見出し画像

Entrance for Studies in Finance

金融仲介と証券

金融とはお金の足らないところ(赤字単位)にお金の余っているところ(黒字単位)からお金を融通する仕組みだと考えられます。従来、赤字単位としては企業を、また黒字単位として家計を想定してきました。個々の家計、企業には赤字のものも黒字のものもあるけれど、それを集計した、家計部門全体、企業部門全体では家計は黒字で、企業は赤字と想定されてきました。
 金融の仕組みを、専門用語で金融仲介と呼んでいます。実は高等学校の政治経済の教科書でも、金融仲介は紹介されていまして、赤字単位・黒字単位と呼ばれる2つの経済単位の間で、直接お金が融通されるケースを直接金融direct finance。間に金融仲介機関financial intermediariesが入るものを間接金融indirect financeと呼んでいます。直接お金が融通されるのは、黒字単位が赤字単位を信用できることを示します。それは赤字単位が誰でも知っている大企業などのケース。金融仲介機関が間に入るのは、黒字単位が赤字単位を信用できない、しかし金融仲介機関であれば信用できたことを示します。この金融仲介機関と赤字単位の間の信用力の差異は、それぞれが支払う金利の大きさに反映します。そしてこの利ざやが金融仲介機関の収入になるわけです。

 金融仲介論ではこの金融仲介機関の機能を詳しく説明しています。この機能はむつかしい言い方では、信用代替といいます。金融仲介機関は自分より信用力の劣る赤字単位に信用の面で代替しているということです(信用代替)。実際には赤字単位が出す証券(本源的証券)を自らの証券(間接証券)に置き換えています。その結果、黒字単位から赤字単位に金融仲介機関を介して資金が融通されます。もう一つの機能は、資産変換機能です。小口・短期のお金を大口・長期のお金に性質を変化させているということですね。これは逆に見ると、大口・短期で運用しながら小口・短期のお金に変化させることです。
 間接金融は、銀行が金融仲介機関の中心であることから銀行型間接金融bank-based indirect financeと呼ばれることがあります。銀行業務bankingは、relationship bankingとも呼ばれるいわゆる長期的融資業務と、transaction bankingとも呼ばれる、現金管理cash management、貿易金融trade creditなどの取引を中心とする為替決済業務(商取引に関わる業務)とに分けることがあります。相対型か市場型かという区分は、この2つの銀行業務のうちrelationship bankingのあり方を議論していたように思います。この長期的融資業務には、相対型取引の側面があるからです。
 ここで相対型取引といいましたが、商取引の形態には、売り手と買い手が1対1の相対型、売り手も買い手もたくさんいる市場型、どちらかが一人でその反対側は多数いる「せりauction型」の3つがあり、それぞれ特徴があります(表1-1)。

表1-1 取引の区分type of transactions
相対型取引negotiated transaction取引条件は弾力的tailor made 取引への外部者参加に閉鎖的closed 個々の取引は異質heterogeneous
市場型取引market transaction取引条件には多くの決まりごとready made 取引への外部者参加に開放的open 個々の取引は同質的homogeneous


 では直接金融では何が起こっているでしょうか。信用代替、資産変換は起きていない。証券業者や証券取引所がそこで行っているのは、信用補完だといいます。つまり赤字単位が発行する証券(本源的証券)が、そのまま黒字単位の手にわたっていますが、そこでそれを取り扱う証券業者や証券取引所は、その証券の信用を補完しているに過ぎない(信用補完機能)。しかしよく考えると、このような証券を出せる発行者は例外(国 地方自治体 大企業など)なのだと思われます。そしてさらに考えるといろいろなレベルの証券があることが理解されます。
 では中小企業、新興企業は直接金融にアクセスできないのか。近年このアクセスを認めようという考え方が広がっています。このアクセスを認めるということであれば、直接金融と間接金融の関係は、より競争的補完的になると思われます。
 ここでもう一つの考え方は、黒字単位と赤字単位との間に複数の証券が重なってゆくという考え方です。たとえば投資信託を考えてみましょう。これは直接金融でしょうか。間接金融でしょうか。最終的な資金の受けてまでの間が複雑化してゆきますね。こうした現象は金融の重層化と呼ばれます。

