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ほいほいとぼとぼ日記・爺爺刻々

小樽のラーメン屋 麺亭見晴らし坂ばなし 第六話

坂を降りてくるユニフォーム姿はタクシー運転手の田原さんだ。冬は店の前は車が通れないので、上の駐車場においてくる。見かけによらず(失礼)澄んだ声の元気の良いおネーさんである。

こんにちは~雪晴れのいい天気ね。でも、街は観光さんが来なくなってがらがら。しようがないね。今日は塩にしようかな。塩で大盛りね。今年は雪が少なくて助かるね。え、いつまであの車に乗ってるのかって?だって、会社がまだまだ無理だって。マスターの言ってるのは、東京みたいな車でしょ。ロンドンのタクシーみたいなやつね。あれはガソリンでLPGと比べると燃料費が高くなるらしいし、4WDもないんだよ。やっぱ、4WDだけど、それは夢の夢。今日も坂をお尻フリフリ走るよ。でも、ここの坂は4WDでも雪降ったら登れないっしょ。だから、冬期は通行止めだけどさ。本当に小樽の坂は半端ないね。

そうそうこの間、突然、予約が入ってさ、聞いてみたら14年前に乗ってくれたお客さんが、私を指名してきたんだよ。聞いたことある名前だなってとは思ったけどね。調べる暇がなくてさ、そのまま築港に迎えに行って。お名前聞いて、ドア開けて、少し足が70歳くらいの男性で、顔と声で思い出した。ご夫婦で神奈川から来た人でね、半日観光してもらったのよ。でも、今日は旦那さん、お一人。前と同じコースを行きたいと。奥さんは?とは聞きづらくてね。でも、昨年、亡くなられたそうでさ、小樽にまた行きたいというのが口癖だったんだって。でも、病気もあって来られなかった。今日は横にいると思って楽しみますとおしゃってさ。一番の思い出は、オタモイの駐車場での夕日なんだって。変なとこ連れてったでしょ。秋だったし、あそこからの海が好きだからね。残念ながら冬は封鎖されているってお話して。ああ、雪で行けないんですかって、そうですよね。あの坂はきつかった。それに、夕日とセットで見たいですからね。また、来ましょう、ってさ。いいなぁ、焼き付いてるんだよ、夕日と奥さんがね。そんな人、いないっしょ?どう、どう、どうなの?ハハハッハァ。

爽やかな笑い声をあとに、白い息を吐きながら坂を登っていった。一歩一歩を確認するように、歩く。今日もこれで良いんだよと自分に言っているようで、前向きな姿が田原さんらしい。

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