僕は、生まれつき、色が分かりません
色の区別がつきません
色盲とか色弱とかいうものです
赤は明るい色には見えないし
黄色や白の方が、よっぽど明るい色に見えるし
だから、大事な箇所を赤ペンで、アンダーラインって
ぜんぜん意味分かんなかったし
赤のランドセルと黒のランドセルを間違えて
女の子のランドセルを背負ってしまったこともあったし
グレーとピンクを間違えることがあるし
だから、桜が満開になっても
正常な人に比べたら、ぜんぜん奇麗に見えてないと思うし
子供の頃から、医者にはなれないよって言われたし
顔色も分かんないんだから当然だし
絵を描くときは、クレヨンや色鉛筆や絵の具に書いてある
「~~いろ」の文字をいちいち確認しなきゃ間違えちゃうし
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あれは、中三の美術の時間
色のトーンの授業の時だった
一人一人に、数枚の色紙が配られ
それを、トーンの濃い順に並べてゆくというものだった
クスメイト達は、さも簡単に、できてしまった
ところが、僕は、さっぱり分からない
いくら目を凝らしても、全部、同じに見えてしまう
焦ってしまって、額に汗がにじんできた
そこへ、美術の女性の先生がやってきた
「あ、宮尾くん、どうした?まだできてないの?」
僕は、ただうつむいているだけだった
クラスに、僕の目のことを知ってる女子がいた
その子が、先生に、そのことを、そっと話してくれた
すると、先生は、クラス中に聞こえるような声で
「横山大観だって、色盲なんだよ
だけど、あんなに素晴らしい絵を描くじゃない?
だから大丈夫、宮尾くん、大丈夫だからね」
って言ってくれた
僕は、そんなこと言われて
ますます胸がいっぱいになってしまって
結局、その授業が終わるまで、ずっと泣いていた
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あれから数十年経って
最近、ふと思い立ち、ググってみた
「横山大観 色盲」で、検索してみた
だけど、ぜんぜんヒットしない
そんな記事、一つも出てこない
横山大観が色盲だなんて、嘘だったのだ
先生が、僕を励まそうとして
勇気づけようとして
嘘をついたのだ
僕は先生の嘘をずっと信じていた
先生の嘘のお陰で
僕はずっとずっと頑張って来れた