 金融のタイプについて池尾和人『銀行はなぜ変われないか』(2003)は、経済がダイナミックに変動するときは、資本市場中心の金融システム(企業買収によって事業会社が再編されている社会をイメージしてください)が有効だとしています(表1-2)。(このような評価は池尾さんに限られたものではありません。2つのタイプの金融システムを比較として、新技術産業の発展に市場中心の経済システムが仲介機関中心の経済システムより成功したとの評価は、たとえば以下に紹介されています。Franklin Allen and Douglas Gale, Comparing Financial Systems, MIT Press, 2000, pp.403-437, esp., 434-435.この2つのシステムの対比を、資本市場中心のシステムと、銀行中心のシステムと表現することが正しくないことは今日では共通の理解になっています。銀行というものを短期信用中心に捉えず設備投資資金の貸付もする存在としてとらえているからです。Bradley D.Nashは、資産や利益に対する持ち分を表わす有価証券により調達される、固定設備の建設資金を仲介する機能を投資銀行業と呼んでいますが、近年の日本の大手銀行はこのような投資銀行業、つまり資本市場との関係を深めているといえます。Bradley D.Nash, Investment Banking in England, McGrawhill, 1924, pp.3, 47.)

表1-2 2つの金融システム(池尾和人)
銀行中心の金融システム大口債権者大株主がvoice型のガバナンス産業の発展の方向がわかっている場合は有効
資本市場中心の金融システムexit型のガバナンス企業支配権の市場が存在産業構造の組み換え 産業部門を越えたダイナミックな資本移動といった課題に有効
池尾(2003)p.90-92

 ところでもともとは相対型だった銀行の長期融資業務が、近年、市場型の要素を加えつつあるようです。このように現実を考えるときは、対象とする事実を歴史的に変化しつつあるものとして捉えることが重要です。
 銀行の長期融資について、日本では、土地(不動産)担保主義。あるいは遡及権付き(with recourse)貸付が行われてきたという言い方がよくなされます。遡及権とは、担保資産を処分して債権を一部回収しても未回収債権が残る限りは返済を債務者に請求できる債権者の権利を意味しています。この側面でも、銀行が融資するときの判断の基準が、借り入れる側の不動産担保real estate based lendingからその収益力cash flowに変化しつつあるとされています(表1-3)。背景には遡及権を付けないノンリコースローンの普及があります。
 貸付債権の譲渡において、遡及権が付いた債権は譲渡後の権利関係が複雑になること。あるいは債権が不良化したときに、遡及権が付いたままだと回収が不能の判断が遅れやすいこと。などリコース付きローンの問題がわかってきました。そこでノンリコースローンの導入が始まりました。その結果、原則は担保を取りますし(加えて保証人を求めます)ので、あくまでも相対的な問題ですが、融資判断(開始 継続 条件変更など)において、財務数値に表れるような定量的情報の比重があがったとされています。
 このような一連の変化と、近年、スコアリングモデルによる貸付(無担保貸付を含む)、シンジケートローン、証券化、企業買収時の融資などに銀行が取り組むようになったこととは密接な関係があります。(もともと商業銀行は為替決済業務を担うことで、つまりサービスを提供することで資金調達コストを下げています。また多数の投融資を行うことでリスクの分散を実現しています。このほか長期にわたる債務者との取引経験、信用保証人制度など。金融リスクに対処する担保以外のこれらの多くの方法を思い起こすことは無意味ではないでしょう。J.R.ヒックス 新保博/渡辺文夫訳『経済史の理論(1969)』講談社学術文庫, 1995, 第5章参照。)

表1-3 貸付融資の判断区分
real estate based lending:REBL不動産など担保中心主義 遡及権付with recouse
cash-flow based lending:CFBLキャッシュフロー中心主義 ノンリコースnon-recourse→ シンジケートローンsyndicated loan 証券化securitization 企業買収時の融資
asset based lending:ABL売掛金 在庫 機械設備など動産担保などの資産をさらに担保をとることでCFBLの限界を超えたリスク融資をすること

ABLを私はこの表のREBLの意味で使っていたが、動産担保融資を考える上でABLにおける資産を不動産に限定した議論が狭いと思われること。さらに米国型ABLとの区別をつけにくいので、ABLをこの表にあるような米国型ABLの意味に今後使うことにする。 米国型ABLの入門書である以下を参照。G.F.ユーデル著 高木新二郎・堀池篤共訳『アセット・ベースト・ファイナンス入門』金融財政事情研究会, 2007.

