アンゲラ・メルケル氏がドイツ首相を退任されたこともあって、このコロナ禍が始まってまもない頃に彼女が行った演説の一部を、クラスの稽古で声に出して読んでみた。あわせて、このコロナ禍を受けて発された文学者の言葉などいくつかを音読し、それらと相まって響くであろういくつかの音楽を聴き、動いたり佇んだりして、時を過ごしてもらった。
共感もあり反感もあり、入ってくる言葉や音があり、そうでもない言葉や音も当然ある。動こうとする瞬間があり、躊躇いもあり、じっと座って聴き込んでいる時間がある。それぞれが自身の内部空間を見つめていることが、すごく伝わってくる稽古になった。
踊ったあとには、ついさっき耳にした言葉のことや音楽の感想や質問に始まり、やはりこの現在この瞬間を生活しながら思っている様々なことが、話題になり、あっという間に時間が過ぎた。
『踊り入門』(西荻ほびっと村学校・舞踏クラス)のこと。
クラス案内に書いている通り、このクラスでは動きの手本や振付をあえて提示しない。ご自身の気持ちを何か自由な体の動きで表し、必要なアドバイスや対話を重ねてゆく。その蓄積が次第に身体とイマジネーションの関わりを深めて確かな力になる。手本や振付を提示しない代わりにと言っては何だが、毎回なるべく色んな文章や詩や音楽や美術を紹介し、可能な限り様々な話題を持ち込んで、心の動きや体の動きのための環境をつくろうとしている。
見様見真似からではなく、瞬間瞬間の自身の心境の変化をよく味わい、同時に、どうすればその気持ちを体に反映することができるのか、という試みや工夫をたっぷり体験して、それから技術のことや振付のことをお教えするクラスに来てもらうのも良いのではと考え、あるいは定期クラスと並行して原点回帰がいつでもできるようにとの思いもあり、このクラスを開いた。受講者の方々のみならず、僕自身にとっても非常に大事な場になっている。
_____________________________________
Stage info. 櫻井郁也/十字舎房:公式Webサイト
ただいま前回ダンス公演(2021年7月)の記録をご紹介しております。次回公演情報は、いましばらくお待ちください。