黒い液体に立つ泡のおいしさに目覚めたのは、たしか南フランスのカマルグ、サント・マリー・ド・ラ・メール Saintes-Maries-de-la-Mer 教会前広場でのことだった。泡がおいしい飲みものといえば、ビールに抹茶、だがコーヒーも負けてない。きめ細かい泡が、とにかくいとおしい。
聖女サラ目覚める泡のエスプレッソ
サント・マリー・ド・ラ・メールは Maries とマリアさまに複数のsがついている。「海の聖女マリアたち」これがフラミンゴと野生の白馬がいるカマルグ湿地帯の先端、地中海に面したところにある小さな町の名前なのだ。マリアたちとは、聖母マリアの妹マリア・ヤコベ(イエスの叔母になる) 、十二使徒のヤコブとヨハネ兄弟の母のマリア・サロメ、そして召使サラである。召使サラは黒いマリアと呼ばれ、ロマの人たちの信仰を集めている。5月の巡礼祭には、カタロニアやアンダルシアなどからもたくさんのストリートミュージシャンやダンサーがやってくる。かれらはギターと手拍子のいわゆる「ジプシー音楽」と「フラメンコ」でこの街をにぎやかにする。ジャズ・マヌーシュ(パリの若者たちは伝統的なヨーロッパのジプシー音楽と南北アメリカのリズムとが融合した音楽をこう呼んでいる)の聖地でもある。わしのなかでは黒いマリアの像と、教会を出た後で広場の見えるカフェで飲んだ泡立つエスプレッソがどうしても重なっている。
エスプレッソ黒いマリアの泡を飲む