ユーラシアウァッチ:ロシアから見る世界情勢

ロシアは一帯一路の地政学的要所。米中対立や中東対立のキープレイヤー。マスコミのロシア情報は貧しい。その致命的穴を埋める。

北方領土国後で外出禁止違反の住民に罰金 コロナ拡散防止体制を強化

2020-04-12 15:01:12 | 北方領土
国後島でロシアサハリン州が実施する外出禁止違反を犯した住民に平均月収の半分近い額の罰金が科された。同島で外出禁止違反で罰金が科されたのは初めてのケースである。
同島住民二人に対して500ルーブル、三人に対しては1万5000ルーブルの罰金が科せられた。4月10日付でsakhalin.infoが伝えた。
ロシアで公衆衛生行政を担当する消費者権利保護・福祉監督庁(ロスポトレブナドゾル)の規定に従えば、地方政府の外出禁止令を違反した場合住民に1万5000~4万ルーブルの罰金が科される。2019年のサハリン州における平均月収は8万8000ルーブルであり(3月4日付 sakhalin.info)、罰金の最大額は平均月収の半分弱にあたることがわかる。
ロスポトレブナドゾルの規定によれば、国外あるいはロシア国内の他の地域からサハリン州に入域した人々は14日間の隔離観察対象となる。ロシアが実効支配のもとサハリン州の一部として管理する国後島、色丹島のすべての居住地点では内務省機関職員と地域のボランティアにより毎日巡回パトロールが行われ、外出禁止違反者が厳しく取り締まられている。
現在延期中の日本からのビザなし訪問に際しても、現行の制度が適用されるなら訪問者は同様の外出禁止措置の対象となる可能性が高い。(4/10)

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色丹の水産加工場建設にはアメリカも参加 プーチンはコメントに窮していた?

2019-09-11 17:03:08 | 北方領土

 各紙が報じている通り9月5日当方経済フォーラムの枠内で、プーチン大統領は色丹島に建設された水産加工施設のオンラインプレゼンテーションに立ち会った。安倍晋三首相との会談直前であったため、北方領土への実効支配を強める立場を示す牽制として受け止められた。
 例えば9月5日付日経新聞の記事は、プーチンが北方領土でさらなるロシア企業設立を推進したかのように報じている。
「色丹島の水産加工場は、水産・建設などを手がける北方領土最大の企業ギドロストロイが色丹島穴澗(あなま)に建設した。稼働を祝福したプーチン氏は、こうした施設はこれが最後ではないとの期待を表明し、今後も北方領土のインフラ整備を進める姿勢を示した」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49431960V00C19A9000000/
 しかしロシア連邦大統領公式サイト(http://www.kremlin.ru/events/president/news/61445)でビデオカンファレンスの場面を確認してみると、プーチン大統領がこの色丹の「水産加工場」については歯切れの悪いコメントになっていることがわかる。まず「こうした施設はこれが最後ではないとの期待を表明し」の部分だが、プーチン氏は「我らの極東でこれが最後の新設企業ではないと期待している」といったに過ぎない。わざわざ「色丹」や「南クリル(ロシアは北方領土をこのように呼ぶ)」という新設企業立地地域への言及を避けている。
 そもそもこの色丹の水産加工場プレゼンテーションは、極東で行われている経済プロジェクト4つの紹介のうちの一つという位置づけである。そのほかにも、このオンラインプレゼンテーションでハバロフスク国際空港の新ターミナル、ヤクーチアにおける銀山の開発、アムール州におけるガス化学コンビナートが紹介されている。
 日本のプレスでは報じられていないが、プレゼンターは「この水産加施設の建設は国際プロジェクトとして実施され、アイスランドの技術が用いられるとともに、米国の専門家も参加した」と述べている。ちょうどその場面でプーチン氏が、気まずそうに頭をかくシーンがあり印象深い。
 現状ロシア市民が居住する地域でのインフラ整備は大統領として歓迎するが、このタイミングでアメリカも参加した国際プロジェクトとして色丹の水産加工場を見せられることは本意でなかったこともありうる。
 これまで実効支配を強調するための現地の訪問は大統領時代も含めてメドベジェフに一任してきたことからも、プーチン自身が北方領土とのコンタクトすることに慎重であることは明らかだ。
 ロシア極東の市民や地域発展にかかわるステークホルダーは概して、プーチン大統領による北方領土引き渡しの可能性を懸念している。6月の日ロ首脳会談の前にも「新設の小学校のロシア国旗を降ろす気か」と記者に詰め寄られ「そんな計画はない」と答えに窮した場面があった。それが日本では「プーチンが北方領土を引き渡す気はないと強気の発言」と報じられた。
 https://blog.goo.ne.jp/eurasiawatch/e/f8060ac8729b5110549320c57ce32d5e
 交渉相手国の要人発言については、言葉を正確に訳し、発言した際の表情まで分析するようなモニタリングが必要である。 
 そうでないと引き出しうる妥協さえも失うことになりかねない。
 

