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公取委が新日鉄と住金の合併承認(2011年12月14日発表)

経営統合検討開始の発表(2011年2月3日)
 最大手の新日本製鉄と3位の住友金属が2012年10月をめどに経営統合に向けた検討開始について(新日本製鉄 住友金属 2011年2月3日)が2011年2月3日に発表された。
 背景には国内の鉄鋼需要の頭打ち、海外では新興国を中心に需要拡大。また主要顧客である自動車 電機がグローバル展開している事情があった。つまり海外展開を急ぐ必要があり、そのことを視野に大型化が必要であった。
 また原材料価格の高騰。原料炭価格は2002年度比5倍弱。鉄鉱石は約9倍。資源メジャーは国際的再編の結果 大手3社が世界シェア7割を占め価格交渉力を高めている(鉄鉱石についてはブラジルのヴァーレ、英豪系リオ・ティント、豪英系のBHPビリトンの3社。後ろの2社が2009年6月に打ち出した豪西部での鉄鉱石事業統合は国際問題にもなっている)。製造業はコスト意識を強め価格交渉は厳しくなっていた。また急成長する中国勢3社(河北 宝鋼 武漢)とポスコの脅威もあった。
 
 新日本製鉄(社長は宗岡正二氏 粗鋼生産で2009年世界6位 国内に高炉が5ケ所 主取引先は三井物産 メタルワン:三菱商事と双日の共同出資会社 1970年に八幡製鉄と富士製鉄が合併して発足 メーンバンクは みずほコーポレート銀行。三菱東京UFJ銀行も出資)
 住友金属(国内ではJFEスチールに次ぎ3位 JFEは2002年に川崎製鉄とNKKの統合で発足。背鉄と国内に高炉が3ケ所 粗鋼生産で世界で23位 筆頭株主は住友商事 主力銀は三井住友銀行 神戸製鋼所と資本提携 神戸製鋼所を含めた3社は、相互出資 製品の相互融通 環境技術協力などの提携関係にあるが 今回は国内4位の神戸を合併に加えず)
 両社はもともと株式の持ち合い関係があり、2000年ごろから10年に及ぶアライアンス(提携)関係にあった。
 合併実現すれば2010年の規模で世界2位の鉄鋼メーカーになる。1位はアルセロールミタル(2007年 欧州アルセロールミタルの発足) 3位は河北鋼鉄集団 4位は宝鋼集団 5位は武漢鋼鉄 6位がポスコ。合併(連携)によるシナジー効果は1500億円以上、粗鋼生産規模は6000万ー7000万トン規模になるとしている(2010年の単純合計は4830万トン)。

 2011年2月4日 両社の社長が公正取引委員会を訪問 合併審査を申し入れたが、実際の手続きは当時議論されていた、新たな指針(ガイドライン)を先行適用する形で進行した。まず5月31日に一次審査の届け出。30日間の一次審査の後2次審査。最終的には2011年12月14日、公正取引委員会は一部条件付きで認める判断を下した(この進行は事前審査を事実上省いた形。審査は一次審査と二次審査からなり、2次審査の調査期限は最終資料受け取り後90日目の2012年2月7日 両社が審査に必要な追加資料を早い段階でほぼ出し終えたことが迅速な判断につながった 一次審査は30日以内 2次審査は最終資料の受け取りから90日以内に終える必要がある 後述するように法的根拠のない事前審査によって日程が読めないことが企業側の大きな不満になっていた)。
 実は公正取引委員会は合併審査手続きが開始された後の7月から、市場縮小や輸入圧力を考慮する新指針に移行している(新指針の公表は6月14日。法律に根拠のない事前審査の廃止、法定審査に一本化。調達市場が国際化している場合は世界市場で判断 潜在的な海外からの競争圧力を考慮 類似の競合品を考慮 継続的に赤字等の場合は寡占度高くても容認など判断基準の明確化。新たなガイドラインは7月から。しかし新日鉄住金では新制度を先取り運用したとみられる)。二次審査では、国内シェアが高くなる6分野を重点的に審査、国内価格が上がれば輸入が増える、有力な競争者が存在する、需要減少で買い手から圧力がある、などのロジックで合併しても問題がないとした。この判断には新指針が活用された。公正取引委員会が、事業譲渡など条件を付けたのは無方向性電磁鋼板、高圧ガス導管事業の2分野にとどまった。
 合併後、国内粗鋼生産シャアで約4割 一部品種で7割 自動車などに使う熱延コイルで48% H型鋼で45%、護岸工事などで使う鋼矢板で65%と予測された。→寡占度があがることへの需要家産業側・公正取引委員会の警戒 →合併しても過半のシェアとなるのは鋼矢板、シームレスパイプなど一部 韓国中国の鋼材が流入している状況で価格支配力にはつながらないとの考え方 →過当競争による低収益 過当競争是正で投資体力回復との主張もあった。 ⇒H形鋼で輸入圧力 鋼屋板で販売先からの競争圧力を認めて 問題なしとした(あらたなガイドラインが生かされた)。
 ⇒消費者保護と国際競争力のバランスをどう取るか
 ⇒経済団体では国際的な競争実態を踏まえて認定基準の更なる緩和を求めている
 公正取引委員会では合併の届け出を受けて独占禁止法に基づく審査を行った。審査には事前審査と法定審査がありされていたが、事前審査には法的根拠が経済界の不満の種になっていた。今回は事前審査を省き法定審査のみの形にして新指針を先取り運用した。審査ではまず全事業で商品と地理的範囲を確定。取引分野ごとに市場シェアで寡占度が高くなるかをみる。2007年のガイドラインはすでに競争者や輸入・参入の状況を総合的に判断する規定を設けている。

