えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

年上のあなたへ②高2の花火大会

2018-08-11 21:47:39 | 書き物



当たり前のことだけど、高校に合格したら優ちゃんは来なくなった。
それでも、高校の入学式の日には来てくれて、制服を褒めてくれたけど。
「入学おめでとう。制服、似合ってるじゃん」
両親が離れた時、勉強してた時みたいに話してくれて、嬉しくなったのについ憎まれ口を叩いてしまう。
「これからはJKだからね。カッコ良くて若い彼氏作って遊ぶんだ。」
チェックのミニのプリーツスカートを、ひらっとさせて見せる。
「合格したとたん、それか。勉強に付いて行ける程度に遊べよ。出ないと、次の受験で困るのは結だからな」
…久しぶりに結って呼んでくれた!
入学したことよりも、新しい制服を着たことよりも、私の名前を優ちゃんが呼んでくれたのが一番嬉しい。
かあっとなっていく顔を手のひらで押さえて、見られないように俯いた。
「…どうした?」
私が俯いたからか、優しい声で聞いてくれる。
こんな風に、時々優しくしてくれるから、優しい目で見てくれるから、私は諦めきれないんだよ。
ずっと付き合ってる彼女がいるのに…
新しいスマホに優ちゃんのアドレスを入れ、一緒に自撮りで写真を取って、その時は別れた。
もう、会う理由の無い人だけど、メッセージを入れてもいいかとお願いして。


高1の年はあっという間に過ぎた。
定期試験、大学前入試に向けた模試も、早々に。
文化祭には、クラスの何人かでバンドを組んでステージに立った。
優ちゃんには、その時々でメッセージを送ったけど…
返事は来たり来なかったり。
バンドのメンバーとの写真を送ったら、彼氏出来たかって言って来た。
確かに、メンバーに男の子はいる。
写真で隣にいたりもする。
でも、彼氏なんかじゃない。
ただのバンド仲間なのにな。
クリスマスには、バンドのメンバーとパーティーをした。
また写真を送ったら、
「お酒は飲むな」の一言。
もちろん、飲まないよ。
素敵なワンピースを着たから、そこを見て欲しかったの。
そんな、時々のメッセージのやり取りをするだけで、会うことも無く日々が過ぎた。
私から連絡しなかったら、きっと切れてしまう関係。
だから、たいした反応がなくても、私からメッセージを入れるの。



高2の夏。
4人になったバンドのメンバーと、県で1番大きな花火大会に出掛けた。
私を含めて女の子2人、男の子2人。
ドラムとベースの2人は付き合ってるけど、ギターの僚くんと私はただのバンド仲間。
でも、こんなふうに出掛けると結局2人2人になる。
バンドは楽しいけど、こういうのはほんとは好きじゃない。
僚くんがどう思ってるかは、分からないけど。
花火の打ち上げ場所は、大きな川の広い土手。
観客は川を挟んだ堤防から花火を見る。
堤防に繋がる公園が、花火大会の会場になっていてあちこちに屋台が出ていた。


公園の入り口で、花火大会のロゴが入ったうちわを受け取って、堤防に向かう。
途中、僚くんがラムネを飲みたいと言い出して、カップルの2人を先に行かせた。
まあ、2人になりたがってるのが、ありありだったから。
「私、ここで待ってるよ」
待ち合わせ場所用の、ノボリが立った大きな木の下。
久しぶりに着た青い朝顔柄の浴衣に、小さな巾着バッグでキョロキョロしてたとき。
「おっ久しぶりだな」
振り返ると、優ちゃんが目の前にいた。
色んな音がするのに、その声だけはちゃんと聞きとれる。
だって、好きな人の声だもの。
周りには、大人の男の人や女の人。
5、6人はいるかな。
みんな、私のことをニコニコしながら見てる。
どうして?
「あなたが、優の生徒さんね、可愛い~」
どうみても優ちゃんより年上な女の人。
なんで、私のこと知ってるんだろ。
「先輩、びっくりしてるから…」
優ちゃんの、先輩?
「ごめん、ごめん。私優太くんの会社の先輩なの。あなたのことは、優から聞いてるよ」
「え…どんな話、したの?生意気で出来の悪い生徒とか?」
「そんなこと言ってないから。優秀で可愛いってだけ」
からかうような笑顔。
いっつもこうなんだから。
「ウソばっかり…」
他の人もいるから、いつもの憎まれ口も出て来ない。
ちょっとふくれた顔をしたら、目の前まで寄って来てくれた。
その距離、15センチ。
小さな声が、私だけに聞こえる言葉を紡ぐ。
「ウソじゃないよ。結は優秀な生徒だった。浴衣、似合ってる。しばらく会わないうちに、大人っぽくなったな」
そう言って、ニコニコして見つめられて、あっという間に頬が赤く染まってしまった。
そんな私を見る優ちゃんの目が優しくて、胸が苦しい…
そこへ、僚くんがラムネを抱えて戻って来た。
「結ちゃん、誰?」
不審な顔をするから、しようがなくて紹介した。
「えーと、この人は優太さん。私の家庭教師…だった人。で…」
「あ、俺、結ちゃんのバンド仲間の吉井です」
「あ、よろしく。結、彼氏か?」
「違うよ!バンド仲間って言ったでしょ」
ぷーっと頬を膨らますと、優ちゃんの先輩さんが声を掛けて来た。
「ごめんね、お友達と花火見に来てるのに。そろそろ行くわ。ほら、優」
「あ、ああ、分かりました。結、またな。2人とも気をつけて」
そう言うと、会社の人達と行ってしまった。
「じゃあ、結ちゃん、俺たちも堤防に行こう」
「うん…あの2人と合流出来るかな」
たぶん、出来ないと分かってて口に出した。
だって、さっき彼氏と言われてから僚くんの様子が変なんだもの。
もう、ほんと余計なこと言わないでよ。