 この変化(相対型から市場型 担保中心から収益力重視へ)という問題は、企業の側からみて、マイナスとばかりはいえません。金融取引を、金融機関から企業に対して外から与えられる外生的なものから、企業自らの創意と工夫によって、たとえば保有資産を証券化によって現金に換えるといったように、内生的(かつ内製的)なものに変化させるチャンスになっています。それを企業のリスク管理の進化とみることもできます

(1) 市場型間接金融market-based indirect finance
日本では間接金融と直接金融との中間に市場型間接金融market-based indirect financeと呼ぶべき金融分野が存在することが近年注目されるようになりました。それは金融仲介機関から資金が流れている点で明らかに間接金融なのですが、間接金融の特徴とされてきた相対型金融(取引条件の決定が相対の交渉によるものであり、取引への参加は交渉当事者を想定している その両者の関係は継続的取引関係がベースになっている)ではなく、取引への参加が交渉当事者以外のものにもオープン(あるいはオープンになりうるもの)であり、取引条件の決定で競争など市場メカニズムが利用されている点では市場型金融といいうる特徴をもっています。
 このような市場型間接金融の典型とされるのはシンジケートローンです。
 シンジケートローンでは幹事銀行(arranger)が、その企業の財務内容をベースに取引条件を決定します(入札auction方式がとられることもあります。大事なポイントは他の金融機関が参加できる透明性が求められるので、その企業の市場での評価が条件を決めるということです)。決定された条件で参加する金融機関(lenders)が広く募集されることがあります(open deal)。なお内輪のグループで引き受けるのはclub dealといいます。証券の発行において引受証券と企業が発行条件について話し合い、その後、引受証券が応募者を募集するケースに大変似た経緯ですね。証券の発行の場合も、相手方は市場ですから、発行条件はその企業の市場からみた評価が基準になります。
 シンジケートローンは金融機関にとっても様々な利点があります。まずとりまとめをする金融機関(arranger)や契約締結後、ローンの決済・事務管理を行う金融機関(agent)は手数料が得られます。シンジケートローン(協調融資)方式は、個々の金融機関にとっては融資額を抑えることにつながります。すでに見たように貸付条件は借入企業の信用力に見合ったものになります。従来型の相対型金融で金融機関は、しばしば融資をめぐる競争から企業の信用力に見合った金利を取リ損ねてきたのです。
 他方、企業にとって、単独融資ではむつかしかった大きな金額の長期融資を実現できるメリットがあります。
 デメリットは、アレンジャーはすべての事務負担があり、参加金融機関に対し善管注意義務があること、参加金融機関は融資残高に応じた多数決原理にしばられ、自由な行動はとれないこと、また融資先の実態に対する把握がアレンジャー任せになりがちだとされています。アレンジャー任せにしていたために、結果として、不良債権をつかむリスクがないとはいえないのです。他方、融資を受ける企業にとっては、金利のほかに手数料負担があり、契約につけられたコベナンツにしたがい、遵守義務・情報開示義務が生じる。黒木正人『わかりやすい融資実務マニュアル』商事法務、2007年, pp.59-60.
 シンジケートローンには、融資枠契約(コミットメントライン)型もあります。コミラインが、シンジケートローン普及を推し進めたともされています。
 それまで企業は、金融機関との長年の取引関係に頼っていました。融資の継続を信じていたのですが、1990年代に金融機関の体力が落ちて金融機関の貸し渋りを経験します。また長期にわたる不況の中で、不要の借入の整理を迫られます。
 コミラインでは、企業は、手数料を払って借入の選択権を得ます。この方式ですと借入は権利ですから、従来の暗黙に借入を期待する状態よりも、企業にとっては安心できます。また、コミライン契約を結ぶことで企業は借入を節約できます。
(コミライン契約ですが1年間の枠を設定してたとえばその間つねに3ケ月1億円までの借入が可能だとします。手数料はcommitment fee約定料方式だとされます。これは貸出残高に対して利息たとえば1.9%が発生し、未貸出残高には約定料率たとえば0.12%が発生するというものです。しかしこの方式では計算が複雑で管理コストが高くなることから、融資枠全体に対して定率のファシリティーフィーを請求する方式が選択されることもあるとされています。なお1年の融資枠契約を結んだときに、満期の1ケ月前までに貸出人、借入人のいずれかが申し出ない限り同一条件で契約を更改するというエバーグリーン規定evergreen clauseが設けられることもあるとのことです。以上の記述は大垣尚司『金融と法』有斐閣, 2010年, pp.222-226, 228を参照しました。)
 シンジケートローンという形態は実は以前からありました。シンジケートローン(協調融資)が注目されるようになったのは、特定融資枠契約に関する法律が1999年3月に制定されて、融資枠契約における手数料が、利息制限法や出資法の規制にかからないことが明確になったこと(対象は資本金が3億円以上の株式会社など)が大きいとされています。そして金融機関にとっては、手数料が稼げますし、貸出リスクは抑えられます(他方金融機関が注意すべきなのは、与信判断は個々の金融機関の責任で行うべきことであって、交渉窓口になるアレンジャー:主幹事や、融資事務の管理を行うエージェント:事務代理人は責めを負わないこと、融資枠契約は将来にわたる与信供与の約束であるので財務内容の優良な企業を選別して結ぶべきものだとされています。高橋俊樹『融資の常識50考第2版』きんざい, 2011年, pp.92-93, 100-101)。このように参加金融機関がシンジケートローンに参加する判断は「自己責任原則」が適用されるが、その前提として、アレンジャーが信義則上、適時に適切な対応をすべき義務を負っているとされます(平野英則『よくわかるシンジケートローン』きんざい、2009年, pp.66-68)。融資枠契約は、企業側・金融機関側双方のニーズに合っていたので急速に普及しました。
 融資枠契約が企業にとって将来の資金面でのリスク管理に役立つことも理解できますね。
 なおシンジケートローンではコベナンツ(財務上の特約)が必ず登場します。その理由としてシンジケートローンではローンの譲渡が前提になっているため、「銀行取引約定書」が交わされない。そこで約定書に定めてある期限の利益の喪失など、銀行が取り立てで有利に建てる条項を、コベナンツという形で銀行は確保しようとしていると説明されることがあります。

