Entrance for Studies in Finance

CDS取引について 

CDS(credit default swap):CDS transactions with problems to be solved
 defaultが発生したときの損失を肩代わりする約束を取引するもの。貸し倒れリスクにそなえるもの。保証料という言い方もある。金融機関や企業にとってリスク管理に使えるとされてきた。しかしこの間のCDSの激しい値動きは、CDS取引そのものがリスクになるという問題を提起している。 
 2008年6月末の想定元本54兆ドル(5400兆円) これは世界各国のGDP合計額を上回っている。数値はISDAの推定によるもの。現在は相対取引(債権を保有する投資家は保証料を支払って損失回避している。保証料を受け取る側は、債権破綻時に債権を額面で買取り債権の保有者になることを約束している。破綻がなければ保証料はCDS投資家の儲け。また破綻がなければ保証料だけ投資家の収益は小さくなる。破綻時には保証料を受け取った側は権の清算価格を取り戻す。なおCDSを売る側の金融機関は、他方でCDSを買ってリスクに備えている)

アイ・トラックス・ジャパン
 国内主要50社で構成する日本のCDSの代表的指数がアイ・トラックス・ジャパン(2004年7月にそれまでの2つの指数を統合 現在はイギリスの金融情報会社マークイットグループが算出 5年もの保証料率1%を100として合算、50で割っている)である。つまり100なら平均の保証料率が1%にまで膨らんでいる状態。
 この数値は、2008年年頭の120ほどから08年3月に200ほどに上昇(3/17に238.87)。08年5月頃には100以下まで低下したあと上昇(6/25に132まで上昇)。9年3月12日に最高値(565) 6月には140台まで減少。
 日本の市場規模は2007年末で40兆円(3800億ドル)ほどで5年間で約30倍に急速に成長したものの欧米に比べて参加者が少なく市場規模が小さい。そのために市場に厚みがなく流動性に乏しく相場が振れやすい。
 実勢値で100。これは保証料率は1%に対応。つまり50億円投資なら保証料は5000万円。1社デフォルト時の支払いは1億円。100億円投資なら保証料は1億円。デフォルト時支払いは2億円。
 実勢値が150なら保証料は1.5%となる。特定の会社を対象にした取引は取引参加社が少なく流動性に問題があるので指数取引が好まれる。
 ところがリスクに過敏な社会では、指数取引ですらリスクの受け手がいなくなる。買い手はいるので、信用リスクの実態以上に指数が上昇してしまう。
 個別のCDSでは投資家がその企業の財務に懸念があると判断すると価格は上がり、改善されると価格は下がる。その会社の社債の発行コストに反映する。 
 しかし日本の市場が小さい上に、外資系証券会社などの撤退により市場参加社は減る傾向にある。流動性の低さが、個別CDSの値を実態以上に押し上げているとの指摘は多い。
 金融機関にとって、企業の倒産リスクに備えるよい商品、あるいはリスク管理手法と理解されていたが、倒産確率の減少によって価格が下落すること。つまり景気がよくなるときに価格が下落する商品を金融機関は抱え込むことになるという問題が2009年度に入って顕在化しつつある。
 CDSについては2009年9月のリーマン・ブラザースやAIGの破綻時にも注目が集まった。リーマンの破綻によりリーマンを対象とするCDS取引で損失が出る懸念がでた。そのあとはCDS取引が相対取引であるためリスクが高いとして、清算機関を置く必要が議論されていた。
 CDSの流動性の問題やその価格変動の問題など、この商品をリスク管理に使ってゆくには清算機関以外にも課題が多いようだ。

