今回の課題図書は、芥川龍之介著「藪の中」、森見登美彦著「新釈走れメロス」に収録されている「藪の中」を読み比べてみました。
まず、会の皆さん一人ずつから読後の感想をお聞きしました。
1さん
芥川版は、読み込んでも真相が分からず、誰かが嘘をついているのか、誰を信じればつじつまがあうのか考えたが思いつかなかった。夫である武士を殺したのは誰か、突かれた刀を抜いたのは誰か謎が残る。
森見版は、恋人を昔の恋人にいちゃいちゃさせる鵜山君の行為に共感できなかった。楽しくフランクに読むことができた。
2さん
芥川版は、昔読んでよく覚えてなかった箇所がある。
森見版は、鵜山と菜穂子は共依存のような関係だと思った。「映画」で繋がる仲は、映画が無くなったらどうなるのか。二人は愛情よりは映画撮影の技術で繋がっているので、経営者的目線でお互いを見ているよう。
菜穂子の供述に嘘が多いように感じた。キスのタイミング、銀杏の発言、喧嘩の仲裁など。
情緒不安定な人に見える。
3さん
課題図書の共通点はあまり無く、一人語りと三角関係しか類似点が見られなかった。別の読み物として読んだ。
芥川版はもやもやして終わった。森見版はまとまってる。
どちらの作品も女性が嘘をついているように感じた。男性が損してる。
女性側が自分がよく見えるように嘘をついているように見えた。
4さん
二つの共通点は、嘘をついてること。
芥川版を最初に読んだが、森見版がどうアレンジするか楽しみだった。読んでみたら、映画を題材にしていたので面白かった。
嘘と本当が入り交じってる作品を読むと、日頃取り扱ってる刑事事件を思い、自分なりの真相を見つけたいと思う。
そのために普段から行っていることは、時系列に証言を並べて証言者の属性を鑑みて、信用がおける供述から何が言えるかを考えていく。今回は時間がなく、供述を検討していない。時間があったらやりたい。
5さん
どちらも誰かが嘘を言ってる。
人は自分に都合が悪いことは無意識的にでも従ってしまう側面がよく出た作品だと思う。
女性が感情的に嘘をついているように意図的に書かれているように感じた。
6さん
二つの本で一緒だと感じた点に着目した。殺された夫と鵜山の目が冷たく蔑んだように女性を見ていた点。鵜山くんは嫉妬に燃えて脚本を書いたように感じた。
7さん
芥川の藪の中は昔から持っていたが読んだのは最近。黒澤明の「羅生門」がここから題材を取ったことはよく知っていた。かわいい自分を守るために嘘をつく。
会社勤務の経験から、客からのクレームに関連する情報を集めて矛盾する点を考えていく。お客さんを説得するためのストーリーを考える。
8さん
芥川版は、時代もあるが男性主導で話が進んでいく感じがある。ウェブサイトなどでいろいろ読んでみた。多襄丸の自分の虚栄心、いいかっこしからあんな告白をしたのかと思う。
夫は盗賊にやられてしまいカッコ悪くて死んでからも本当のことが言えないのか。
森見版は、芥川版と違いわき役の人たちにも色々な意見があって面白かった。
中々フリートークで感想が言いにくいとの感想を以前にいただいていたので、ホワイトボードと付箋、マジックを持ち込んで15分ほどのワークをしてみました。
芥川版から「多襄丸、女、男のうさんくさい発言」があるかを付箋に書き出していただき、ホワイトボードに貼った物を基に皆さんで感想を交換していきました。
この会では、勝ち気な女がすすり泣き、気を失うことに嘘の雰囲気を感じた方が多かったようです。
男殺害の刀、短刀の在処に気がかりになる人も多数。殺害方法、ためらい傷の有無など専門家からの貴重なご意見もあり。その流れから女性に殺せるのか、という意見も。
黒澤明の「羅生門」での一つの解釈も紹介され、個々人の感想が深化されたのではないでしょうか。ウィキペディアでの芥川竜之介の生い立ちも紹介し、当時の時代背景、男女の違いなども気になるところです。
次に、森見版の読書感想を交換しました。登場人物の主観で証言が集まっていく話のなかで、「本当」の部分に焦点を当てて話をしていきました。映画の中のキスシーン、虹、映画が前評判ほどおもしろくなかった、映画が制作された、ことは真実前提で話が進みました。
鵜山くんが長谷川菜穂子を好き、好きだから魅力的に撮れるのか、魅力的に撮ってくれるから鵜山くんが好き、という点がよく話されました。
どちらからキスしたのか、という実行行為についての話題から三人の立ち位置の話に。
最後は銀杏の葉っぱの謎が残りましたが、時間となってお開きとなりました。参加された会員の皆様、お疲れさまでした。
次回30回福井読書感想交換会は、平成30年9月26日(水)19:00から21:00までの予定で開催します。
会場は福井県立美術館横「美術館喫茶室ニホ」です。
取り上げる本は、ダニエル・キース著「アルジャーノンに花束を」(早川書房)を取り上げたいと思います。
飛び入りも可能ですので、お気軽にご参加ください。