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買い出し前の冷凍庫

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旅行へ行こう ─このあとお花見をするみたいです─

2018-05-03 01:21:33 | 霊ポケ妄想(お話風)
 季節外れの花見をすべく、多くの人間がこの地方を訪れている。
 もっとも、この地方では、この時期が花見の旬なのである。別の地方で花見が出来なかった者。避暑がてら、もう一度花見をしたい者。それらに加え、元々この地方に住み着いている者達が寄せ集まり、厳かな催しを繰り広げる。そのため、桜の舞い散る公園などでは、人間やそのパートナーたちがひしめき合い、さながら平日早朝の都会駅前のような混雑ともなる。それが、この時期の、この地方ではいつもの風景である。
 しかしながら、今その観光スポットを見回してみても、実に閑散としている。霧雨の降りしきる音が心地よく響く程である。
 そう、今年は生憎の雨なのである。これでは花見どころではない。こんな天気にお花見気分で居るのは、よっぽど「ノーてんき」な者か、「あめふらし」の特性を持つ張本人くらいであろう。大半の者達は、不平不満を抱えつつ、コトブキシティなんかに集まって、大いに散財をして帰るのである。
 そしてそれは、「彼ら」にとっては、それこそ絶好の宴会の場となるのである。


 都会の路地裏というのは、ある意味別世界である。活気溢れる華やかな町並みを「表」とするならば、今彼らのいる薄暗く冷たい路地は、それに対する「裏」と言えるのではないだろうか。
 そんな「裏」の世界とは、この地方に御座します、ある一柱の神が司る世界である。そんな反転世界の神を、タクシーか何かのように利用する不敬な輩は、この人間くらいだろう。本当、慣れって怖いね。



 『はーい、到着ね。んじゃ、俺実家帰るから。何かあったらまた呼んでくれ』

 「うん、ありがとう、ギラティナ様。それじゃあ、みんなも一旦解散しようか。日が落ちるまでに、もう一度ここに集合ね。……迷子にならないようにね?」

 『ええ、わかっているわ。みんなのことはこの私に任せて、貴方も楽しんで来なさいよ♪』

 『それから、無闇にニンゲンを連れて来たり、誘ったりしてはいけませんよ。出発前にお話ししたことをお忘れ無きよう』

 『そうそう、オレらが手ェ出して良いのは、あくまでヤツらの感情だの、夢だの、そういうンだからな』

 『あぁ、わかってるよ。ガキどもにも言い聞かせてあるさ。特に、悪戯と攻撃の違いくらいはな』

 『万一何か起きてしまっても、私と彼とでどうにかするわ。安心してなさい』

 「いやぁ……おっかないなぁ、この会話」

 『……端から見ておっかないのは……無と喋ってる君……かも……』

 「それは君らが姿を消しているからでしょう?」

 『はぁ……何せ、今はお昼時ですからね。我々にとっても仕方のないことなのです。ご了承を』

 『まあ兎に角、早く遊びに行こうよ。ご馳走もそこいらに一杯あるよ!』キ

 『しかも、どうやら今は桜も咲き盛り……これは良いお酒が飲めそうですね』

 『ジメッとしてるところもポイント高いしな!おいロット、早く行こうぜ!』

 『……』(張り切ってるなぁ)キ



 そこには、ひたすらに独り言を呟いている、一人の人間が居た。いや、実際には独り言ではない。目には見えないけれど、そこには確かに、彼の友人達……ならぬ、友霊達が居るのだ。
 私は、自分が先に言った言葉を撤回せねばなるまい。「ノーてんき」でも、「あめふらし」でもない彼らは、このどんよりと、またジメジメした雨天の中、なんとお花見をしに来たのであった。


 暗く沈んだ天気とは裏腹に、彼らの表情は、一部を除き、とても明るく浮き浮きとしたものであった。
 子守り役は、みんなのお姉さんを気取る魔女見習いのムウマ。……そんな彼女を含めて、魔女のような風貌のムウマージ、それから、文字通り影から彼らを見守るゲンガーの二人が引き受けた。
 お花見を誰より楽しみにしていたカボチャのお化け、パンプジンは、同郷の友人オーロットと共に食料調達へと向かった。目的の物は、とっくのとうに見えている。人間達の、雨天や行列に対する不平不満こそが、彼らの宴会の肴となるのである。肴は宴会に欠かせない。二人が張り切って飛び出したのも、無理のないことである。
 花見の場所取りは、雨天により誰より憂鬱な気持ちを抱える炎の霊、シャンデラと、細かな雨が身体に凍りつき、これまた暗い表情を浮かべるユキメノコ。どうやら、いつもこの役を受け持つ霊が別行動しているようで、二人してそっと木陰に佇んでいる姿はとても怖い。
 そんな彼らを引率し、また、無謀にもこのプチ百鬼夜行を引き連れてきた人間の護衛を務めるのはヨノワール。彼は今、これまたお祭り事大好きのジュペッタ、ヤミラミ、ヌケニンと歓談している。
 大人達に誘われて、遠足気分の子ども達は、はじめて目の当たりにするこの地方の風景を、いかにも珍しげに眺めながら、その目をキラキラ光らせている。中には、どのようにして監視を出し抜こうかと模索している子もいるけれど、その企みが影を通して筒抜けとなっていることにまだ気が付いていない。


 「楽しそうで何より。……自分も何か買ってこようかな」


 そんな彼らを横目に見ながら、その人間は買い出しへと向かったのである。楽しそうに、この旅行に対する希望と主観を飛ばし会う、見えない護衛を引き連れて。

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