Entrance for Studies in Finance

portfolio management and derivatives

portfolio rebalancing

年金や投資信託など機関投資家は、投資資産についてさまざまな資産への配分(アセット・アロケーション)を決めている。この場合、分散投資によって、リスクを小さくして、リターンを大きくする効果が期待されている。資産配分の組み合わせがもたらすリターンの上限、そして各機関投資家自身のリスク許容度、これらからベストの資産配分目標値が導かれる。
まずはその目標値を実現したとする。しかし実際のポートフォリオの中の資産配分比率は、資産価格の変動などさまざまな要因によって、目標値からずれてゆく。たとえば債券と株式を50%ずつという構成が目標であったとき、株価が値下がりすると、株式の比率が下がる。このとき株式の比率を高めて、目標の50%ずつという数値を保つように調整することをリバランス(portfolio rebalancing)という。
ところでリバランスは機械的に行うわけではない。値下がりした株式を購入する前提は、株式が割安になっているということである。あるいは目標とする配分比率が、投資家の許容するリスクに依然として見合っているという言い方もある。
このようなリバランスによって、値下がりした株式に対して、年金などが買い出動することが知られる。これは制度の中に組み込まれている株価安定化の仕組みといえる。
しかし実際にはつぎのような問題が起こる。株価が値下がりしたが、割安とはいえないという問題である。たとえば企業の業績予想が悪化して予想利益率が低下しているとする。すると予想利益でみたEPS(一株あたり利益)が低下し、株価収益率(=株価のEPSに対する倍率)は大きな値になる。つまり株価はEPSに比べて割高になる。あるいは投資家のリスク許容度が低下したらどうだろうか。いずれの場合もリバランスは合理的投資行動とはいえなくなる。
そうした状況では資産構成比率の見直しが必要である。そこで仮に株式の比率を下げる決定がなされれば、リバランスが行われないことも生じうるのである。
 (長期為替予約 ゼロコストオプションについても言及すること 為替リスク対策で企業が破綻する理由

派生商品を使ったリスクヘッジ
 ここではrisk hedgingの手段として先物契約、スワップ、オプションを見て行きます。ベースとした資料は以下の3冊です。
 このような派生商品取引derivativesについては、一時は盛んに議論されましたが、近年はそれほど関心を集めていないように思います。本当に必要な知識は残るという楽観的な観点からすれば、派生商品取引に関する社会の関心の低下は、過度に専門的な知識が消えてゆくプロセスだったのかもしれません。さらにこのようなhedgeの手法を、保有資産の保険のようなものだということでportfolio insuranceと呼ぶことも一時はやりましたが、この言葉は最近はあまり見なくなりました。このような関心の移動や、言葉の盛衰が何を意味するのか、私自身つかみかねています。ただはっきりしていることは①有価証券資産だけでなく、実物的資産も含めてリスク管理を考える、また②derivativesの有効性と限界を踏まえる(リスク管理をもう少し多面的に考える)、というのが、現在のトレンドではないかと思います。
Patrick Cusatis and Martin Thomas, Hedging Instruments and Risk Hedging, McGrawHill, 2005.
Nicholas G.Apostolou and Barbara Apostolou, Keys to Investing in Options and Futures, 4th ed., Barrons, 2005.
Marc Levinson, Guide to Financial Markets, 4th ed., Bloomberg, 2006.

 Cusatis and Thomasは、hedgingを金融商品を使って価格の変化つまりキャッシュフローのシステムに関わるリスクを中立化するリスク管理へのアプローチ(an approach to risk management that uses financial instruments to neutralize the systematic risk of price changes or cash flows)だとしています。ヘッジの有効性については、そもそもヘッジする側hedgerは、市場の先行きについて一定の見解があり、また部分的なヘッジでリスクは受容可能なレベルにまで下がるので直面しているリスクのごく一部をヘッジするにとどまるかもしれないと指摘します。またヘッジのコストには取引コストtransaction costsと、持ち越しコストcarrying costsとがあるとしています(C&T, op.cit., pp.1-5)。

