Entrance for Studies in Finance

消費税引き上げ 交付国債・復興国債 ゆうちょ銀 など

消費税引き上げが年金の充実につながらない
 社会保障制度を維持するために必要だとして現行消費税率5%を10%に引き上げることが当然のように議論されている。これにはこれまで引き上げを先延ばしにしていたのだから、ここで引き上げなければ財政収支改善の遅れにつながるとの意見も。引き上げ案が流れれば国債暴落を招くとの指摘も。2011年末までに2014年4月に8%(8兆円 制度の維持に7.1兆円 社会保障の充実に0.9兆円)。2015年10月に10%(13.5兆円 制度の維持に10.8兆円 社会保障の充実に2.7兆円 2012年2月公表の政府試算による)など。引き上げることが決まったかに報道されているが、これはあくまで民主党党内の話。そして野田政権の方針決定にすぎない。
 今回の引き上げ案(5%引き上げ分の配分)では、地方消費税は1.2%(これまでの1%と合わせ2015年10月には2.2%)。残る3.8%から地方交付税として0.34%を配分、国3.46%、地方1.54%で決着した(当初想定より地方に厚い)。なおこれと併せて所得税の最高税率を40%から45%に引き上げることが固まったと報道される。
 しかしこれとて野田政権の案にすぎない。それが決定事項のように連日報道されるのは腹立たしいことだ。野田政権の案では子育て支援の拡充や低所得者の健康保険料と介護保険料減額、低所得者年金加算など社会保障の「充実」により社会保障費が膨らんでしまう。他方で年金の水準は変わらないとすれば、実に腹立たしいことだ。逆にであるが消費税率を20%にする代わりに、思い切った手厚い社会保障を実現できないものだろうか。
 ところが驚くべきことは今政府が出そうとしているのは、実は給付の抑制(年金の減額)の話(とりあえずは2000年度から3年間 物価下落にもかかわらず下げなかった分を2012年10月より3年かけて減額 また 高所得者の年金減額)。しかし国民が望んでいるのは、むしろ給付の充実、引き上げではないだろうか。
 次第に悪化する給付内容と消費税率の引き上げというのは最悪の組み合わせのように思える。なお前回の消費税引き上げは1994年11月に法案が成立。1997年4月から3%から5%に引き上げられている。今回の引き上げは実現すれば17年ぶり。しかし実現したとしても、いずれ次の引き上げがくるのではないか。
 必要なことは、年金給付の単なる維持ではなくその充実と消費税引き上げとの組み合わせではないだろうか。現在のままでは支給年齢の繰り上げ、各種自己負担の拡大など社会福祉の質の低下が今後続くことが懸念されよう。

すでに予算編成は消費税引き上げを前提
 2012年度予算案では、復興債(目的を復興資金の調達に限定したもの 復興基本法2011年6月成立により導入決まる)の発行と交付国債の発行が行われることになるが、この交付国債は消費税の引き上げを前提にしている点が批判されている。つまり予算上は、消費税引き上げを前提にしている。
 すなわち基礎年金の国庫負担割合を2分に1(2009年度に従来の36.5%から50%に引き上げ)にする財源(2兆6000億円)を交付国債で賄い予算規模を縮小させている。
 交付国債は当面現金の支払いをせず、一般会計に計上の必要がないというもの(政府の支払いを繰り延べるもの 後述)。新規国債発行を当面回避できる。基礎年金の不足財源については、消費税が実現するまでの間は積立金の取り崩しで賄う。年金債の議論は、消費税の時期の明確化で押し切られたかたち。年末までに民主党としては、2014年4月に8%。2015年10月に10%などの案を決定している。
 交付国債のおかげで新規国債発行額を44兆円以下とすることができたともされる。つまり交付国債は、消費税の引き上げを前提にした、将来の支払い約束のようなもの。支払いが実行されるまでの間、積立金の取り崩しでしのげと言っているのと同じだ。

 なお交付国債は昔からある仕組み。明治時代。旧幕藩の負債や旧武士の処遇のために発行された内国公債(新公債1872 家録公債1874 金録公債1876など)は、記名式の交付公債だった。小林和子さんはこれを「本来なら政府が現金を支出すべきところを公債を交付して、現金支払いの時期を公債の元本償還時にまで繰延べたもの」と説明している。1878年起業公債が国内で公募で発行されることになり、初めて無記名の公債が国内で登場する。小林和子『株式会社の世紀』日本経済評論社, 1995年12月, pp.45-46.

復興国債は新規国債ではないという言い訳
 他方、復興国債は単純に別枠で発行することで、新規国債を見掛け上、圧縮するというもの。復興債は通常の国債と別枠で発行される。使途を震災復興に限定。復興に関する経費は復興特別会計(3兆7754億円)で扱う。
 復興債は2011年6月成立の復興基本法に発行方針が定められた。当初は個人は相手にせず。10年以下の期限債で償還を予定する。11-15年度の5年間に発行。などが想定されていた。そして増税期間が22年度までなので借換債含め22年度末の償還を予定。復興資金は今後5年間で13兆円
 復興債の財源には臨時増税をあてるものとされた。
 その後、個人向け復興債が議論され、2011年12月5日 個人向け復興債発売開始。これは従来型といわれるもの。従来型個人向け国債の
名称を「復興国債」としたもの。発行された変動10年物は金利年0.72%(税込)。固定3年は年0.18% 固定5年が年0.33%。販売額の2割を占める大手7銀行での販売額は合計で1000億円でこれは2011年9月の販売額の2倍。販売件数もほぼ2倍の約2万4000件に達した。
 これに対して2012年3月から復興応援国債(変動10年)の発行が始まる予定。これは当初3年は金利0.05%と金利を我慢してもらう分(4年目からは通常型の金利)、1000万円保有に対して金貨1枚100万円保有には銀貨1枚、中途換金しなかった保有者に進呈というもの。この金貨のプレミアム価値によってはお得というのだが。市場金利を得られない部分は寄付だというコンセプト。

