一病息災〜心房細動とその周辺

心房細動の治療は日進月歩。目に留まった記事の備忘録です。
他に、生活習慣病や自分に関係ありそうな健康問題も。

日本人の心房細動患者に適した脳梗塞リスク評価(2017年3月)

2017年03月27日 06時20分56秒 | 心房細動
 新たなスコアの提案が近いかもしれません。
 学会で発表したのは、母校の教授です。

■ 日本人の心房細動患者に適した脳梗塞リスク評価~第81回日本循環器学会学術集会
2017/03/27:ケアネット
 日本人の非弁膜症性心房細動(AF)患者の心原性脳塞栓症リスク評価において、
1.脳卒中の既往
2.高齢
3.高血圧
4.持続性心房細動
4.低BMI
 の5つの因子による層別化が、従来のCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアによる層別化よりリスク予測能が高いことが報告された。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援による、層別化指標の確立を目的とした共同研究であり、第81回日本循環器学会学術集会(3月17~19日、金沢市)のLate Breaking Cohort Studiesセッションで弘前大学の奥村 謙氏が発表した。
 非弁膜症性AF患者における心原性脳塞栓症リスクの層別化は 従来、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアが用いられており、わが国のガイドラインでも推奨されている。
 一方、伏見AFレジストリでは、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアの危険因子がすべてリスクとはならないということや、体重50kg以下がリスクとなることが示されている。したがって、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアを日本人にそのまま当てはめることは、必ずしも適切ではないということが示唆される。
 本研究では、5つの大規模心房細動レジストリ(J-RHYTHM Registry、伏見AFレジストリ、心研データベース、慶應KiCS-AFレジストリ、北陸plus心房細動登録研究)のデータを統合した。非弁膜症性AF患者1万2,127例について、登録時の観察項目・リスク項目を単変量解析後、ステップワイズ法、Cox比例ハザード法を用いて多変量解析し、心原性脳塞栓症における独立した危険因子を検討した。また、各因子についてハザード比に基づいてスコアを付与し、その合計によるリスク評価が実際にCHADS2スコアより優れているかを検討した。
 患者の平均年齢は70.1±11歳、平均CHADS2スコアは1.7±1.3であり、74%の患者に抗凝固療法が施行されていた。脳梗塞発症は2万267人年で226例(1.1%)に認められた。
 各因子の脳梗塞発症について単変量解析を行ったところ、うっ血性心不全、高血圧、高齢、脳卒中の既往、持続性AF、高クレアチニン、低BMI、低ヘモグロビン、低ALTで有意であった。さらに多変量解析で、脳卒中の既往(ハザード比2.79、95%CI 2.05~3.80、p<0.001)、年齢(75~84歳:1.65、1.23~2.22、p=0.001、85歳以上:2.26、1.44~3.55、p<0.001)、高血圧(1.74、1.20~2.52、p=0.003)、持続性AF(1.65、1.23~2.23、p=0.001)、BMI 18.5未満(1.53、1.02~2.30、p=0.04)が脳梗塞の独立した危険因子ということがわかった。
 各因子のスコアはハザード比に基づいて、脳卒中の既往を10点、75~84歳を5点、85歳以上を8点、高血圧を6点、持続性心房細動を5点、BMI 18.5未満を4点とした。スコアの合計を0~4点、5~12点、13~16点、17~33点で層別化し、カプランマイヤーによる脳梗塞累積発症率をみたところ、0~4点の群を対照として有意にリスクが上昇することが示され、C-statisticは0.669であった。抗凝固療法なしの群ではこの結果がより明らかで、C-statisticが0.691と、CHADS2スコアでの0.631、CHA2DS2-VAScスコアでの0.581より高く、リスク評価法として予測能が高まったと言える。
 今回の結果から、日本人の非弁膜症性AF患者の心原性脳塞栓症リスク評価として、今回の5つの因子による評価法が従来のリスク評価法より有用と考えられる。しかし、今回のC-statisticの値はリスク評価法としてはまだそれほど高いわけではなく、客観的指標(BNPレベル、心エコーの値など)を追加することでさらに予測能が高まるのではないかと奥村氏らは推察している。

心房細動治療、アブレーションの先を行く「左心耳部分切除」(2016年11月)

