土曜出勤日の帰り間際
スタッフから、プリントが渡された
月曜日の仕事内容、メンバー、持ち物等が書かれてあった
苗箱洗い作業となっていた
メンバーには僕の名前があった
断ってもいいのかなって思った
だって、農作業でしょ?
僕、そんなこと、やったことないし
なんか、やだーーって思ったけど
とりあえず、準備して月曜日、出勤した
スタッフが運転する車に従業員達が乗って現地に着いた
流れてる小川の脇にブロックを置いて
そこに腰掛けて、苗箱をブラシでゴシゴシ洗った
雨の後だったらしく、長靴は泥んこまみれになった
5月の太陽がジリジリと照り付けていた
汗が身体中から噴き出してきた
最初から、やりたくない仕事だから
テンションも上がらないし
なんで、僕、こんなとこで、こんなことしてるんだろうって思った
おまけに、色盲だから、苗箱の色と泥の区別がつかないし
あーーーーーーやだーーーーー
って思いながら、とりあえず、手だけは動かしてた
そしたら、スタッフに注意されてしまった
「宮尾さん、一つの苗箱に、何分かかってんの?」
もう、ただでさえ、イヤな気分なのに
スタッフに、イヤミったらしいことを言われて
僕は、もう、ブチ切れそうになっていた
だけど、そこへ、どこから来たのかHさん
小川を挟んで、真向かいに、腰かけて、作業を始めた
40代半ばくらいの、ごっつい体型の、ちょっと、ゴリラみたいな体型の
男性従業員、Hさん
なんで、Hさんがここに来たんだろうって思った
他にも、場所は沢山あるのにって思った
僕のこと、心配して来てくれたのかなあって思った
よく分かんないけど
でも、Hさんが近くに来てくれたせいか、少し気が楽になった
やがて、帰りの時間になった
ところが、今回の車は新品らしく
泥んこの長靴のままじゃ乗れないと言うことだった
他の従業員さん達は、別の靴に履き替えていたが
僕は、そんなこと知らないし、泥んこの長靴のままだし
どうなるんだろうって思った
そしたら、Mさんが、ベテラン女性従業員のMさんが
この袋で長靴くるんでしまえばいいよって言ってくれた
僕が、ボーっと立ってたら、右足上げて~って
そして、右の長靴を袋で包んで縛ってくれた
そしたら、今度は若手従業員のMくんが、左足を
同じように、包んで縛ってくれた
お陰で、車に乗ることができた
会社に戻って、お昼休みに、パンを食べ始めた
そしたら、なんか、知らないけど
僕の目から、涙があふれてきて止まらなくなってしまった
僕の前に腰掛けて作業始めてくれたHさんも
長靴を包んで縛ってくれた、ベテラン女子Mさんも
文学青年Mくんも、その他にも沢山いる従業員さん達・・・
なんで、みんな、こんなに優しいんだろうって思った
なんで、僕に、こんなに優しくしてくれるんだろうって思った
だって、僕は、もう、こんな仕事、絶対やらないって決めてるのに
苗箱洗いなんて、こんな仕事、次回は絶対、断ろうって決めてるのに
この会社だって、早く辞めたいって思ってるのに
そんな僕を、みんな、
フォローしてくれて、助けてくれて、支えてくれて・・・
なんか、僕、みんなに申し訳なくて
この仕事、断って、この会社、辞めたら
従業員さん達の優しい気持ちを裏切ってしまうことになるんだよね
だけど、僕はもう、後戻りできないんだ
もう、決めたんだもん
決めちゃったんだもん
パンを食べながら、心の中で
「ごめんなさい」って、つぶやいた
めちゃくちゃ優しいみんなに
大好きなみんなに
「ごめんなさい」って
そして「ありがとう」って
何度も、何度も、くり返した