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Entrance for Studies in Finance

private equity firms

private equity firms, PEFs

福光 寛

 企業を買収する買収ファンドという言い方が日本にはある。あるいはその買収ファンドをさらにてがける投資会社という言い方もある。後述するように企業再生ビジネスをてがけるところもあるので(買収ファンドという言い方を避けて)、再生ファンドという言い方もある。これらの買収ファンド、投資会社(投資ファンド)に対応する英語がprivate equity fundsあるいはprivate equity firms、あるいは単純にprivate equityである。
 日本語と英語とかなり表現が違っている。

 private equityというのは、非公開株式つまり上場されている株式ではない株式のことだが、非公開株式に投資されているお金や投資家を意味する場合もある。なおPEは証券会社の自己資金投資先(principal investment)としても注目されている。
 private equity (fund or firm)は公開株式には手を出さないかといえばそうではない。公開株式を取得してもそれを非公開化する(delistng)戦略が基本だという意味である。取得の仕方として、公開買い付け(TOB)もあるが、上場会社から第三者割当方式で取得する例が増えている(これをPIPE(private investment in public equities)という)。

またprivate equity fundsを管理する会社がprivate equity firmsである。fundはfirmに管理され、firmが決定した投資戦略にしたがっている。つまり買収ファンドがある企業を買収しましたというお話は、private equity firmがある企業を買収しましたというお話として報道されている。

具体的名称でみると、著名なCarlyle Group、Kohlberg Kravis Roberts(KKR)、Goldamn Sachs Capital Group、Blackstone Group(1985年創業)などというのはいずれもprivte equity firmの名称である。米ベインキャピタル。欧州系フォルテイス。英系ペルミラ(欧州最大のファンド 2005に日本進出)。あるいは英系テラ・ファーマ(2002創業)。和製最大手はアドバンテッジパートナーズ(AP 1997年立ち上げ なお商社の丸紅がAPの資金を用意したとされる)。

こうしたfirmは投資家(年金基金や金融機関など)から資金(最低数百万ドル)を集めてファンドを組成する。外資系ファンドに日本の投資家のお金が入ることも逆に日本のファンドに外国の投資家のお金が入ることもある。したがってお金の出所という点では、外資系ファンドだから海外投資資金のファンドとは言い切れない。またファンドの目標利益率は20-30%と高い(ちなみに2006-2007年当時、投資家である年金基金のカルパースで15%。ファンドではトップのブラックストーンは30%とされたものだ)。しかし2007年後半以降、買収資金調達が困難化(買収資金コストが上昇 レバレッジ率低下7倍⇒5倍)。またリターン率が低下したことが問題になっている。
なお日本でこのファンドの苦境を象徴したのは、日本のprivate equity fundsの草分けとされるMKS Partners (松木伸男代表)が、2008年に新規のファンドの募集を停止して実質的に解散したとされる問題であろう。

ところでファンドは有限責任事業組合LLP=limited liability partnershipの形で組織され、法人税がかからない(投資家が主に年金基金だというのがいいわけ)。幹部の成功報酬(運用益の20%)も投資収益とみなして、通常のキャピタルゲイン課税(最高35%)より低い軽減課税(15%)になっている(2007年6月現在)。

なお買収ファンドが行なう企業買収の対象は成熟型企業が中心で、買収は支配権(強い経営への関与)をとるバイアウト型が中心。したがってバイアウト・ファンドという言い方がある。そして買収ファンドはビジネスモデルとして、企業価値が下がっている企業を買収して非公開化。再生して企業価値を高めて、買った企業を売却して利益を出そうとする。日本ではこうしたビジネスを企業再生といい、企業再生ファンド、再生ファンドと呼んだ。

 このようなprivate equityの投資には、さまざまな手法がある。そのもっともベーシックなものが企業再生型で、業績の悪化した企業(経営不振企業)を対象とするもの。あるいはスピンオフされた(資本関係から切り離された)企業を買収(大会社のリストラはファンドにとりチャンス)、非公開化したあと、企業価値を高めて再上場するというもの。このようなスピンオフでは優良企業が、非本業であるため(親企業とのシナジー効果が得られないとして)、親企業の本業の再建のため分離売却されることも多い。この場合は、スピンオフされた企業の成長のための道筋をつけることがファンドの役割である(MBO方式の買い取りなど)。

