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森田童子 高さ

2018-07-21 20:32:46 | Diary
先日、森田童子が亡くなったという報を知って、思わず独り声が出た。

声を上げるほど私の身体のどこか、いや心の奥底に、
いつまでも優しくあり続けるというような人はそれほど多くはなく、
今さらながら彼女の遺した声、歌、曲の数々が私の中に、
このラテン好きの、ブルース好きの、シナトラスタイル好きの、
さらに付け足しておくとピンクフロイド好きの私の中にひっそりと、
まるでいつまでも溶けない感傷の飴が一粒置き忘れたままになっているのを深くに感じた。

私がまだ20歳ごろに、友人がカセットテープを「ほれ聴いてみ」と私に貸した。
いや、もう少し前の高校生の時だったかもしれない。もう当時を明確に憶えていない。
カセットテープには森田童子のファーストアルバム「グッドバイ」が録音されていた。

それで私は初めて森田童子を聴いて、正直に書くと何も感じなかった。
当時その頃私は8ビートのロックしか聴かなかったので、心にまったく届かず、
テープもおそらく一回しか、いやA面B面を通して聴いたかも怪しく、だから
私はせっかく貸してくれた彼に、「○○○○○○○に似てるな」などと、
今思えばとんでもない感想を返し、
早熟気味の彼は「ちっ」とたしか舌を打った。
(○は、森田童子の名とここに並べたくないために伏せ字にした。)

きっと私になら価値がわかるだろうとわざわざ貸してくれたのだと思う。

それから10年ほど経ち、私も彼も森田童子にもいろいろあって、
その間にふとあらためて聴き直したカセットテープ(なぜか返していなかった)の
森田童子の声に段々と魅せられ始めて、その当時は金子由香利も聴き始めていたから、
そういった「しっかりした歌」を聴きたいという私の季節だったのかもしれない。

そのすぐ後だったか、突然、あちこちから森田童子の声が聴こえるようになり始めて、
どうやらテレビドラマの主題歌に使われたらしいということがわかり、
私は結局そのドラマを見ることは今に至ってなかったが、その感性が嬉しかった。

そして同じ頃、早熟気味の彼、
私に森田童子やボブ・マーリー、エラ・フィツジェラルドなんかを初めて聴かせてくれた男。
部屋に行けば、小さな音でジョーパスなんかを聴いていた彼はあっけなく死んでしまい、
私の心に月並みだがぼっかりと穴が空いた。

その後、私にとって森田童子の歌は、私の歳が増えるごとにその存在も増し、
もちろん毎日など聴きはしないが、毎日聴けるほど私も強くはないので、
時々、本当に時々、時間を止めてしっかりと聴いたりする。

昔には、こんな日がくるとは思ってもみなかったYoutubeの動画を今観たりしながら読む
森田童子の動画に書き込まれた同世代の、もしくはもっと上の世代の人のコメントの中に、
それは、誰にでもある多感な時期をからくも8ビートで逃げ切った私とは違い、
当時、うっかりと真正面に森田童子を捉えてしまい、
それをどうしても捨てられずに抱えたまま生きてきて、
今の今でも心の芯はまだそこにあることを感じさせるような吐露を見つけ、
私はバカだなあと思いながらもそれに共感してしまう自分の部分もあり、
会うことも話すこともないであろうそんな人たちの後ろ姿を想って、
暗い気持ちになったり、優しい気持ちになったり、また、
もしかすると何もかも手に入れた人が少しだけ若さの記憶に戻ってみて、
感傷の甘さを舐めているのかもしれないと考えてみたりと複雑ではあるが、
しかしその複雑な部分をすべて切って捨てていくと残ることは何かというと、
森田童子の遺した作品の完成度の驚異的な高さだと思う。
その高さにおいて作品は純粋かつ絶対値だといえる。ゆえに、
聴くべきは感傷ではなく、その高さにある。
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