すとれすの唄 母の西瓜(すいか)
起
すぐに引き取って その医師は院内電話で告げたのだった
とほうに暮れた霊安室のわたし
れいきゅうしゃをどうやって呼んだのだったか
すべてが終わったのに 始まったばかりのような死者との時間
承
すぐに帰ってくるから そう連絡があった定期検査入院
とおい病院なので、多忙なので そのまま忘れていた息子
れんらくは深夜 とつぜん飛び込んできたのだった
すっかりやつれはてて重篤(じゅうとく)になって 母、院内感染!
転
すいかばかり食べていたね ずっとずっと前のひと夏
とまどいながら息子は黙っていたけど
れいぞうこを占めた丸っぽの西瓜
すくっては食べ、すくっては食べだったね ひと夏
結
すじの通らなかった白い巨塔 多臓器不全の解剖所見
とりかえしたいよ、母! たとえ寝たきりでも
れいぞうこを丸っぽの西瓜で埋めて 汁一滴でも吸わせたい
すでに亡くなって三十ニ年 おっかさん、また夏だよ
●ご訪問ありがとうございます。
「多臓器不全」という言葉を、母の解剖後、医師から伝えられました。一つの臓器と限定できず、多数の臓器が機能を失って亡くなったのですと、抑揚のない口調で説明されました。なぜそのようになったのか、原因は探れませんとも言われました。
母は、スイカが大好きでした。膝に抱えて、大きなスプーンで食べていました。それが食事代わりでした。
夏になると、店先でスイカを見ると、その情景がよみがえってきます。