな体験は、僕にとって、同時に、この後行われるファロでの公演にとって非常に大きなインスピレーションと影響を与えました。
作品「TABULA RASA」の東京初演に添えたサブタイトルは《ひかりもまた呼吸する》というもの。踊りの中の直感から添えた、この言葉のレアリテが、異国の日没風景のなかで鮮やかによみがえったのです。

心の内にある基盤が、外側から揺り動かされたとき、僕のダンスはリアルなものとして具体的な形を生成しはじめます。
この塩田で、この土地の地霊が僕の身体に揺さぶりをかけはじめました。(つづく)

※次回記事=ファロ公演本番について。1月下旬アップ予定。
※この記事は2006年9月~10月に行われたPortugal " a sul" International Contemporary Dance Festival招待公演の報告です。
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