2016年11月12日 06時35分50秒 | 心房細動
 内服薬では、ワーファリン→ NOAC。
 カテーテル治療ではアブレーション、冷凍凝固。
 心房細動の治療は日進月歩です。
 最先端は、この「左心耳部分切除」でしょうか・・・

■ 心房細動の新外科治療で「抗凝固薬やめられる」
2016年11月8日:読売新聞
 1年前に「 心臓切断!?でも大丈夫…人体の不思議 」を書きました。都立多摩総合医療センター心臓血管外科部長の大塚俊哉さんが取り組んでいる心房細動の新しい外科治療の話です。先日、その基になった治療法を開発した米・テキサス大学重症心不全センター心房細動外科部門教授のランダール・ウォルフさんが来日した際、お話を聞きました。
 心房細動は、心臓の一部である心房が細かく震える不整脈の一種。最も怖いのが、心房内で血流がよどんで血栓ができ、脳に飛んで脳梗塞を起こすことです。命にかかわりますし、重い後遺症が残ることも多いからです。その予防のため、通常、血液をかたまりにくくする抗凝固薬を服用します。従来はワーファリンという薬が中心で、食事制限があったり、処方量の調整が難しかったりと欠点がありましたが、近年、そうした問題を改善した新しい薬が次々と登場し、急速に普及してきています。
 そうした状況は日本も米国も同じですが、抗凝固薬を飲んでも脳梗塞が完全に防げるわけではなく、副作用で出血が起きやすくなります。ウォルフさんは「心房細胞の怖さは過小に評価されている。抗凝固薬さえ飲ませておけばいいということでなく、もっと積極的な治療を考えるべきだと思う」と主張します。最近、たとえ脳梗塞にならなかったとしても、心房細動が認知症やうつ病を合併しやすいことも分かってきたそうです。心房細動は心臓の病気ですが、同時に「脳の病気」とも言えるのです。
 ウォルフさんや大塚さんが行っている手術では、心房細動の原因となる電気信号が出ている部分を焼く「アブレーション」に加え、血栓ができやすい「左心耳」という心房の一部を切除するのが最大の特徴です。左心耳と血栓の関係は以前から知られていましたが、安全かつ確実に左心耳を切る手術方法を開発したのがウォルフさん。「10年余りで1500人以上に実施しました。アブレーションをしても心房細動が再発することはありますが、左心耳を切ることで脳梗塞はほぼ100%予防できており、抗凝固薬は一生不要になります。万一、脳梗塞になった場合の医療費なども考えると、1回で済む私の方法が抗凝固薬より費用対効果も優れている」と自身の治療法のメリットを強調します。
 このウォルフさんの方法を改良して日本に導入したのが大塚さん。ウォルフさんの方法は少し胸を切り開きますが、大塚さんは患者の体への負担をさらに減らすため、すべて内視鏡下で行う方法を開発しました。これまで600人以上に行い、ウォルフさん同様、良い治療成績を収めています。とはいえ、こうした治療法はまだ知る人ぞ知るという状況で、すべての心房細動の患者が適応になるわけでもありません。ウォルフさんは「薬物療法を行っている医師は、私の治療法を知らなかったり、知っていても興味を示さなかったりすることが多い」と言います。それでも、ウォルフさんのもとには世界中から、大塚さんのもとにも日本全国から、この治療法を知った患者がやってくるそうです。
 今後の課題はウォルフさんも大塚さんも、同じ治療をできる医師を増やすこと。見よう見まねでできる治療ではないので、信頼できる外科医に少しずつ広めていきたいということです。ウォルフさんは米国のほか、スペインにも治療の拠点を設けていますが、「将来は大塚さんと協力してアジアをカバーする心房細動の治療拠点も作りたい。また日米共同研究として、たとえば左心耳切除組織を利用した遺伝学的なリサーチも考えている」と展望を語っていました。遺伝的に心房細動になりやすい人が事前に分かれば、効果的な予防策や早期治療につながりそうです。


<関連HP>
大塚 俊哉先生:記事一覧(Medical Note)
本当に怖い心房細動と戦う新しい治療法「WOLF-OHTSUKA低侵襲内視鏡外科手術」
低侵襲完全内視鏡下心房細動根治手術(日本不整脈外科研究会)
孤立性心房細動に対する完全内視鏡下手術(大塚俊哉)2012