住宅公社救済直後のリーマンの破綻の放置
住宅公社への支援は2008年7月30日に借り手救済策を含む住宅公社支援法が成立したことですでに確定した流れではあったが、2つの公社の再建策は9月7日に発表された(優先株の出資枠2000億ドルを設定 公的管理下に)。5兆3000億ドルをされる多額の米住宅公社債が発行され、その2割程度を海外の民間金融機関が保有しており、破綻がもたらす混乱が懸念された。
 バークレイズとの交渉のためリーマンが出した、NY連銀に対する要望(数日間の取引の保証あるいは融資)をNY連銀が拒否(NY連銀は機械的にバークレイズがリーマンの全取引を引き受けることを求めた)。リーマンは2008年9月15日に連邦破産法11条を申請して事実上倒産した。
なお米政府は2008年3月のベアースターンズ(多額の証券化商品を抱えている FRBの監督外のため直接の資金繰り支援ができない)の破綻に対しては、買い手のJPモルガンチェースに対して最大290億ドルの特別融資を約束した(FRB理事の同意で不良資産を買取る特別目的会社に290億ドル特例融資 将来の損失の事実上肩代わり)。ベアを救済してリーマンを破たんさせた理由は、今も不明だ。
 リーマンブラザースの破綻(2008年9月15日)では損失肩代わりが履行されないとの疑心暗鬼が広がり世界の株価下落に拍車(多数多額のデリバ取引が時価で清算された プライムブローカレッジ取引で預っていた資産をリーマンが取引担保として活用していたためこれらの資産の引き出しができなくなった、リーマンのCPの価値が10分の1以下に下落したため同CPを組み込んでいたMMFに元本割れが生じた)。その後10月10日に判明した清算価格の低さ(8.625%)にもショックが広がった。
 リーマンが絡んだCDSを組み込んだCDOには追加損失が発生する懸念がでた。清算に必要なドル資金の大きさにも関心広がる。リーマンについては当初は4000億ドルと推定。これがドル買いにつながると予測された(海外資産の売却やユーロの下落を呼ぶ)。2008年10月21日にCDSの清算が完了した。発生した損失は60-80億ドル程度にとどまった。これはCDS取引が、重なるほど見かけの元本が拡大していたためとされる。
 また複数のCDSを束ねた合成CDO取引(シンセチックCDO)にも懸念がでた。これはCDSのリスクをさらに分散させるためのものだが、結果としてリスクを広くばらまくことにもなった。またAIGはCDSのリスクの受け手であることから、その救済の不可避性が議論された。そのあとは、CDSが相対取引であることからリスクが高いとして清算機関を設置するべきだという議論が続いた。

リーマン破綻翌日の米政府の変心:市場主義的処理の封印
 その直後のAIGの破たんでは、米政府は全面的に救済にでた。米政府FRBによる最大850億ドル資金支援決定2008/09/16 2年間の緊急融資:つなぎ融資 79.9%の株式取得 民間企業への異例の救済 その後10月9日にFRBが378億ドルの追加融資枠 総枠は1228億ドルになる。
 この破綻ではCDS取引に十分な引当処理をせず保証料を単純に利益として計上している実態がうかびあがった。AIGはCDS市場の中心的存在だった。しかし救済はあったもののどれほどの損失となるかが不透明なため市場の不安が増幅された。相手の損失がみえないために銀行間取引が縮小した(銀行機能の低下)。
 2008年11月10日 AIGの7-9月期決算発表で244億ドルの最終赤字が計上されたことを受けて米政府FRBは、AIGに対する支援策拡大に踏みきった。期間5年の600億ドルの融資 優先株400億ドル分を財務省が取得(保険大手に対する初めての公的資本注入) 新たに設立される不良資産買取会社に525億ドル融資 総額1525億ドルの支援パッケージとなった。

CDS取引について
現状
 取引条件など。標準化されていない。
 市場の規模、誰がどんな取引をかかえているか。わからない。
 相手の破綻で保証が実行されない可能性。
清算機関設置で
 取引条件が標準化される。
 市場の規模、誰がどんな取引をかかえているか。価格(保証料)を含めて透明になる。
 清算機関が肩代わりする。前提は引き当て金積み増し。

相次ぐ清算機関設立
 清算機関ができると損失肩代わり商品の時価がわかるようになる
 シカゴマーカンタイル取引所Gが設立に動いた(08年10月7日にヘッジファンド大手のシタデルインベストメントGとCDSの電子取引市場を創設すると発表 30日以内に取引を始めたいとしたが、2009年3月13日に米SECから清算機関となる認可を得ている)
 10月30日に米インターコンチネンタル取引所はゴールドマンサックスなどと提携してCDSの清算機関を設立するとした。そのためデリバテブの仲介取引を行っているクリアリングコーポレーションを買収子会社化(2009年3月にCDS指数の清算業務に参入)。
 東京証券取引所Gが清算機関設立方針(08年10月28日 斎藤社長が記者会見で正式に表明)。欧州委員会が08年中に加盟国に清算機関設立を提案する考え。
 なおドイツ証券取引所のユーレックスは2009年7月末にヨーロッパで続いて8月にはアメリカでCDS清算取引に参入するとしている。

Written by Hiroshi Fukumitsu.You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Nov.4, 2008.
Corrected and reposted in Aug.8, 2009.

開講にあたって 経営学 財務管理論 財務管理論文献案内
証券市場論 証券市場論文献案内
サブプライム問題
東アジア論 PDF公開論文 研究文献目録
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Economics」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事