袋田病院ブログ

茨城県大子町にある精神科・直志会袋田病院のブログです。

造形教室便り  ~「輝」3月号より~

2016年04月08日 11時24分25秒 | 院内誌 「輝」 より
3月号より

創作活動の可能性。Y氏の半生を通して

 既にご周知のことと思いますが、先月から新棟外来の自販機のある個室でデイケアメンバーであるY氏の個展を行っております。
Y氏といえばその昔、快楽に身を委ね、身も心もボロボロになった多難な人生を歩んできた患者さんです。
そんなY氏がデイケアで、ステンドグラスに出会ってから、かれこれもう10年近くになりますが、今ではそういった誘惑や苦難を見事に乗り越え、三食を忘れる程に、ご自宅のアトリエで昼夜制作に没頭しています。
今や創作活動が彼の生き甲斐となっている様子が、日々の表情から伝わってきます。
四年前、初めてY氏の個展を外来の廊下で開催することが出来ました。
その期間中、彼は毎日の様に新棟に来所し、朝から展示台に設置されている芳名帳に書かれた感想文に目を通すのが日課となっていました。
院内とはいえ、ご自身の作った作品がデイケア以外でお披露目されることで、不特定多数の他人から承認され、多くのエールを送って貰えたことはご本人にとってかけがえのない貴重な体験だったと思います。
創作活動のこういった副産物は、言語化されたり数値化されて表れにくいものですが、今の彼にとって、そういった具体的な成功体験がモチベーションや確かな礎となっているのです。

 日進月歩で開発されていく投薬や療法の発展は、精神科医療に多くの恩恵をもたらしているのだと思います。
しかし、それでも尚、(当然かもしれませんが)この業界には多くの問題や課題が横たわっています。
そんな中でY氏は能動的に創作活動に取り組むことで、こういった現状をはね返す様に、投薬以外の具体的な回答例を、彼なりに精一杯示してきたように思うのです。
時に彼の粘着的な個性に振り回されて、困ってしまうことも少なくありません。
しかしそれでも、私たちスタッフは彼の変化と成果の現場に立ち会い、ここまでを見届けることができました。
ステンドグラスと出会ったことで、彼の生き方は大きく変わり、文字通り生活に彩りが生まれたのです。
私はスタッフとして、彼の創作をサポートしていくことと同時に、彼の素直で無骨な人生に立ち会えたことで、却って私自身が創作活動の意義と可能性を、改めて見つめ直すきっかけになっています。

デイケア・上原