公正取引委員会による承認(2011年12月14日)
 2011年12月14日公正取引委員会は一部事業の譲渡などを条件に合併を承認した。輸入品の流入が競争圧力になるという見方などから統合を認めた。合併承認を受けて両社は2012年10月の発足に向けた作業を加速することになった。
 9月22日の発表によれば合併比率は1対0.735(統合効果は1500億円とされた 当時の時価総額比は住金は新日鉄の52% 上乗せ分はプレミアムとされた)。新会社名は新日鉄住金。合併承認後、新日鉄(世界5位)の宗岡正二社長が会長、住金(同25位)の友野宏社長が社長となる人事を固めた。この人事は「対等の精神」を示し融和を優先したもの。合併により粗鋼生産量でアルセロール・ミタルに次ぐ世界第2位の新会社が実現する。

ブラジルのウラジミナスをめぐる争奪戦(2011年)
 国内の公正取引委員会による審査と並行して注目されたのは、ブラジル鉄鋼大手ウラジミナス(ブラジル首位)をめぐる争奪戦。現在、新日鉄は27.8%を出資。現地財閥2社等との協定で過半を確保していたが、財閥2社が継続保有に消極的なところに現地のナショナル製鋼(CSN)が経営権取得を目指して買いまし緊張した(2011年1月以降漸次市場で取得を拡大)。新日鉄としてこの財閥保有分を買い取ることも選択肢だが、買い取り額が高額になる可能性もありむつかしい判断になるところであった。
 結局、アルゼンチンの鉄鋼大手テルニウム(新日鉄とメキシコで合弁事業展開)が出資することで、関係者が合意(2011年11月27日公表)。ナショナル製鋼が経営権を握る事態は回避された。新日鉄は資源開発での需要をにらみ高性能厚板など高級鋼材の技術をウラジミナスに移転している。
 なお住友金属工業でもブラジルにシームレスパイプを生産する製鉄所をフランス大手と合弁で建設稼働させている(2011年9月)。この場合も狙いは、ブラジルで進む深海油田開発である。

合併の他社への影響
 なお8年に及ぶ3社提携にも関わらず、統合に加えてもらえなかったのは神戸製鋼所(アルミ圧延で国内3位 自動車用パネル材の国内シェアは50%)。2010年末に内々に新日本製鉄からステンレス事業統合の打診を受けながらそれを断った日新製鋼(高炉5位 新日鉄が9%強出資している)。新日本製鉄と相互出資関係にありながら、競争意識の強い韓国ポスコ。新日本製鉄と住友が合併すると、規模の面で水をあけられるJFE。これらがどう動くか。
 これらのうち日新製鋼(ステンレスで第3位)は日本金属工業(同5位)と2012年秋の統合に向けて検討を開始した(2011年11月)。実現すればステンレスでは新日鉄住金ステンレスにつぐ国内2位メーカーになる。両社は2004年に業務提携。その後の持ち合い関係により、日新製鋼は日本金属工業の筆頭株主(5%強)となっていた。
 自動車など顧客メーカーは鉄鋼メーカーの価格交渉力が上がることを警戒して、調達先の分散、海外現地調達の増加などの対策を進めるものと思われる

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in February 25, 2011.
Corrected and reposted in January 17, 2012.

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