本と音楽とねこと

8年半前のメール

 野暮用で受信済みメールを検索してたら、8年半前に知人からいただいたメールを見つけた。
 あんときと、なにひとつ変わっていないんだな、と思った。


(前略)

 すみません。ただ、あの日と、いまとの間に横たわる、巨大な深淵を思うと、ぼくはとてつもなく不安になる。面白いのは、ぼくは、約四年かけて、いまの若い人たちの話を、ただただ聞いてきたんですが、彼らの中に、根本的に、ぼくが抱いているのと極めて近しい不安があること。

 存在の傷。

 若い、ということは、いつもそうなのかもしれませんけど。
 ただ、ひとつだけ、いまの若い子供たちとぼくたちの世代が決定的に違っているのは、いまの若い子供たちは、大人になるにつれて、生まれ持っていたものを次々に失ってゆく、それをどうすることもできないということ。
 次々に身につけてゆくのではない。どんどん失ってゆく。
 性欲を失って、購買欲を失って、独占欲を失って、上昇志向は、こりゃ最初から
持っていないか・・・でも、その先には何があるんでしょう?

 去年、Gang of fourの「Entertainment!」が邦盤・外盤ともリリースされました
が、その中の名曲「At home he's a tourist」の歌詞が、いまの日本の状況にあまりにもぴったりなんで正直言って驚きました。
 当時のLPにも対訳はついていたのに、読んだ覚えもあるのに、それほど切実には自分の問題として実感できなかった(失礼、あくまで、ぼくにとってはという話)。20年前のイギリスは、すでにいまの日本なみに家庭崩壊が進んでいたということでしょうか。

 しかし、そのとき思ったんです。どうして、いまの日本に、日本のGang of fourが出てこないのかと。
 それは多分、日本の音楽システムが古いからではないか、バンドをやって、ヒット曲を出して、ひとやま当ててやろうと思っているような連中のエトスは、すでにいまの日本のふつうの若い奴らとはまったく乖離してしまっているのではないか、と。

 ふつうの若い連中は、一方で、音楽なんて単なるBGMだと思っている。意識的に、無意識的に、単なるBGMにおとしめておきたいと思っている。

(後略)

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