ユーラシアウァッチ:ロシアから見る世界情勢

ロシアは一帯一路の地政学的要所。米中対立や中東対立のキープレイヤー。マスコミのロシア情報は貧しい。その致命的穴を埋める。

日露共同記者会見録 省略されたプーチン発言「ロスアトム」「海底ケーブル」 

2019-06-30 09:52:09 | 日露交渉 

 日ロ首脳会談について「領土交渉進展せず」との報道が目立つ。しかし、少なくとも四島でのごみ処理と観光をやろうという話になっているのだから、交渉は進展している。正確に言うならば「領土の貴族問題」「平和条約問題」の交渉が今後も継続、ということである。
 経済交流案件ではヤマルLNGプロジェクトのシェアを三井・JOGMECが取得するというが一番大きいのは間違いない。しかしプーチンは記者会見で、ロスアトム、CANON等の固有企業名を挙げた経済協力に言及している。しかし、その部分が産経新聞の記者会見録からは省かれている。そして「ロシアが欧州―日本間データ通信のハブとなる」ための「新たな新潟―ナホトカ海底ケーブル」というプロジェクトへのプーチンの言及も、この会見録では省略されている。速報だから訳し漏らした、というだけでは説明が難しい、大幅な省略である。
 以下、ロシア大統領公式サイトに掲載された会見録と比較してみたい。

<EWによるロシア大統領公式サイトからの記者会見録和訳>
 ロスアトム(訳注:ロシア国営原子力事業者)のラインで福島事故被害の処理のための作業も続いています。使用済み燃料の処理、および第三国における共同事業についても一連の提案が検討されています。高技術分野での連携も強化されています。CANON社がロシアで最新診断装置の生産を開始するための工場建設に関する合意も結ばれました。
 議題には、日本―ヨーロッパ新高速データ通信チャンネルの構築に関するプロジェクトもあがりました、このプロジェクトの一環としてナホトカから新潟につなぐ海底ケーブル建設も想定しています。

<産経に掲載された共同記者会見速報>
東京電力福島第1原発事故の処理のための協力も続いてますし、使用済み核燃料を第三国における共同事業などが検討中です。ハイテクの分野における2国間の交流が深まっています。日本の会社がロシアにおいては企業を建設するという合意ができて、新世代の機器の生産を軌道に乗せることを促進します。
https://www.sankei.com/politics/news/190629/plt1906290034-n2.html

 比較してみるとわかるとおり、産経の速報では、「ロスアトムのラインで」とプーチンが国営原子力事業者名を明示したところを省略している。
 そして「使用済み燃料処理を第三国で行う」かのような書きぶりになっているが、これは誤りである。プーチンは「使用済み燃料処理についての協力」および「第三国での(燃料の取扱いを含む原子力事業)の協力」を言っている。
 さらにはプーチンが強調する協力の一つとしての「ナホトカ」「新潟」海底ケーブルについて、産経の記者会見録では省略されている。実は今回の首脳会談に際して合意された文書の中に「ロシア連邦経済発展章と日本国経済産業省間のデジタル経済協力協力計画」があり、この中にデータ通信関連協力も含まれるようだ。
 制裁下にあり停滞しがちな「日露経済交流」関連の交渉は確実に進展している」と評価したい。
 


プーチン「(北方領土)引き渡さない」とは言っていない 

2019-06-24 15:42:17 | 北方領土
「プーチンが国営テレビのインタビューで北方領土を引き渡す計画はないといった」と報じられている。
例えば24日の産経オンラインは<「(日本に引き渡す)計画はない」と述べた>と言い切っている。
そして「引き渡す計画はない」とプーチンが言ったことを前提に、菅官房長官も「粘り強く交渉」とコメントしている。

実は、このインタビューでプーチンは「北方領土を引き渡す計画はない」とは一言も言っていない。
インタビューは恒例の国民直接対話の後、行われた記者会見中のもの。
北方領土を取材してきたばかりの国営テレビ「ロシア1」のインタビュアーが「南クリル(訳注:彼らはこう呼ぶ)では、。あちらでは皆一体どうなるのかと心配しています。新しい学校もできたし、道路の整備も進んでいる。子どもたちは学校にロシア国旗も掲げたんです。この国旗を降ろすということになるんですか?」と厳しく突っ込む口調で、プーチンをにらむように見据えて聴いた。
それに対してプーチンは苦笑いして「そんな、そんな(旗を降ろすなんて)計画はありませんよ」と答えただけだ。

