「青鬼灯」(あおほおずき)、「青蘆」(あおあし)、青がつく季語は、たいてい夏である。山本健吉『基本季語五〇〇選』では「青麦」だけが春。「茉莉花」(まつりか)、「夏茱萸」(なつぐみ)、それにしても季語の読み方は難しい。読み方は音韻に関係する。しかし季語のなかに埋め込まれている「青」「花」「鬼」「灯」といった文字記号が、意味とは別のところで俳句を楽しくしている。
7月1日
国の〈外〉危うい合意で鰹釣
7月2日
黒南風が汗だくで木陰に逃げる
7月3日
命かけまぶれると云ふ蚊の声で
7月4日
最高っす浮葉のうゑでヨガ舞踏
7月5日
キッチンで黴の香が死の舞踏
7月6日
背に重い因果を潜る源五郎
7月7日
爽やかの語尾を浸して小暑和え
7月8日
初蝉を遅れて羽化する解脱かな
7月9日
伽羅蕗やカタストロフを灰汁で煮る
7月10日
泣き言を空に響かす青田道
7月11日
飛魚や目がウインクの低飛行
7月12日
双魚図を尾ひれで歩く金魚玉
7月13日
青蘆で可視化される通り雨
7月14日
生きかたが青蘆の野を低飛行
7月15日
朝曇り羽織って魔界散歩する
7月16日
吊り革に微熱で揺れる青鬼灯
7月17日
青鬼灯路面電車にゲリラ雨
7月17日
とゞろきが夜空をはぐる初浴衣
7月18日
餡蜜やダブルベースの甘え方
7月19日
不在から事実を脱いで戻り雨
7月20日
茉莉花を跳ねる白鍵だけのミサ
7月21日
夕空に毬のごと蹴りあげメロン
7月21日
メロンに戻ろう思索に網みかけて
7月22日
羅やあげくの裾でためらへり
7月22日
なびかせて吐息のさきで羅を
7月23日
海いこいヤギ婿に会う大暑かな
7月23日
犬搔きでぬるい閑を泳ぐ大暑
7月23日
クロールでゆるい坂を泳ぐ大暑
7月24日
バテぎみを岩塩で揉む初茄子
7月24日
暮れなずむ地平を焼いた初茄子
7月25日
川凪いでビルを見あげる船料理
7月26日
帰省する窓に生きざま干してから
7月27日
青空が呆れかへるや夏雲雀
7月28日
蝉の殻で無常が鳴く古城跡
7月29日
甘いタレのみで口説くか土用鰻
7月29日
失恋を裂いて串刺し土用鰻
7月30日
夏茱萸をななめに通る雨にわか
7月30日
ぬめる「う」のディープキス土用鰻
7月31日
白クマが奏でるピアノ氷水