砂蜥蜴と空鴉

ひきこもり はじめました

♯134 海賊

2006年08月01日 | ログ

パイレーツ・オブ・カリビアン見てきました。

小粋なジェットコースターストーリー。

おすすめです。

スタッフロールが流れ終わって最後のワンシーンは古典的だけど面白いよなぁ。

ビースト・ウォーズでも見た気がする。


♯133 2分30秒の春

2006年08月01日 | ログ

どんな人間でも一生に二回、愛される時期があるらしい。

俺、稲垣京介にも2分と30秒の短さではあったが高校、思春期の文化祭の折にそれは訪れた。

「好きな人、いますか」

こんな社交辞令の一言で愛されてると思う程、馬鹿じゃない。

だが彼女の言葉は好意とか期待とかを感じさせない

ただ、ただ、答えを欲しがる懸命さに溢れていて

彼女が自分を好きなのだと、その声だけで悟った。

好きな人はいない。

俺は答えた。

それは事実だったし、嘘のない言葉だった。

口づけたい人はいる。

抱きしめたい人はいる。

けれど、その感情の生まれる場所は性欲にすら劣る、寂しさという感情であることに

当時の俺は気づいていた。

「私はあなたが好きです」

心の底から沸いた感情は安堵だった。

嬉しいとは違う、初めてこの世界に生まれてきたことを許されたような、そんな気分。

誰かに必要とされる自分。

誰かが欲してくれる自分。

お前はここにいていいのだと、初めて言われた、そんな気分。

俺は心の底から彼女に感謝した。

そこに幸いはあった。

気の迷い、錯覚、あるいは好意という感情に何の意味がないとしても

彼女は自分に光を見出してくれた。

そこに幸いはあったのだ。





2分30秒後。

俺は彼女に謝罪の言葉を投げつけた。




あれから五年が経った。

俺は大学に進学して卒業して、就職した。

その間にも何度か自分を好きになってくれた人との出会いがあったが

俺はその全てを断った。

嫌いではなかった。

だが彼女達の言葉には、あの時彼女が俺にくれた懸命さはなく

そんな言葉になびく自分は、光をくれた彼女に対して酷く失礼だろうと考えたものだ。



好意を拒絶する自分を好きになる人は減り

その数がゼロになった時、みっともなく俺は愛を欲し始めた。

風のない夜、布団に包まれ、何故か泣く日が増えた。



自分はあの時、どうして彼女の気持ちに応えなかったのか。

どうして応えられなかったのか。

不釣合いの天秤。空っぽの自分。

やがて訪れる終わりへの悲観。

周囲の目。

殻を壊される怯え。

どれもが正解であり間違いなのだろう。



半年後、彼女は別の男の告白を受け付き合い始めた。

彼女の心を占めていたはずの自分が別のものに置き換えられるのに

半年という時間は短いのか、長いのか。




どんな人間でも一生に二回、愛される時期があるらしい。

次に愛される時が来て、自分はそれに応えられる人間になっているだろうか。

いつか来る未来。

それを春と呼ぶのなら、俺は懸命に咲き誇る花々に俺は何かを贈れるだろうか。


あの日の2分30秒は未だ俺に問い続けている。