プーチン「(北方領土)引き渡さない」とは言っていない 

2019-06-24 15:42:17 | 北方領土
「プーチンが国営テレビのインタビューで北方領土を引き渡す計画はないといった」と報じられている。
例えば24日の産経オンラインは<「(日本に引き渡す)計画はない」と述べた>と言い切っている。
そして「引き渡す計画はない」とプーチンが言ったことを前提に、菅官房長官も「粘り強く交渉」とコメントしている。

実は、このインタビューでプーチンは「北方領土を引き渡す計画はない」とは一言も言っていない。
インタビューは恒例の国民直接対話の後、行われた記者会見中のもの。
北方領土を取材してきたばかりの国営テレビ「ロシア1」のインタビュアーが「南クリル(訳注:彼らはこう呼ぶ)では、。あちらでは皆一体どうなるのかと心配しています。新しい学校もできたし、道路の整備も進んでいる。子どもたちは学校にロシア国旗も掲げたんです。この国旗を降ろすということになるんですか?」と厳しく突っ込む口調で、プーチンをにらむように見据えて聴いた。
それに対してプーチンは苦笑いして「そんな、そんな(旗を降ろすなんて)計画はありませんよ」と答えただけだ。

「旗を降ろす」は確かに「主権を明け渡す」ことの同義だろう。
しかし「引き渡し」という語は、プーチンが何度も言っているように、そして悲しい事実ながら日ソ共同宣言に書かれている表現である。
「引き渡し」は「主権の返還」を必ずしも意味しない、という解釈が法的には成り立ちうる。
だからプーチンは「小学校の旗は降ろさないけど、条件付きで二島は引き渡す」ということくらいは頭の片隅にある。
確実に言えるのは、このインタビューでプーチンは「引き渡さない」とは一言も言っていない。
小学校の国旗を降ろす云々について「そんな計画はない」といっただけだ。
そして真正面からにらんでくるテレビ記者に対して、珍しく目をそらすように苦笑いして答えたプーチンの表情が面白い。
あまり、こういう表情を見たことないなあ。
インタビューの動画リンクを下に張ったので、表情だけでも見てみてください。少しかわいそうにすらなってきますよ。(開始1分あたりから)

https://www.vesti.ru/doc.html?id=3160663#/video/https%3A%2F%2Fplayer.vgtrk.com%2Fiframe%2Fvideo%2Fid%2F1914687%2Fstart_zoom%2Ftrue%2FshowZoomBtn%2Ffalse%2Fsid%2Fvesti%2FisPlay%2Ftrue%2F%3Facc_video_id%3D801845


ちなみに以下は大統領公式サイトに掲載された、ほかの記者からの質問に対する回答。
こちらの記者は、遠慮がちに領土問題を取り上げずに聞いている。
プーチンは「期待するのは対話の継続」と言っているように、今回で条約締結できるとは思っていない。
「最終決定を先送りするような問題」というのは意味深だ。おそらく共同ウラジオストクからの記事のようなことを念頭に置いているのではないか?


6月21日国民直通対話後の記者会見
質問(訳注:ロシア1チャンネルでは、日本の報道機関からの質問と紹介されている):日ロ首脳会談はすぐ目の前ですが、安倍晋三氏を友人とお呼びですね。今回の訪日に期待することは何でしょうか?いくつもの会談が予定されているだけでなく、日本のロシア文化年・ロシアの日本文化年の終了式もあります。何かサプライズは期待できますか?例えば畳の部屋に招待されたり、温泉に入ったり。

プーチン:畳の部屋とか温泉というのは、国際関係において最重要サプライズではありませんね。もちろんそういうのも重要で、面白いことではありますが。雰囲気をよくする効果はありますので。
 日ロ首脳会談に期待することですか?対話の継続ですね。シンゾウは私達同様に、関係の完全な正常化と平和条約締結を望んでいると信じています。もうあと一歩で手が届きそうに思うのですが、そこで最終決定を先送りにするような問題が突然に生じるようなことがよくあります。
 でも疑いようもなく、私は何度も言ってきたことですが。日本の代表者としての安倍晋三首相もロシアも日ロ関係の最終的な正常化を望んでいるのです。日本国民もロシア国民もそれを願っているのです、その最終的な正常化を目指していきます。
ありがとうございます。