 Apostolousは最初に取引所でオプションが取引されたのは1973年にシカゴオプション取引所(CBOE)でのことだとします。そして今日の取引ブームの主役は個人で、その背景には電子取引の拡大があるとします。電子取引により手数料が劇的に下落し、また取引はより透明になったとしています。 先物についても個人がやはりブームの主役になっているとします。アメリカの最大の先物市場はシカゴ商品取引所(CME Chicago Mercantile Exchange)であり、シカゴのユーロ先物が世界でもっとも活発に取引されている先物だとしています(A., op.cit., p.v-vi)。
 Aposotolousは1848年に創設されたシカゴの交易取引所CBOTで先物取引が始まったのは1865年以降のことだとします。金融先物の登場は1970年代以降のことで、1976年にCME子会社であるIMMが財務省証券の先物取引を始めたのが最初。画期は1982年にカンザス市交易取引所KCBTが、株価指数先物取引を始めたことにあるとしています。(A., pp.85-86)
 現物保有をした上で派生商品を使ってヘッジをするのは、単純に現物保有をする投資家よりは保守的conservativeと見なされます。

futures contracts
 Cusatis and Thomasは先物契約を取引所との間の将来の特定時点でのある資産についての特定価格での売買の合意だとしています。契約期間は通常は3ケ月から1年。契約日にはお金は必要ではないが、最後には契約の実行が必要ですが、日々時価による値洗い(marking to market)が行われます。買い手はlong position。売り手はshort positionと呼ばれる。契約が執行される日まで持ち越されることはほとんどなく、多くは反対売買により契約内容は相殺されています。(C&T, op.cit., p.97)

 Fo=initial futures price at settlement
Sn=spot asset price at maturity

Long Position Payoff=Sn-Fo
Short Position Payoff=Fo-Sn
Long Position+Short Position=0 (C&T, op.cit., p.98)
 
 この場合、たとえば原材料価格の値上がりリスクを避けたいメーカーは、原材料商品の先物を買うというヘッジ(買いヘッジ)をします(long hedge)。また原材料を生産する側の企業は、原材料の値下がりリスクを避けるために先物を売るというヘッジ(売りヘッジ)をします(short hedge)。(C&T, op.cit., pp.101-102)

 時価による値洗い(marking to market)とは、その日の終値(時価)の変動を証拠金残高に反映させることを意味します。このような先物取引で取引所側は取引の相手方が売買を執行できないリスクを警戒して証拠金(margin calls)を要求します。証拠金は初期(initial or original)証拠金と維持証拠金に別れています。(C&T, op.cit., pp.103-104)
 Apostolousはこの証拠金の大きさは、背景となる取引の5-15%であり、先物取引が高度にレバレッジを効かした取引(highly leveraged)となることを意味しているとします。(A., op.cit.,pp.93-94)
 つぎに持ち越し費用carrying costsですが、これは現物の商品の場合は、倉庫や保険の費用を意味していたと考えられます(昔はこれをcontangoと呼んでいたとおもいます。Bradley D.Nash, Investment Banking in England, McGrawhill, 1924, p.36.なお先物価格は現物価格より高いのが普通です。そこでこれを純ザヤということがあります。なお逆に現物価格が先物価格より高い状態を逆ザヤbacwardationということがあります。ロイターフィナンシャルトレーニングシリーズ 小島秀雄・小川真路訳『デリバティブ入門』経済法令研究会, 1999, pp.75-76)。また金融商品の場合は、当該商品の買い入れ資金を借入れる金融費用(利子)などから当該商品を保有することで得られる収益(利子や配当など)を意味しています。持ち越し費用をGとしますと
Fo=So+G
 なお先物取引におけるスプレッド取引spreadsとは、先物の買いあるいは売りのポジションから生ずるリスクを軽減するために、買いに対しては売り。売りに対しては買いのポジションを組み合わせる取引で(つまり買いと売りを同時に行う取引で)、その目的は想定外のリスクを緩和する点にあります。これに対してstraddlesは、決済月の違いを利用して、値上がりが予想されるときは近物で買い遠物で売る(bull spread)。値下がりは予想されるときは近物で売り遠物で買う(bear spread)といったように決済時の値段の違いを利用する取引を意味しています。
 先物ではbasis tradingもよく言います。これは現物と先物とを使います。値上がり予想されるとき(先物価格が先物理論価格より高いとき)は現物を買って先物を売ります(long the basis)。値下がりが予想されるとき(先物相場が先物理論価格より低いとき)は現物を売って先物を買います(short the basis)。現物の値動きに合わせて先物の持ちだかを不断に調整するような取引はdynamic hedgingといいます。See, Marc Levinson, op.cit., pp.196-197.

