買い出し前の冷凍庫

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旅行へ行こう ─帰路の夢の悪戯─

2018-05-06 16:19:56 | 霊ポケ妄想(お話風)
 涼しい気候はどこへやら、夏の気配はすぐそこまで来ている。
 楽しかったこの旅行も終わりを迎え、一同は帰路に着いている。
 子ども達は漏れなく夢の世界で旅の続きをしているようだし、大人達の多くもまた、最後まで旅の延長を求めて意識を彼方へ遣っている。かくいう私も、その一員になろうとしている真っ最中である。
 そんな夢の旅路を妨げるのは、この旅と我々の記憶にスパイスを加えようとする、お馴染み悪戯大好きなこの方々の悪巧みであった。


 『そろそろ良さげッスかね?』

 『……ああ。若干名を除き、ほとんどの者が眠りに落ちた。頃合いだろう』

 『ヒヒヒッ……旅の終わりを名残惜しむ皆様の、その旅行の帰り道。なァんにも無いのはサビシイよなァ』キ

 『……』キ


 いったい何を企んでいるのだろう。非常に気になるところではあるのだが……どうしても、この二つの瞼が開いてくれない。まるで糊付けでもされたかのように、ピッタリとくっついてしまっている。更に、自分を空から俯瞰しているような錯覚に囚われる。意識が、勝手に身体という殻を脱ぎ捨てて、別の世界へ飛び立って行くのがわかる。
 いやいや、落ち着け。彼らと違い、私は単なる人間だ。そんなこと、出来るハズはない。単にそんな気がする、というだけのことなのだろう。まったく、少し期待してしまったじゃあないか。なんともはた迷惑な錯覚である。
 ……ところで。そんな、平凡な私の身体が動かないのは何故だろう。それ以上に、何時になったら私の意識は、夢の国とやらに旅立つのだろう。思考だけ、やたらハッキリしているのだけれど。


 『……よし。そろそろ良いだろう。さあ、皆の者。その目を開けよ……!』


 何?……あら、どうやら、いつの間にか、彼らの術中にはまっていたようですね?
 素直に夢の国へ入国したかったなぁ、という無粋な気持ちを押し留めつつ、瞼の糊を、ゆっくり剥がしていった。


 ……これは……

 ゲン「……アレか。これがニンゲン達の言う、走馬灯ってヤツか」

 マージ「馬鹿言うんじゃ無いの。私達にそんなこと、あるわけないじゃない」

 ヨノワ「ギラティナ様……安全進行に心掛けて、と、あれほど進言したのに……」

 ジュペ「まあ、それはそれで愉快なんじゃない?あ、冗談を言っているうちに、気が付いたみたいだよ!」キ


 ……なるほど、これが今回の悪戯の内容か。そいつァ予想外だぜとっつぁん。いやぁ……困った。何でかね、視界が滲んでいくんだけど。


 ヤミ「よォ!気分はどうだ?ちゃんと……『オレらの声』で、オレらの言ってることがわかるだろ?」キ

 ミカ「「「「……たまにはこういうのも、良いのではないか?と、話が出たのでな。どうだ?我々の今回の『悪戯』は……」」」」

 ロト「まあ、返事聞かなくてもわかるッスねぇ。『お見通し』なんてしなくても」キ


 ……ミカルゲさん、喋るとうるさいんだね


 ミカ「「「「なっ!?」」」」

 ヤミ「あっひゃっひゃっひゃ!開口一番ソレかよオマエ!」キ

 シャン「……彼は、魂の集合体、だからね……」

 メノコ「仕方無いです。初見では、私も戸惑いましたし」


 うわっ!なにその透き通るような美声!音楽でも聴いているような錯覚に囚われる!