「旗を降ろす」は確かに「主権を明け渡す」ことの同義だろう。
しかし「引き渡し」という語は、プーチンが何度も言っているように、そして悲しい事実ながら日ソ共同宣言に書かれている表現である。
「引き渡し」は「主権の返還」を必ずしも意味しない、という解釈が法的には成り立ちうる。
だからプーチンは「小学校の旗は降ろさないけど、条件付きで二島は引き渡す」ということくらいは頭の片隅にある。
確実に言えるのは、このインタビューでプーチンは「引き渡さない」とは一言も言っていない。
小学校の国旗を降ろす云々について「そんな計画はない」といっただけだ。
そして真正面からにらんでくるテレビ記者に対して、珍しく目をそらすように苦笑いして答えたプーチンの表情が面白い。
あまり、こういう表情を見たことないなあ。
インタビューの動画リンクを下に張ったので、表情だけでも見てみてください。少しかわいそうにすらなってきますよ。(開始1分あたりから)

https://www.vesti.ru/doc.html?id=3160663#/video/https%3A%2F%2Fplayer.vgtrk.com%2Fiframe%2Fvideo%2Fid%2F1914687%2Fstart_zoom%2Ftrue%2FshowZoomBtn%2Ffalse%2Fsid%2Fvesti%2FisPlay%2Ftrue%2F%3Facc_video_id%3D801845


ちなみに以下は大統領公式サイトに掲載された、ほかの記者からの質問に対する回答。
こちらの記者は、遠慮がちに領土問題を取り上げずに聞いている。
プーチンは「期待するのは対話の継続」と言っているように、今回で条約締結できるとは思っていない。
「最終決定を先送りするような問題」というのは意味深だ。おそらく共同ウラジオストクからの記事のようなことを念頭に置いているのではないか?


6月21日国民直通対話後の記者会見
質問(訳注:ロシア1チャンネルでは、日本の報道機関からの質問と紹介されている):日ロ首脳会談はすぐ目の前ですが、安倍晋三氏を友人とお呼びですね。今回の訪日に期待することは何でしょうか?いくつもの会談が予定されているだけでなく、日本のロシア文化年・ロシアの日本文化年の終了式もあります。何かサプライズは期待できますか?例えば畳の部屋に招待されたり、温泉に入ったり。

プーチン:畳の部屋とか温泉というのは、国際関係において最重要サプライズではありませんね。もちろんそういうのも重要で、面白いことではありますが。雰囲気をよくする効果はありますので。
 日ロ首脳会談に期待することですか?対話の継続ですね。シンゾウは私達同様に、関係の完全な正常化と平和条約締結を望んでいると信じています。もうあと一歩で手が届きそうに思うのですが、そこで最終決定を先送りにするような問題が突然に生じるようなことがよくあります。
 でも疑いようもなく、私は何度も言ってきたことですが。日本の代表者としての安倍晋三首相もロシアも日ロ関係の最終的な正常化を望んでいるのです。日本国民もロシア国民もそれを願っているのです、その最終的な正常化を目指していきます。
ありがとうございます。



イランが公開した米無人機爆撃の動画URL IranMilitaryTube

2019-06-21 19:02:49 | 中東におけるロシア
イランが米軍の無人機を爆撃した動画を公開したというが、どんな動画がどこに公開されたのか、日本のプレスを見る限りわからなかった。
EWがロシアプレスをチェックしたところ、6月20日付Lenta.ru「イランが米軍無人機へのミサイル発射動画を公開」(https://lenta.ru/news/2019/06/20/yest_video/)に動画公開先の情報が見つかる。
動画が公開されたのはIranMilitaryTubeというサイト。

動画の公開されたサイトのURLは
https://t.me/s/IranMilitaryTube

同じ動画はユーチューブでも公開されている。
https://www.youtube.com/watch?v=bS-LgJN62_s

イランが側は米軍無人機が領空侵犯を犯したと主張し、無人機の軌道をアニメーションで示しているが、これだけでは決定的な証拠とは言えない。
冒頭にミサイルを発射する映像もある。
EWとして今回は、動画情報提供にとどめる。軍事技術や中東に詳しいプレスの分析にゆだねたい。
ただ一つ言えるのは、GoogleニュースでIranMilitaryTubeのキーワードで検索しても、このソースを紹介している記事はロシア語のものだけであった。
ロシア語の情報空間からしかアクセスできない情報はまだ多い。





