ー続きー
3人の中学生の男の子達は、言った。
お店がオープンする前から、そしてオープン後も、この店舗のことは、学校ではちょっとした話題だったらしい。
変な大人が1人、島にやって来て、何かを始めている、と。
彼は苦笑した。
島は一つの小さな村社会なのだ。
何でもお見通しだ。
彼らは、意を決して、
今日の部活の後に見に行こうということになった。
明日学校でみんなに報告しなければならないらしい。
しかし、店は閉まっていて、まだ中に人がいるかどうかさえ、分からなかった。
3人はじっと様子を伺っていた。
そこに彼が奇跡的にやって来たのだ。
彼は、
「せっかくだから、Tシャツ見ていく?」
と、聞いた。
見たいと言ったので、心ゆくまで時間をあげた。
そんな大きな店舗ではない。
すぐ終わるだろうと思ったら、案外時間がかかった。
なかなか戻って来ない。
3人とも、
こんなの見たこともない、と言った。
映画やドラマの中の有名人みたいだ、と言った。
こうやって、最初の訪問客があった。
土曜日も、
日曜日も開けていたというのに、
彼らは平日の、しかも暗くなって店が閉まった後にやって来た。
彼らの帰り際、
また、他のクラスメイトも連れて来て良いかと聞くので、
「もちろん」
と、いつものあの穏やかな笑顔で答えた。
それから3年、
まだその店舗は続いている。
その島で。
時々、東京から新たな商品が届く。
最初に作った棚と机に納得が行かなかったので、その後も何度か作り直し、日曜大工が趣味になってしまった。
2〜3ヶ月に一度のペースで作り続け、店内の家具は時々変わった。
今では自前でソファも作り、壁越しのその一角を結構気に入っている。
新しく家具を入れ替えるたびに、不要になった棚や机を自宅の自室に置いて使っていたが、次々に増えるので、両親や親戚に配り、知人にプレゼントし、それでも余るようになったので、手頃な価格で販売するようになった。
そういった家具の置き場もまた、知人の漁師が自分の倉庫を提供してくれた。
でも、やはり一番大切な場所は、あのTシャツ屋だ。
その後も、初めてのお客様である、あの中学生達がクラスメイトを連れてやってきて、可愛らしい彼女さんを連れてきて、先輩の若者漁師を連れてきて、島の外からも若者が来るようになった。
彼にしたら、
ちょっとしたことだった。
今では、島を歩いていると、自分が売ったTシャツを着て歩く若者を見かけることがある。
夕方に、若者漁師達と一杯やるようなことがあると、うちで買ったTシャツを来て、嬉しそうに、そしてちょっと恥ずかしそうにやって来る。
ちょっとしたことなのだ。
東京の店舗で働くスタッフ達を思った。
どうしてるかな。
大都会の中の、忙しい最中でも、
ちょっとした嬉しさや喜びを感じてやっていっているだろうか。
今では、彼のTシャツ選びの目も変わってきている。
最新の、都会の雑踏やモダンな高層ビルに映えるファッションである必要はない。
この島の若者達が喜んでくれるような商品を選ぶ事にしている。
Tシャツ以外にも、ちょっとみんなが喜びそうな雑貨や置物などのアイテムがあれば、取り寄せてみる事にしている。
今では、このTシャツ屋が、若者達の寄り合い所になっている。
若者達が仕事を終え、
部活を終え、
勉強を終え、
ここに集まって来る。
彼らが笑顔で話す。
笑っている。
少し誇らしげに。
そんな笑顔を、
横でそっと、
あのいつもの静かな微笑みで見守っている。
それが、彼の、
ほんの真心なのである。