砂蜥蜴と空鴉

ひきこもり はじめました

いのちだいじに

2004年07月06日 | ログ

勇者ならば死ななかっただろう

だが俺は勇者ではない。無論魔法使いでも、ない。

無職32歳、独身。

ステータス画面にはこんな感じで表示されるはずの、そんな人間

そしてステータス画面にはこう表示されているだろう

「戦闘不能」

スズキハジメはダンプカーに追突した。スズキハジメは死んでしまった

メッセージはこんな感じだろうか

俺は勇者ではない

当然俺を轢いた男は蘇生の呪文を使えないだろうし野次馬達は警察を読んでも大神官を呼ぶことはないだろう

つまりはここで終わりってことだ

ゲームオーバー。

ボクス

2004年07月05日 | ログ

「『適切』が肝要なのよDJ」

戦略担当のマネージャーは言った

「亜高速のフットワークやメガトン級の破壊力もいらないわ。
 
 ただ適切な状況で適切な一撃を相手に与える。それがボクシングよ」

頷く。彼女の言葉はデータ上でも私の電子脳による思考演算の結果とも一致する

「イエスマム。『適切』が肝要です」

彼女は私の返答に満足そうな笑みを浮かべた

「今回の相手はディジェⅦ型。追加兵装のレールジャブに注意して」

Ⅶ型。つまりは私より七回り程優秀な新型ということになる

データ上での彼我の戦闘能力差は実に35倍

勝率に至っては小数点の五つ程数えてようやく数字が出てくる程だ

だがそんなものは関係ない

適切が肝要なのだ

タイミングよく、必要な力で、殴る

戦闘用アンドロイドの兵装は例え骨董品クラスの旧式でも十分な破壊力を持つ

フロアの音楽が切り替わる。始まりの合図だ

「頑張りなさいDJ。そして勝ちなさい」

頷く。そして答える

「イエスマム。私にとって戦場は適切な場です」

メス

2004年07月05日 | ログ

メスは暴れる

悲しみを喰らうように

細型の金属片は孤独を嫌い皮膚組織を泳ぎ回る


血が 出る

メスはその血流を川と捉え自らを一匹の魚に例える

肉を喰らいながら つまりは裂きながら

メスは泳ぎ 暴れる

悲しみを喰らうように

身体を苛め抜く

川より海へ至ろうと

喜劇と悲劇

2004年07月04日 | ログ

ここにある、喜劇と悲劇
つまりは楽しいこと、悲しいこと
貴方はどちらを選びますか?
笑えるということは、素晴らしいこと
だけど同時に、悲しいこと
心が満たされていなかった、証拠だから
涙を流すことは、悲しいこと
溢れ出すほどの悲しみが、この身体にあった証拠だから
だけど涙のある世界は、やはり素晴らしいものだから
ここにある喜劇と悲劇
貴方はどちらを選びますか?
笑えますか?心の底から
その意味を知り、笑うことが出来ますか?
涙を流せますか?
そこにある悲しみを知り、泣くことが出来ますか?
そしてひとしきり泣いた後
また笑って走り出せますか?

鷲の扉

2004年07月03日 | ログ
今日は旅の御方。長い旅の途中の御方。
貴方が開いた扉は「鷲の扉」
故にここは「鷲の世界」となりませう。
この世界の住人は二人。
鷲と兎で御座います。
正確に申し上げますれば『頭を無くした鷲と羽を無くした兎』で御座います。
彼らが何をしているか気になりますか旅の御方?
あれは欠けたるモノを探しているので御座います。
鷹は自らの首より上を一日中探し回り、兎は無くした筈の羽を捜しておるので御座います。
兎に羽はあるのか、とおっしゃいますか?
もちろん羽などありません。
兎は羽を持たぬさだめ。
されど彼の兎は自分の羽を捜します。自分の頭を捜すあの猛禽のように。
あの鷹は最初から頭部を持たず生まれました。
しかし彼は捜すでしょう。鷹に頭はあるはずなのだから。


乾いた猫

2004年07月02日 | ログ

水分は彼の猫には、一滴たりとも残されていなかった

毛の抜けた頭部から干乾びた爪先にいたるまでの、徹底した乾き

首に括られた鈴だけが憂いを帯びた光沢を放っている

「・・・これは一体・・・」

隻眼の紳士が搾り出すような声を出した

傍らのエドヴァード婦人は既に気を失い身体を後ろに控えていた召使に任せている

成るほど。確かに「人あらざる殺人だ」

私は周囲の環境情報を記憶素子により結い上げ脳内に一つの本を作り出す

タイトルは「乾いた猫の物語」

そうしておこうか。

寝不足な海

2004年07月02日 | ログ

鯨は目を赤くしたまま沈んでいった

誰も彼を責めなかった

海が眠りを忘れてから既に120日

誰もが睡眠を欲し、だが眠れずにいた

鯨が沈んでゆく

誰も彼を責めなかった

それは海の終わりを意味していたけれど