スピンオフ、カーブアウト、完全子会社化
 日本では親会社と子会社がともに上場しているケースがたくさんあります。この親子上場は日本的慣行だとされています。ところで親会社が子会社を初めて上場するとき親子の資本関係をなくすものをスピンオフspin offといいます。他方で親子関係を保ったまま上場するのがカーブアウトcurve outです。しかし隠れていた価値を具体化させると評価されたカーブアウトには批判が高くなりました。カーブアウトで得られる利益が一時的で、その後の成長にはマイナスだと考えられるほか、親とのシナジーがないならスピンアウトすべきである。逆にシナジーもあり成長分野ならその価値を社外に出すべきではない。むしろ完全子会社化して、経営の自由度を高めるべきであるとされるようになりました。こうしたことからいわゆる親子会社で両方が上場しているものの解消、連結子会社の完全子会社化が2000年代にはたくさんみられるようになりました。参照 光定洋介「議決権行使業務」三好秀和編著『ファンドマネジメントのすべて』東京書籍, 2007年, pp.105-108.光貞さんも指摘しているように、一般少数株主との利益相反、利害対立をリスクと認識した企業は、そのリスク回避の手段として、完全子会社化をめざすようになったのではないでしょうか。

なお(買収ファンドの言い分としては)買収後の企業再建をスムーズに進めるには従業員の理解は不可欠なので、労組と必ずしも対立する存在ではないとされる(実際には米国でも労組はファンドを警戒している)。買収資金の一部は借入でまかなわれる。借り入れ比率の高いLBOという手法も一般的である(金利負担が増えるとハイリスクーハイリターンとなりやすい)。日本の低金利はファンドにとっては魅力的環境と映っている*。
*他方で企業買収向け融資は、金融機関にとり高利を得やすい魅力的分野になっている。

企業価値の低下は、たとえば、競争力のある中核事業への集中の不十分さなどから生じている。対策としては中核業務への集中、委託か自前かの切り分けの徹底、生産・輸送の効率化などがよく指摘される。こうした対策をとるうえでは、経営の自由度を引き上げる必要があること(上場維持自体がコスト要因であることも大きい)、また企業再生後に、再上場という出口を用意できることなどから、上場企業については、非上場化が選択されることが多い。

この再生ファンドに対応する英語は、private equity fundでbuyout fundであるものということになる。再生ファンドに対しては、短期で結果を求めすぎるという批判があるがヘッジファンドに比べれば投資期間は長い。KKRは平均7年としているが一般には投資回収まで5-7年とされる。

しかしPEFには今一つのやりかたがある。それはそれほど強い支配権を求めないで、企業が成長するために必要な資金(自己資本)を提供するというもの。これはある程度規模がある企業の場合と新興企業の場合がある。
対象が新興企業の場合は、一件あたりの投資規模が小さいので、別の分類、別の世界といえる。すなわちそれがventure businessへの投資を行うventure capitalである。

 以上に対してアクテビストファンドというのは、(増配要求など)経営に口出しできる程度の比率(経営支配には至らない比率)をもって、経営戦略に関与してくるファンドというものである。このようなactivist fundは経営に緊張感を与えるというプラス面が指摘される反面、長期的に経営にコミットする意思がないので経営陣からしばしば、(高値で買い取りを迫る)green mailer扱いされる面がある。
 代表格はスティール・パートナーズである。このファンドは、ブルドックソース、アデランス、江崎グリコ、日清食品、明星食品、サッポロH、ハウス食品、ブラザー工業、ユシロ化学工業などで多数の企業で話題になった。このファンドについてはgreen mailerそのものだという批判が絶えない。
 またactivist fund型の運用では、企業経営側との接触がインサイダー情報に触れてインサイダー取引を犯すことになるリスクがあるとされている(企業に接触する担当者と運用者とを分けることが必要)。(再生型では非上場化しつぃなうのでこうした問題が起こらない)。
 activist fundに限らずインサイダー取引を犯すリスクは、ファンド関係者が自戒すべき点である。こうしたインサイダー取引で上げる利益は、ファンドに出資する投資家の損失となる可能性があり倫理的にも問題は深い。2009年11月に国内投資ファンドのユニゾンキャピタル元幹部に浮上したインサイダー取引の嫌疑(元幹部は強制調査当日、懲戒解雇され翌日自殺)を、業界関係者は自浄作用を強めるとするべきだろう。私自身はこのような企業では株式取引を原則禁止するべきだと考えている。