 シャン「……」

 メノコ「……」

 ガルド「あからさまに」「照れてますね」「主、どうぞ後ろへ」「このあとどういった展開となるか……「おわかりでしょう?」


 うん、『上は大火事、下は氷河期』を地で行くことになる未来が見えた。失礼します……

 シャン「……!」

 メノコ「……!」

 ガルド「っ……!」「オーバーヒートと……」「吹雪……!」




 ミカ「「「「……とりあえず眠らせておいた。夢の中、だというのに……まったく」」」」

 ガルド「……なんとか」「なりましたね」「お怪我は……」「ありませんか?」

 ……あの、何とも無いです……貴女方も、なんと凛としたお声で……カッコいい……

 ガルド「……」「……」「撃ち抜きますよ?」「切りますよ?」

 この子ら照れ隠し物騒組か……!いえ、あの、失礼致しました。貴女方の素晴らしい技のキレに、少々気が動転してしまいまして。(……あ……火に油を……)

 ガルド「「……」」「「こ、光栄です!」」


 ……ツボがわからん。

 ヨノワ「あっはっは。苦労なさってますね」

 ゲン「何を今更喚いてんだお前……」

 ジュペ「いや~、仕方無いと思うよ?」

 マージ「むしろ、よくこの変化に対応出来ている方だと思うのだけれど。私達でさえ、戸惑ったのに」

 いやぁ、楽しく過ごさせてもらってるよ。滅多に無い、貴重な機会だもんね。

 マージ「滅多に、どころか、もう無い機会なのではないかしら……」

 ジュペ「……あ、折角だからさ、ボクたちキミに聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」キ

 ヨノワ「そうですね。それこそ、良い機会です。貴方、我々の意志を読み取れるようになったのは、いつ頃ですか?」

 ゲン「俺が来た時にゃあもうヨノワ達と会話してたよな?」

 それは……私にもわからないところでして……

 ヨノワ「……フム……頭部の外傷は無し。呪いの類いも見られない」

 ジュペ「不思議だよね~。あ、何かヘンなものでも」

 いや、それは……

 ジュペ「無いみたいだね!」キ

 ヨノワ「では、私達と接触する以前に、『我々』と関わった、というようなことは」

 前?ええと……

 ジュペ「無いってさ!」キ

 ヨノワ「フム……これは手強いですね……」


 ……『お見通し』持ちとの会話がここまで難しいとは……

 ヌケ『……』「大丈夫、そのうち慣れるよ」キ

 !?ヌケニンさんが……喋った……!

 ヌケ『……』「厳密には違うけどね。まあ、何でもアリな夢の中、だからね」キ

 ヤミ「気ィつけろよ。ソイツ、真顔で切れ味抜群なことぬかしやがるからよ」

 ヌケ『……』「えー、非道いなぁ。私が君に、そんなことするわけ無いでしょう?相性的にもさー」キ

 ヤミ「ざっけんな、タチの悪さじゃあ随一じゃねェかテメェ」

 ヌケ『……』「まったく……もう『鬼火』の訓練手伝わないよ?あと、運悪くキミの『おどろかす』に引っ掛かってポケモンセンター送りになっちゃうかもよ?私」

 ヤミ「だァ~~~!そういうとこだテメェ!!」

 ヌケ『……』「ふふふっ」キ


 ……なるほど。よくわかりました。あ、パンプさん!あの子にも話聞きたいな……!



 これは、とあるニンゲンの、とある夢のお話。現実ではあり得ない。いや、あり得たとしても、それは「彼」がニンゲンであるうちには、決して達せられない、遥か遠い未来の話。
 あと少しで、彼らの返るべき地へと到着する。消えていたあの土地も、既に出迎えの準備は整っている。人気も何もない、相変わらずの廃屋ぶりである。しかし、間違いなく、「彼ら」の返るべき場所である。

 ニンゲンは、この刹那の時を忘れてしまうだろう。否、どんなに忘れたくなくても、忘れ去られる記憶なのだ。何故なら、これは、あの四人の「悪戯」なのだから。
 ニンゲンに残るのは、楽しかった旅の記憶と、楽しかったような気がする夢の感触だけ。旅から帰ったとき、友霊達の変化とにやけ顔を見て、ニンゲンは何を思うだろう。「また何かやられたかな?」とかなんとか思うのかもしれない。
 けれど、「彼ら」は知っている。この刹那の時の内容を。そして、「彼ら」はいつまでも、種明かしをしないだろう。ニンゲンが、本当の意味で「彼ら」の仲間となる、その時まで。

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