Entrance for Studies in Finance

米国の為替条項要求と日本側の政策の手詰まり

米国は日本との貿易交渉で、通貨切り下げを封じる為替条項を求める考えを繰り返し示している。
日本側はこの交渉を物品貿易交渉TAGと呼び、為替については
日本は為替介入を長年していないと反論するが、米国は日本の量的金融緩和政策そのものが通貨安誘導政策であることを見抜いている。
2018年9月末にすでに北米自由貿易協定NAFTA再交渉で成立した米国・カナダ・メキシコUSMCA協定では、為替条項が導入されている。
為替条項をちらつかせることで、貿易交渉を有利にしようとしているとされる。

しかし競争的通貨切り下げの回避は国際通貨基金IMFの協定にもある。それを起きて再確認しても大きな問題がないとの意見もある。
ではそれにもかかわらずこの問題が騒がしいのはなぜか?

市場ではドル高の基調が続いている。トランプ政権による法人減税や財政支出拡大により米国は景気拡大を続け、
米連邦準備制度FRBは2018年4回にわたり利上げした。この結果、米国への資金流出が促されドル高が進行した。為替リスクを考えると
ドルを決済通貨とした方が有利なのだ。世界経済における米経済のシェアは相対的に低下しつつあるが、されたのである。新興国通貨不安もあって
国際通貨ドルの地位は逆に高まっている。円安の原因は、米国の経済政策にあるともいえる。
私の考えは米政府が為替条項をもちだすのは、為替変動の原因を他国に転嫁して、
自国の経済政策を原因に上げられたくない心理の現れではないかと思える。

また企業の対外M&Aに伴う円売り・ドル買いが円買い圧力を弱めたとも指摘されている。

ドル高の影響は新興国に大きい。新興国ではマネーが流出。対応して国内金利を引き上げている。また通貨がさがるため物価の急騰が起きている。またドル建て債務の負担が増している。
新興国債券にデフォルトの不安が高まっている。トルコやアルゼンチンなどの通貨が激しく変動した国は少なくない。

ドル高は日本の投資家には海外投資を増やすチャンスである。直接投資。債券投資。ただ債券投資では
先に投資したものが金利上昇で評価損がでている。
またドル調達コストが急上昇して投資にストップをかける側面もある。

為替条項については、日本の量的金融緩和政策が制約を受けるとして市場が反応しているとの解釈がある。
確かに米国の景気回復に伴う利上げが、ドル高の基本的背景。しかし日本が量的金融緩和政策を続け、超低金利にあることは米国との金利格差を広げ
ドル高・円安要因であることも事実だ。円安は日本企業の経常利益を押し上げている。日本企業は現地生産を進め、
2011年以降は直接投資収益が貿易収支黒字を上回るようになっている。円安はその利益のかさ上げに役立っている。
その出発点は安倍政権での量的金融緩和政策の拡大であった。

ただ為替条項の問題がなくても量的緩和政策がすでに限界にある。展開余地がないとの指摘も多い。
金融機関収益などへの副作用も目立ち金利を再度
下げる余地は乏しい。
その意味では米国が景気回復を続け、円安局面が続くことは日銀にとってもありがたいことだった。
しかし2018年10月頃から世界経済は米中貿易摩擦の激化から変調が目立つようになった。なお変調を多少緩和したのは
原油安で米国のインフレ期待が抑えられたことである。米国の実質金利が上がることでドル高が維持されたのである。
ところがいま米国の景気が転換点にある。政策の行き詰まりという危機はこれからかもしれない。



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