以下具体的にfirmごとの概要を述べよう。

KKR(1976 ヘンリー・クラビス氏、ジョージ・ロバーツ氏が創業 2006ユーロネクスト アムステルダム市場に上場 50億ドルを調達 2006年4月日本で業務開始)
1988年台食品会社RJRナビスコ買収(史上最大のLBO)で有名に。
1999 独シーメンス子会社買収
2005 トイザラスを買収 KKRなどファンド連合 82億ドル
2006年11月23日 病院チェーンのHCA KKR、ベインなどファンド連合 211.9億ドル(負債を含め360億ドル) ファンドによる買収としては過去最大

Blackstone Group(1985 ピーター・ピーターソンらが創業 2007年6月NYSEに上場 41.3億ドルの資金を調達 同時に中国政府からも30億ドルの出資を受ける 企業買収のほか 不動産投資 ヘッジファンドなども展開)
ヒルトンホテルズを買収(約260億ドル)
REIT大手の(米最大のオフィス専門不動産投資信託)Equity Office Properties Trustを230億ドルで買収(2007年2月)負債引受分含む買収総額360億ドル。LBO方式。

旧Ripplewood(NY, 1995 創業者テイモシー・コリンズ 2005年3月上場 RHJインターナショナルとして再出発 より長期投資可能に リップルウッドの一部が上場したという言い方もある)
新生銀行(1999秋旧日本長期信用銀行が破たん国有化 これを1999に買収 2000買収成立 2004再上場)
コロンビアミュージック
旭テック(自動車部品)
ナイルス
ユーシン
旧日本テレコム(現ソフトバンク 2003 買収金額2603億円)

Carlyle Group(創業者 デビット・ルーベンスタイン 不動産投資も展開)
キトー(旧ジャスダック 工場用クレーン大手) 2003年9月 MBO方式 カーライルが約8割を保有。2003年10月上場廃止。2007年8月9日再上場。
DDIポケット(現ウイルコム) 2004 京セラと一緒に買収
リズム(自動車部品メーカー)もとは日産自動車からJPモルガンパートナーズ(JPMP)が2002年に買収 2004年に200億円前後でJPMPから買収
フォードのレンタカー部門ハーツ 2005年9月 150億ドル
日月光半導体製造(台湾)を2006年11月買収合意 約6400億円 外資による台湾企業買収でこの時点では過去最大
タカラトミー 大株主は米系TPGと国内系の丸の内キャピタル
NHテクノ 日本板硝子に代わりHOYAと組んで液晶テレビ用ガラス基板のNHテクノの再建目指す(2008年中ば)
2009年6月末に日本の中堅企業向け投資を凍結 中堅企業向け投資は中国、インドに注力 日本では大企業買収、不動産投資に専念。

サーベラス・キャピタル・マネジメント
クライスラーを買収
あおぞら銀行
国際興業

ローンスター

Advantage Partners LLP(東京都港区, 1992に笹原泰助とリチャード・フォルソムが創立 2005に事業組合を設立 営業譲渡)
弥生 2003年2月投資
日本海水(製塩メーカー) 2003年11月投資 親会社の旭化成からの分離独立
ポッカ コーポレーション 2005年9月投資
クラシエHD(旧カネボウトリニティHD) 2006年1月投資 クラブデイール
レックス  2006年12月投資
ニッセンHD 2007年2月投資
東京スター銀行 2008年3月投資 アドバンテッジパートナーズが2500億円弱でTOBで買収 2009年9月中間は4400万円の経常赤字

ユニゾンキャピタルUnison Capital LLP(東京都千代田区, 1998設立  2005に事業組合に組織変更) 江原伸好代表 オリックスの宮内義彦氏が支援しているとされる
コスモスイニシア 2005年6月投資
クラシエHD 2006年1月投資 クラブデイール
コバレントマテリアル(旧東芝セラミックス) 2006年12月投資

Goldman Sachs(1999に上場 約250億ドルを調達) 

ベインキャピタル
病院チェーンHCA(2006年 330億ドル)
ベルシステム24の買収(2008 約1000億円)

ペルミラ
農薬事業大手アリスタライフサイエンス(売上の85%が海外)を買収(2007年10月末発表)。買収総額2500億円(過去最大級 ペルミラの最初の日本案件 サブプライム問題表面化後の案件が日本から出たことが話題になった)。米系ファンドのオリンパスキャピタルが100%保有していたものを買収。ペルミラは日米欧7金融機関から1500億円を調達。

資料の所在

originally appeared in May 29, 2010.
corrected and reposted in August 20, 2010.






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