Entrance for Studies in Finance

a general exchange and a market for professionals

Hiroshi Fukumitsu

現在、東京市場活性化策としてしばしば問題にされるのは以下の2つである。
 一つは総合取引所化という問題。総合取引所とは、株式のほか、債券、デリバティブ、商品など多様な売買ができる取引所のことである。現在関心が高いのは商品であって、海外の商品取引所との連携や商品相場と連動したETF上場の動きなどは、この総合取引所問題と関係している。
 モデルの一つは株式から商品先物まで幅広く扱っているシンガポール取引所SGX(1999)。SGXは1999年にシンガポール国際金融取引所SIMEXとシンガポール取引所SEXが合併して発足。2000年に株式を公開。2006年12月には東証との間で、株価指数の共同利用や商品開発などで合意。さらに2007年7月、東証はシンガポール取引所の株式を4.99%取得(シンガポール金融通貨庁の承認後5%まで取得)。
 総合取引所のモデルには、このほかNYSEユーロネクストやドイツ取引所がある。
 参照 投資信託について 上場投信についての記述あり
商品市場について
 もう一つはプロ向け市場創設問題。
 これは機関投資家などに投資家を限定した市場のことで、2009年6月に東証とLSE(ロンドン証券取引所)は共同でTOKYO AIMを開設した。
 投資家をプロに限定することで上場企業の負担を軽減(英語での情報開示認める 情報開示を年2回にする 内部統制報告書提出義務もないなど)、上場基準(数値基準)も外した。またリスクの高い証券を扱うことを可能にするというもの。新規上場や、上場後の法令遵守状況の監視、上場廃止判断は指定アドバイザーと呼ばれる証券会社が行う(指定アドバイザー証券の責任は極めて重い)。中小のベンチャー企業のほか、大企業の事業部門の分離上場、従来上場がむつかしかった外国企業など。
 指定アドバイザーとして、野村證券、大和証券SMBC、日興シティグループ証券、三菱UFJ証券、みずほ証券の5社が名乗りをあげ承認された。
 
 参照 ヘッジファンドについて 
 モデルはロンドン取引所が1995年に創設したAIMだとされる。AIMは中小ベンチャー企業を対象とする市場で、2007年6月末で上場会社数(内外企業合わせて)約1600社時価総額約27兆円とされる。
狙いはアジアの新興企業の上場で、国際会計基準や英文のみでの情報開示を認め、さらに四半期開示や内部統制ルールの適用免除を想定しているとのこと。さらに上場審査事務の一部などを証券会社などに委託するとのこと。
 しかし東証については、1999年11月創設のマザーズの問題が残る。これは2007年8月末で上場会社数200社時価総額2.7兆円という規模。2006年初のライブドア事件がこの市場を舞台にしたこと、あるいはマザーズを舞台にしたそのほかの不祥事の記憶から、マザーズには悪い印象がつきまとう。東証がマザーズよりさらに規制のゆるい市場を作ってまた社会問題を起こすのではないかという懸念は強く残る。
 東証に求められているのは、効率的で透明な市場を作ることであり、闇資金がファンドに名前を借りて資金洗浄したり、事業実体のない企業が名前を連ねる市場をつくることではない。東証がひきつけるべきなのは、情報開示も十分できないような企業ではなく、新興国を代表する国際企業であるはずなのだが。なぜ東証はこのようにクズ企業の株式公開に熱心なのだろうか。理解できないところだ。


多発するシステム障害により喪失した信頼
 ところで2008年2月8日に東京証券取引所では、東証株価指数先物取引システムでシステム障害が発生し、午後に売買が停止した。東証における大規模なシステム障害は2006年1月にライブドアショックで、処理能力の限界があるとして全銘柄の取引を停止して以来のこと。問題はこのシステムが2008年1月15日に取引開始したばかりもので、2009年稼動予定の新株式売買システムの試金石と位置付けられていたことにある。もともとの稼動予定を3ヶ月ずらし万全の準備のはず。2月12日の発表では原因はプログラムミスだという。
 東証はその後、2008年7月22日にも大規模なシステム障害を起こす。派生商品売買システムが障害を起こし、国債先物や東証株価指数先物などが午後1時45分まで取引停止になる。
 このような足元の問題をまず改善すること(再発させない体制作り)が、総合取引所やプロ向け市場についての作文などより大事なはず。

 東証のやっていることや発想はチグハグな印象を受ける。課題をすべて羅列するのではなく、優先順位を付けて確実に問題を解決する必要がある。すべてに優先するのはIT先進国にふさわしい取引所システム(システム開発投資 売買執行速度の最速化)、先進資本主義国の市場にふさわしい透明性の確保(不正取引・不正企業の排除)ではないだろうか。総合取引所やAIMは、まずはシステムをまともに動かしてからでよい話ではないのだろうか。

取引所名処理速度*
東証2000ミリ秒
LSE10ミリ秒
NYSE数ミリ秒
NASDAQ1ミリ秒

*注文を出してから取引完了までの時間(08/01現在) 東証は2009年の新システムで40ミリ秒まで改善する なお2006年2月から大証で稼動している新売買システムの処理速度は約2ミリ秒。この点で大証は東証に先行し機関投資家の支持を集めている。参照
大証の新売買システム

 なお2007年8月27日の時点で新興市場は以下のようだった。
市場名上場企業数
JASADAQ978
マザーズ199
ヘラクレス171

注)マザーズには海外企業3含む 07/08/27現在

取引所名時価総額上場社数
NYSE1,633兆円2,160
東証560兆円2,372
NASADAQ429兆円3,150
LSE390兆円3,169
ユーロネクスト371兆円1,225
ドイツ167兆円757
香港143兆円1,143
上海38兆円831
ムンバイ82兆円4,796

注)2006年4月末現在 東証は一部二部計

参照
欧米の取引所の統合問題

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Mar.28, 2008.
Corrected and reposted in July 17, 2009.
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