別に臨時増税問題が控えていることは隠されている
 なおあとで重くなる復興増税(臨時増税)の仕掛けがすでに仕掛けられている。
 法人税  予定していた減税年7800億円(実効税率5%下げ)を3年先送り 合わせて12年度から3年国税を10%上積み(復興特別法人税)
 所得税  税率引き上げは2013年度から10年間(増税の実質恒久化という批判あり)
 住民税  個人住民税引き上げは2013年6月から5年間
 たばこ税 → 1本2円として年2000億円 10年間で2兆円
      → 2012年10月から国税を10年 地方税を5年

政府保有株売却による資金作りはされず
 政府保有株の売却については手続きが必要でいま直ちに財源としにくいという問題としにくいと議論されている。
 たとえばJT株売却については→JT法の改正必要 手続きに時間必要 だから入れられない 財務省等の主張 自民党は全株売却に反対
 現在は50%を政府保有 3分の1(33%)に下げて約5000億円 残りも売れればさらに約1兆円
 民営化されれば経営の自由度高まることに期待も

確かに郵政問題はこう着状態している
 あるいは日本郵政株の売却については→郵政関連法案の成立が前提 売却できれば6兆円出るがそもそも買い手がいるか
           事業はじり貧 しかし売却のために業容拡大を認める案には反対意見がある その前に
           政府保有株の処分を求める声があり 議論が進まない。
 民主党には市場主義者と反市場主義者の両方がいて党としての方針が決まらないこともある。

郵政民営化は袋小路に入ってしまった
 民営化(07年10月)で持ち株会社の下に郵便局会社 郵便事業会社 ゆうちょ銀行 かんぽ生命保険の5社体制
   ゆうちょ かんぽ で利益でるものの 利益の6割はゆうちょ 2割がかんぽ 残高が減少しているので減収傾向
   郵貯の貯金量は2000年のピーク時には260兆円。しかし2010年3月期には175.7兆円。2011年9月末には175兆円。
   三菱東京UFJの103兆円より多いが減少傾向は明らか
   郵便事業会社 は赤字体質 たがトータルでは 日本郵政グループは黒字 しかしその収益力は低下傾向
   立て直しが必要だが方針が決まらない
   政府保有株(100%)は2017年までに全株売却の予定であった。
 
 2009年12月 日本郵政グループ 株式売却凍結法成立 民営化路線はすでに中断している
 → 他方 民営化委員会(田中直毅委員長) は 政府が株式保有を続ける間は 新商品 新サービスを認めないと硬化
 2010年7月 参院選で与党過半数割れ 新規事業の届け出制への移行 ゆうちょとかんぽ 預入限度額引き上げを
定めた 郵政改革法 の成立困難に。
 2010年10月 郵政民営化委員会ヒアリングで政府の100%保有を批判する意見出る。
 郵政改革法案(持ち株会社と郵便事業会社 郵便局会社の合併) 2010年4月国会提出は審議見通し立たず

 郵便事業そのものの赤字が膨らむ傾向  
  郵政は、新規事業解禁(貯金 簡易保険の限度額引き上げ 住宅ローン がん保険事業への参入など)を期待
  民営化委員会は 事業会社のもとに巨大な金融機関がぶら下がる形は 経営の安定性に懸念があると反対(2011年1月)

 ゆうちょ銀行の運用は国債(運用比率8割?)に偏っていて 金利リスクに弱い
 超長期債を積極的に購入
 2010年3月期 民営化後初めて米ドル債購入(3000億円)
 急速に海外投資を急増させているとの報道もある(これは円高対策とも)。
 しかし ゆうちょ の国債運用が 国債消化を助けている側面も否定できない 
 2010年9月末で総資産は約190兆円 有価証券投資は170兆円あまり 150兆円近くは国債で運用。
 国債での運用比率を下げて外債保有を増やしているとの指摘がある
 (背景:運用資産が減るなかでの収益確保要請⇒リスクを抱えていないか気になるところ
 例:ユーロ圏国債など)
 
 うまくゆかない新規事業
  2008年8月にはJPローソン しかしこの出店は拡大していない(年2億円の売り上げというバーがあるためともされる)
   住宅ローンの仲介(08年5月開始) 損害保険 引っ越しの取次など新規事業も伸び悩む
  2010年3月 亀井郵政担当相に 非正規職員の正規職員化求められる → 2010年11月 12月から8400人超の非正規職員の正規化発表
  2010年7月の日本通運ペリカン便との宅配便事業統合(JPエクスプレス)はマイナス要因で赤字膨らむ
    遅配(損失約100億円)→ ゆうパック 客離れ
  JPエクスプレスを解消して事業は郵便事業会社に (解消に伴う経費約320億円)

 ゆうちょ銀と銀行界はいつのまにか和解
  ゆうちょ銀が支払う預金保険料は無視できない 連携の必要を認めるように次第に変化
 ゆうちょ銀行 全国銀行協会に加盟の方向で調整(預金者保護 有事対応で連携の必要性) 2011年5月末
 ゆうちょ銀行 全国銀行協会に加盟の方向 特例会員制度の創設(全銀協理事会で承認) 2011年9月

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.



  
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