ユーラシアウァッチ:ロシアから見る世界情勢

ロシアは一帯一路の地政学的要所。米中対立や中東対立のキープレイヤー。マスコミのロシア情報は貧しい。その致命的穴を埋める。

プーチン大統領 シリアのモスクにコーラン献納でイスラムとの連帯を示す

2020-01-08 11:55:31 | 中東におけるロシア
プーチン大統領 シリアのモスクと東方正教会訪問でイスラムとの連帯を示す
 
 1月7日プーチン大統領はシリア・ダマスカスを訪問しアサド大統領との会談を行った。プーチン大統領はダマスカス空港到着後すぐにロシア軍の駐留拠点へ移動し、同拠点においてアサド氏が直接プーチン大統領を迎え、両氏揃ってシリア国内情勢についての報告を受けた。
1月7日付でロシア大統領府公式サイトが伝えた。
今回の訪問で注目すべきは、プーチン大統領がロシア軍駐留拠点訪問後、アサド氏とともに世界最古のウマイヤ・モスクを訪問し記念に17世紀のコーランを献納した、という事実だ。このモスク訪問については、1月8日現在日本のプレスはほとんど報じていないようだ。
1月7日付タス通信によれば、この際にウマイヤ・モスク博物館長がプーチン氏を案内し、「洗礼者ヨハネの首」の展示を紹介した。洗礼者ヨハネはキリスト教からもイスラム教からも崇敬の対象とされている。
その後プーチン氏はシリア正教会の聖母マリア教会を訪問しシリア正教会主教とも会談した。同種教に対してプーチン氏は聖母マリアのイコンを献納した。同主教は、シリアにおいては多様な宗教が共存し平等な権利を認められている、と強調した。このモスクと東方正教会訪問は、中東イスラム国全体に対してロシアが連帯する意思を示したものとして象徴的である。これら宗教施設の訪問は実務的な観点からは表敬訪問以上の意味を持たないように思われるが、米国がイランとの対立を通じて中東諸国との溝を深めている現状においては、「ロシアの中東との絆」を強める外交的な効果を持つ、巧みな振る舞いである。
なお、ペスコフ大統領補佐官によれば、プーチン大統領は今回のシリア訪問についてトランプ米大統領と情報共有はしない意向を示している。(1月8日付https://riafan.ru)

イラン・スレイマニ司令官殺害をめぐるロシアからの反応 英雄視する声も根強い

2020-01-06 13:08:47 | 中東におけるロシア
1月3日、マクロン仏大統領の呼びかけでプーチン大統領は電話会談に応じ、中東情勢に関して意見交換した。
同日付ロシア大統領府公式サイトによれば、両大統領は、アメリカによるバクダッド空港ミサイル攻撃によるイラン革命防衛部隊司令官スレイマニ氏殺害が中東情勢を深刻な混乱に導くことを懸念する姿勢で一致した。
1月5日ロシア下院国際問題委員会のアレクセイ・チェパ副委員長は、イランが核合意離脱を表明したことについて「スレイマニ氏殺害によって生じた状況は軍事衝突、イランによる核開発プログラムの歯止めの利かない発展につながりうる」と懸念を表明した。
一報中東情勢に詳しい現代イラン研究センターのサファロフ所長は「イランが核兵器開発に突き進むとは思えない。イランで軍事用核技術開発を推進する決定は取られていない」と指摘する。
同時にサファロフ所長は「最大の問題は(合意離脱により)、イランが核開発プログラムで何を行っているのかチェックするすべがなくなったことだ」と述べる。

ロシア国内ではスレイマニ氏の殺害を批判するだけでなく、同氏の対テロ戦英雄としての業績を肯定的に評価する声も強い。
1月5日在モスクワイラン大使館前では、スレイマニ司令官追悼集会が開かれ、イラン、イラク、シリア等中東諸国出身者約50人が集まった(同日付イズべスチア)。
「奴らはスレイマニを殺害してこれで終わりだと勘違いしている。スレイマニ司令官は我々に道を示し、偉大な英雄となるための生き方の見本となったのだ。殺害者達にはそのことが分かっていない!」とアリと名乗る追悼集会参加者は言う。
1月6日付イズべスチア紙報道によれば、ロシア連邦防衛省はスレイマニ氏殺害を「近視眼的行為」として批判すると同時に同氏を「対テロリズム戦での疑い難き功労者」と評価する声明を出している。

大晦日ロシア・ウクライナ大統領電話会談 捕虜交換には「第三者」を貫くプーチン

2020-01-02 10:03:11 | ロシア 軍事

 12月31日プーチン大統領はゼレンスキー・ウクライナ大統領と電話会談を行った。
両国の大統領府リリースは、両大統領が「新年のお祝いのあいさつを交わした」ことを認めている。29日の捕虜交換の後、そしてウクライナトランジットガス供給契約が締結された後だけに、この大晦日電話会談で融和ムードが醸成されつつあるかのように見える。
 しかし両大統領府のリリースを比較してみると、両国の間の隔たりの大きさの方が目立つことがわかる、
 まず電話会談が成立した経緯だが、ウクライナ大統領府は単に「ゼレンスキー大統領はウラジーミル・プーチンロシア連邦大統領と電話会談を行った」としているのに対して、ロシア側は「ウクライナ側の発意に応じて」と示し「先方からのお願いに応じてやった」感がほのめかされている。
 捕虜交換についてロシア側は「12月9日のノルマン方式四者会談の合意どおりに、確認されたすべての捕虜を相互にという原則でキエフとドンバスの間で行われた」(河川部EW)と、あくまでもロシアが第三者であり「捕虜交換はウクライナ東部の独立共和国とキエフの間で解決済み」とにおわせている。
 それに対してウクライナ大統領府リリースは捕虜交換の実施を肯定的に評価しつつも「電話会談においてクリミアおよびロシア領内にいるウクライナ国民を含めたウクライナ国民の解放とウクライナにいるロシア国民の解放のための対象者リスト調整に早急にとりかかることでも合意した」と述べる。クリミアに現在位置しているウクライナ国民が「拿捕された」と同じであることをほのめかし、「捕虜」とは呼ばなくとも「拿捕された者」の解放に向けて交渉はこれからであることを強調している。
 ロシアはクリミア在住者を「拿捕された」状態とは認めておらず、ゼレンスキー大統領の認識に沿った交渉を実現するための法的枠組みはない。ロシア大統領府リリース通り、ウクライナ側から持ち掛けた電話会談だとすると、ゼレンスキーにとってはタイミング悪くやってしまった「新年の祝辞」であったかもしれない。

 ちなみに写真はゼレンスキー・ウクライナ大統領の国民に向けた新年あいさつ動画(同じく大統領夫妻とより)の一こま。
 カジュアルな服装で、物腰も俳優らしく、映像もフランクな作りです。
 https://www.president.gov.ua/ru/videos/novorichne-privitannya-prezidenta-ukrayini-1637
 芸能人らしい人々も動画に登場し「少し軽すぎないか」という場違い感もありますが、これがゼレンスキースタイルなのでしょう。

 プーチンの新年あいさつは歴代大統領と同じクレムリンで厳かに、静かな調子で行われました。
 https://www.president.gov.ua/ru/videos/novorichne-privitannya-prezidenta-ukrayini-1637