優太

結が高校に合格してから初めて会ったのは、
会社の人達と来た花火大会の会場だった。
それまでは、たまに結が寄越すメッセージに返事をするくらい。
バンドか…
高校生活、楽しんでるじゃないか。
脇にいる男は、彼氏か。
カッコいい彼氏作るって、言ってたもんな。
ジーパンにTシャツ姿の文化祭のステージも、ミニのワンピースを着たクリスマスも。
結は、どんどん大人に近づいて行く。
それを見て、嬉しい気持ちと戸惑う気持ちが浮かんでくる。
俺は、いつまでも結に子供でいて欲しいのか…
送られてくる写真には、結の脇にはいつも同じ男が写ってる。
いつも同じように結とくっついているのに、モヤモヤするのはなぜだろう。
俺は結の何になった気なのか。
職場の先輩にその写真を見られたから、結のことを数学を教えてた生徒だと答えた。
「可愛いね。こうやって写真送って来たりするんだ。慕われてるねえ」
先輩の三原さんは、職場でも目立つ美人で、サバサバしていて付き合いやすい。
今回の花火大会も、何人かに声を掛けてまわって、みんなで来ることになった。
「慕われてるかどうか…まあ、他人だけど兄みたいなものですよ」
「そう?こんな写真、いちいち送って来るのに?一番最近の自分を、見て欲しいんじゃないの」
花火大会の会場を歩きながら、三原さんが突っ込んで来る。
写真送って来るぐらいで…兄じゃなきゃ、何だって言うんだ。


「あれ?ねえ、あれその生徒さんじゃないの?」
待ち合わせ場所としてノボリがたくさん設置されてる、大きな木の下。
青い朝顔柄の浴衣でキョロキョロしてるのは、間違いなく結だ。
さっき話してた結が、目の前にいる。
俺はちょっと、高揚した気持ちになった。
「おっ久しぶりだな」
声を掛けると、まん丸な目を見開いてビー玉みたいだ。
どうして?なんで?と、口に出さなくても分かる。
「あなたが、優の生徒さんね、可愛い~」
先輩…やめてくれよ、結のこと喋ったのははずみなんだから。
案の定、自分のことを生意気とか出来が悪いとか言って来る。
しようがない。
近寄って、
「結は優秀な生徒だった。浴衣、似合ってる。しばらく会わないうちに、大人っぽくなったな」
本当のことを言ったつもりだった。
でも、言ったとたんの結の目が気になってしまった。
数学を教えていた時、時々向けられた目。
この目を見るとなぜかそわそわしてしまうんだ。
そこへ、いつも結の隣に写ってた男が、ラムネを持って戻って来た。
僚くん、ねえ。
わざわざ紹介してくるからつい
「彼氏か?」
なんて、言ってしまった。
結は怒ってふくれてたけど、僚くんとやらはちょっとその気がありそうに見える。
花火大会で2人きり。
俺がアイツの立場なら、告白でもするところだ。
…どうするんだろう。
気にしても、しようがないか。



すべての花火が終わり、観客がぞろぞろと帰路に着く。
俺たちも出口に向かって歩いていた。
あの待ち合わせの大きな木の近くまで来た時。
通りしなにチラッと見ると、青い朝顔柄の浴衣が見えた。
え?と2度見をしたら、1人でぼーっと立ってるのは間違いなく結だ。
「先輩、先に帰ってて下さい。俺、ちょっと」
三原先輩も結を見たようだ。
頷いて先へ行ってくれた。
「結、1人か?連れはどうしたんだ」
「優ちゃん…」
浴衣は少しヨレ気味で、顔を見ると目尻に涙のあと。
「…何かあったのか?」
「…何も。私が悪かったんだ」
「悪いって何が。とにかく、一緒に帰ろう」
手を差し出すと、躊躇いながら手を出してきた。
ゆっくり歩きながら尋ねた。
「何があったんだ」
「…花火を見てたの…そしたら」
「そしたら?」
「僚くんが耳元で何か言ってきて…え?って横を向いたら」
「ああ…」
「キス、してきて」
やっぱり、アイツは結に気があったんだ。
「びっくりして顔を引いたら、肩を掴まれてまた…」
「それで、そいつはどうしたんだ?」
「私、そのまま走って置いて来ちゃったの」
最初なのに積極的なヤツだな…
でも、気持ちを確かめもしないで、それは…
「私は仲良くしてるバンド仲間だと思ってた。でも…僚くんは違ってたみたいで」
マズイ、泣き出した。
まさか、泣くとは思わなかった。
「私、思わせ振りだったのかな。一緒に、花火大会とか来ない方が良かったのかな」
滴がたまった目尻を、指で拭うと俺をじっと見て来る。
胸を苦しくするその目…
結からその目で見られると、どうしていいか分からなくなる。
俺は、たじろいで目を逸らした。
「初めてのキスだったのに…」
また、ぽろぽろと滴が落ちて立ち止まってしまった。
「しようがないよ、僚くんてヤツがどうするかなんて、ここに来るまで思ってもいなかったんだろ」
「そう、だけど…」
「ほら、もうすぐ公園の出口だ。家まで送るから」
「家まで?そんなことしなくて大丈夫だよ。私そんな子供じゃないから」
「そんなに泣いてるのに?子供じゃないなら尚更だ。浴衣の女の子を、1人で帰すわけには行かないだろ。」
まだ何か言いたそうにしてる結の手を引っ張って、家まで送った。
玄関から出る俺を見送る結にはもう、中学生の生徒の面影は無かった。












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