(2)資産証券化asset securitization 
 つぎに証券化についてお話しましょう。これはここまでの直接金融・間接金融という言葉からすると直接金融です。ですから証券化は間接金融の役割の低下financial disintermediationにつながるとみられていました。少なくとも伝統的な金融仲介機関の後退につながると見られていました。
一般に仲介機関外しの動きをdisintermediationといいます。その典型はインターネットを通じたさまざまな取引で、メーカーが顧客とダイレクトにつながる動きに見られます。このようなインターネット取引が普及すると、さまざまな仲介業者が取引から外され、メーカーと顧客がダイレクトにつながることになると議論されています。同じことが金融機関についても議論されたわけです。
 しかしfinancial disintermediationは杞憂だった、心配が過ぎていたように思います。むしろ金融仲介機関は証券化のプロセスに自分自身が入っていったと思います。自らの資産を流動化する方法として、また自らの資金の運用対象として。
 証券化についてのもう一つの論点は、証券化を通じて企業そして金融機関の資産が、証券化されたということについてです。
 これを資産証券化asset securitizationといいます。企業そして金融機関の資産は、資産証券化というプロセスにより、外部の投資家の投資対象に変化した。企業や金融機関は自分の資産を新たな資金源として活用できるようになった。保有資産というのはリスクを抱えた存在でもあります。証券化は、その資産を資金調達の手段に変えたのですが(これを内製化bring in houseということがあります)、リスク資産の大きさをコントロールする手段になっています。
証券化についてはいろいろな側面があります。リスク管理の手段としてみるべきではないかというのがここでの主張になります。(資金調達手段の多様化である、資金コストを引き下げる手段である、資産を圧縮することで資産効率の改善につながる、など様々な見方があります。しかし資産には収益を生む側面もありますので、それを売却するのはその資産保有のリスクが、企業や金融機関が許容できる保有リスク量を超えているからだと考えるわけです。)
 証券化については、実質的にオリジネーターの取引なのに、その簿外取引になるという批判があります。ただ証券化という行為そのものが、オリジネーターと切り離すことで成立しますので、こうした批判を受け入れてよいのか疑問も残ります。 証券化の進展により、近年では、既存資産(過去の投資資金の回収)だけでなくfuture assetつまりfuture cash flowが証券化の対象になったこと(新規事業資金の調達)が注目されています。
 証券化についてさらに学びたい人には次の本を薦めます。
Frank J.Fabozzi and Vinod Kothari, Introduction to Securitization, Wiley:2008

originally appeared in April 21, 2010
corrected and reposted in February 25, 2012

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Economics」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事