swaps(以下はC&T, pp.133-139より抜書き)
 swapsのもっとも古典的な形態は3ケ月物変動金利と固定金利の交換です(変動金利を支払う側がswapの持ち手です。)。一般にスワップの金利表とされるものがこれで、swapの価格表(価値)は変動金利と交換される固定金利の大きさで表示されています(5年スワップというのは5年間 交換される)。当然bidよりaskの方が大きな数字になります。bid-ask spreadはスワップ仲介業者の取り分の大きさを示しています。
 固定金利を支払う企業が、金利の低下を予測したとします。このような企業は固定金利を受け取り変動金利を支払うスワップを組みます(hedgeをしている側はsellerでshort hedge 相手方はbuyerで変動金利を払います)。
 変動金利を支払いが金利の上昇を予測した場合は、変動金利受取 固定金利支払いになります。 
スワップもやはりスワップ契約swap contractが正しいようです。スワップは取引所が相手にはなりませんのでcounterparty riskが大きいといいます。

options(以下はC&P, op.cit.,pp.167-175, A., op.cit.,pp.1-58. Marc Levinson, op.cit.,pp.199-230, esp., 212-215から抜書き)
 optionの特徴は権利rightであって義務obligationではなく、権利行使には期間があり期間終了後は消滅してしまうことです。optionの売り手はwriterと、買い手はbuyer or holderと、さらにoptionの代金はpremiumと呼ばれます。premiumの中身はintrinsic valueとtime valueとに別れます。

 買う権利がcall option。売る権利がput optionです。
 call optionの場合は権利行使価格strike or exercise priceを市場価格が上回るとin the moneyといいます。そこから上の市場価格ではcall optionの権利を使うと利益が出ます。premiumも上昇するはずです。2つの価格が一致するところがat the money。市場価格が下回るとout of the moneyです。損失が出ますので、権利は使われません。callの買い手(long call option)は資産価格の上昇に備えているはずです。他方callの売り手の損益は買い手の全く逆になります。
 put optionの場合は権利行使価格を市場価格が下回るとin the mnoney、上回るとout of the moneyになります。putの買い手(long put option)は資産価格の下落に備えていています。putの売り手の損益が買い手とは真逆となるのはcallの場合と同じです。
 optionの理論的価値評価valuationをします。それはat the moneyのところでゼロ。in the moneyのところで市場価格にそって上下します。これを本質価値intrinsic valueといいます。これはoptionを行使することで得られる利益と一致します。他方でoptionには、権利行使期間があるのですがその長さに応じて時間価値time valueがあります。実際のoptionの価格は市場で決まります。 
 以上から、optionを使った価格の下落に備えたもっとも基本的な2つの戦略を説明できます。まずはcovered callです。これは現物保有の価格下落リスクに対して、callの売りを同時に行うものです。式の形ではlong asset+short callです。short callはcall writingと言ってもいいですね。次にprotective put(or sysnthetic put)があります。これは現物保有の価格下落リスクに対してputの買いを行うもの。すなわち式の形ではlong aseet + long putになります。
 やや逆説的ですがoptionsの利用方法としては、価格が下落すると判断すればcall optionを売る側になってpremiumを稼ぐこともできます。すなわちlong asset + long call
収益を追加する方法として、また現物保有の価格下落リスク対策として有効なこの方法は、covered call writingといいます。つまりoption戦略には、optionの売り手になりpremiumuを稼ぐ方法もあるわけです。現物を持たずに単純に売り手になってもいいわけです。これをuncovered or naked call writingといいます。
つまりoptionでは従来のderivativesの戦略にあったhedging, speculation, arbitrageに加えて、incomeを稼ぐ手段という使い方もできます。

