ペダルが途端に軽くなった
手元の座標軸を見ずとも感覚で分かる 宇宙に出たのだ
自然と息が熱くなる 鼓動は高まりサドルを握る手に力が入る
いや落ち着け まだ旅は始まったばかりだ
そう自分に言い聞かせても身体が勝手に反応する
俺は今 宇宙にいるのだ
感慨に耽る俺を警告ブザーが忠告する まだ重力圏を抜けたわけじゃない
緩む顔を無理やり修正してペダルを踏む
やはり軽い。一踏みで500メートルは進む
最もそれ程高速で進んでいる感覚はない
眼前の漆黒は容易に距離感を狂わせる
現在の位置は地球から700メートル
目標の月まではおようそ38440000メートルといった所だ
先は長い
だが必ず辿り着いてみせる
少年の思いを乗せて自転車は月へと進む