2019年ロシアの北朝鮮への石油製品輸出は増加:「瀬取り」以前の問題として

2019-06-21 08:48:19 | ロシア 北朝鮮
 いわゆる北朝鮮の「石油および石油製品瀬取り」問題に絡んで、国連制裁委の報告書公開をロシアと中国がブロックしたと報じられている。瀬取りによって、2017年に設定された50万バレルの倍以上の石油(及び関連製品)が密輸されているという指摘を含む報告書だ。これが事実なら問題である。
 ただそれ以前の問題として、「瀬取り」ではない正規輸入で、北朝鮮はどれほどの量の石油および関連製品を輸入しているのだろうか。その数字をちゃんと把握しないでは、送料としてどのくらいのエネルギー資源を北朝鮮が得ているのか推計することはできない。
 EWはロシア税関統計から、2018年と2019年現在までのロシアから北朝鮮への関連品目輸出実績をチェックした。

<2019年ロシアから北朝鮮への石油(及び関連資源)輸出実績>
品目コード2710 石油、歴青油、石油の調製品、廃油
品目コード2711 石油ガス、その他のガス状炭化水素

輸出総量
19232.9トン
142323.46バレル*(14万バレル強)

<2018年1月日現在までの輸出実績>
品目コード2710及び2711に加えて
品目コード2713「石油コークス、石油アスファルト、石油や歴青油の残留物」**

輸出総量
27233トン 
201524.2バレル(20万バレル強)

 <EWの分析>
 つまりは、2018年にはロシアだけで50万バレル上限のうち20万バレル近くは公式輸出している。そして2019年前半だけでも14万バレル。
 2019年に入って石油輸出のテンポが増した。このままのテンポで行けば公式輸出だけでも30万バレルくらいいくことになるか。
 それにプラスして中国からどれくらい輸出されているのか、瀬取りの100万バレルを足すとどのくらいになるのか、という分析が必要。
 これは各国の貿易統計を原文で読めればできること。
 ちなみに2019年のロシアから北朝鮮への輸出実績には鉄道関連資材もある。
 朝露(さらに半韓国とつなぐ)鉄道のプロジェクトはあきらめていないこともうかがえる。 

*トンからバレルへの換算式は以下の帝石サイトに基づく
 https://www.inpex.co.jp/ir/unit.html
**2019年のこれまでの輸出実績の中に品目コード2713は記録されていない。

ロシア下院が米ロIFM全廃条約停止法案を可決

2019-06-19 17:29:51 | ロシア 軍事
 6月18日ロシア下院総会において米ロ中距離核戦力(IFM)全廃条約の効力停止を定めた新法案が可決された。本年三月プーチン大統領令提案されたものであり、大統領は5月に法案を提示していた。今回下院は全会一致でこれを可決。ロシア外務省は短中距離ミサイル分野での国防能力再発展を開始すると告げた。同日付で下院広報紙「パーラメントペーパー」が報じた。
 リャプコフ外務副大臣はじめロシア政府関係者は、90年代以来、米国側がこの条約の違反に当たるミサイル実験や無人戦闘機導入、ミサイル防衛網と称したミサイル攻撃力の東欧への展開を進めてきたと批判。
 リャプコフ外務副大臣は、ロシアで短中距離ミサイル実験と試験組み立て作業が再開されると告げた。そのうえで同副大臣は次のように言う。
「それでも我々は米国が同様のことをやらない限り、どの地域にも我々のミサイルを展開することはしません。米国が国際情勢をさらに緊迫化させるようなことをしなければ、ロシアは火薬に火をつけることはしないのです」
 「ロシアが今回取った措置は、意に反してそうせざるを得なかったもので、政府ができる限り先延ばしにしてきたものだ。ロシア大統領は、いつでも条約の効力回復に向けた決定を取る用意がある、ということを強調しておきたい」と下院副議長のピョートル・トルストイ氏は言う。(6/18)

 <EWの解説>
 ロシアの議会制度では下院で可決された法案は、上院の審議を経たうえで閣僚会議で首相の署名を得、官報に公表されなければ効力を持たない。今回の下院における採択は、警告に当たる措置であるとみることができる。
 全会一致で可決された法案であるが、各会派のスタンスは微妙に異なる例えば野党攻勢ロシアは「トランプ政権」の問題として批判し、別の大統領の下でなら再交渉もありうることを示唆している。