 ヘッジは価格下落をイメージしますから、価格上昇で売り手が失うリスク対策はreverse hedgeと呼ばれます。synthetic put(or reverse hedge)というのは現物の売却時に値上がりをしたときの損失をカバーするもので、現物の売りにcallの買いを組み合わせるものです。short asset+long callです。
 以上のほかputとcallの売りと買いを組み合わせることで、さまざまな損益線の形(戦略)が可能です。よく指摘されるのはstraddles(straddling)です。これはputとcallとを同時に買う戦略です。straddleでは価格変動が大きいほど利益が大きくなりますので大きく価格変動する見通しのときに有効です。
逆に両方を売る戦略がreverse straddleあるいはstraddle writingです。こちらは価格が膠着して動かないときに有効な戦略になります。
 なおspreads(spreading)は同じoptionの売りと買いを同時に行う取引を指しますが、spreadsの基本的な狙いは単純な買い(long)あるいは売り(short)のリスクを低めること(risk hedge)にあるとされています。
 しかしどちらかがバランスを失して大きいと取引は投機的(speculative)になります。通貨オプション取引で、コール(ドル買い権利)を購入する一方でプット(ドル売り権利)をコール以上に売る行為は、円安に振れているときは、プレミアムの収入がおいしい取引です。しかしこれは円安に賭けた投機的取引です。この取引は、行った直後はプットのプレミアムが沢山入ってくるのでおいしく見えます。ところが相場が円高に振れると、プットが行使されてきますので、時価評価損を抱えることになります。
 このようにオプションをつけてプレミアムを上乗せする取引は、リスクと隣り合わせの取引として、批判されるようになりました。しかし方法としてはcallと別の値段のcallを組み合わせる、あるいはputと別の値段のputを組み合わせる方法turbo chargingもあります。予想された方向での値動きが起こると極端に高い利益率を可能にします。
現物価格の値動きに応じてオプションの量を絶えず調整する戦略はdynamic hedgingといいます。これはportfolio insuranceとも呼ばれた戦略で1980年代に一時話題になりました。その詳細は別稿portfolio insurance and dynamic hedgingで述べることにします。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Aug.22, 2009.
Corrected and reposted in Sept.12, 2009.
Reposted in Nov.11, 2010

portfolio insurance and dynamic hedging
以下を参照してこのテーマを述べます。
Marc Levinson, Guide to Financial Markets, 4th ed., Bloomberg, 2006, pp.197, 212-215.
ブックステーバーの『市場リスク 暴落は必然か』日経BP社, 2008, 第2章。
 まずportfolio insuranceとは投資戦略の名称で、1987年の株価暴落のとき議論した記憶があります。ポートフォリオの価値が下落するとき、逆に利益が出る金融派生商品(たとえばプットオプションを購入する、あるいは指数先物を売るなど)を組み合わせることで下落リスクをヘッジ(回避)するといった投資戦略をportfolio insuranceと呼びます。おそらく金融派生商品を購入することを、価値下落リスクに保険をかける行為になぞらえているのでしょう。
 portfolio insuranceのなかで、原資産の変化などに応じて先物やオプションのヘッジ量を変動させる戦略はdynamic hedgingと呼ばれます。
 ブックステーバーによると、原資産に対してヘッジするべき量の割合はデルタと呼びます。この戦略は、まず原証券のボラテリティ(価格変動性)を正確に算定できるかにかかっています。そしてさらにその前提には、市場の流動性が確保されていることがあります。しかし現在では、多くの市場参加者が同様にportfolio insurance戦略をとった場合、価格の下落がさらなる価格の下落を生むということが明らかになっています。
 この戦略はコンピュターのプログラムに織り込まれますがプログラム(program trading)に従うと、機械的で加速的な売りをもたらすことになります。そしてあまりにも急激な下落は、買い手を躊躇させます(流動性は突然失われます)。買い手(流動性)の減少は、相場のさらなる下落をもたらす。つまり最も肝心な場面で、市場の流動性が失われる(蒸発する)現象が生じます。この混乱の理由についてブックステーバー(Bookstaber)は先物市場と現物市場との間で取引を可能にしている時間軸が異なっていることを指摘しています(現物市場の投資家はしばしば長期の投資判断を行うがそのためには意思決定の会議が必要になるなど)。
 同じ問題についてレヴインソン(Levinson)はオプションについて以下のように語っている。原資産の価格1%の変化に対してオプションの価格が何%動くかその比率示す数字がデルタ(δ)とします。これに対して原資産の価格の変化に対してδが動く割合がガンマ(γ)である。オプションを使ったダイナミックヘッジングの代表的な戦略はデルタヘッジング(delta hedging)でこれはデルタをゼロにするように、オプションと原資産の売買をするというものだそうです。デルタをゼロに保つために、投資家は、価格が下がっているときに原資産を売り、あるいは価格が上がっているときに原資産を買うことを求められるのだそうです。これは結局、原資産価格の振れ方は鋭くすることになります。
 原資産価格の変動に連れて新たなオプションが恒に購入可能であるとの仮定が誤りであることがわかるまでの1980年代の極めて間、portfolio insurance、別名dynamic hedgingは株価下落から株式ポートフォリオを守る戦略として人気を得たことがあります。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Feb.24, 2009.
Corrected and reposted in Sept.13, 2010.
証券市場論講義
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