平成30年度秋季東京都高等学校野球大会一回戦で、昨年の優勝校で今夏の甲子園ベスト4の日大三高が目白研心高に5-7で敗れる波乱(これは波乱でしょう)がありました。
そもそも、東京都内に多くの高校が存在している中で大変失礼なことですが、目白研心高という名前はこのニュースを観るまで存じ上げていませんでした。
目白研心高校は、東京都新宿区に所在し、中高一貫教育を提供する私立の男女共学の高校です。1923年(大正12年)に創立者の佐藤重遠さんが男子校である研心学園を設立。目白商業学校を経て、1944年(昭和19年)に目白女子商業学校として女子校に転換しました。1948年には学校名を目白学園中学校・高等学校に改め、その後約半世紀の間、女子校でしたが、2009年より目白研心高等学校と改称し、男女共学の進学校となりました。
硬式野球部は目白研心高に校名を改称した、2009年に創部されました。過去の戦績は、お世辞にも野球強豪校とは言えない結果です(ごめんなさい)。
2018年度
【第100 回全国高等学校野球選手権東東京大会】
一回戦 ○9-3 葛西工高
二回戦 ●4-2 高島高
【春季大会一次予選】
一回戦 ●6-8 南山高
2017 年度
【秋季大会一次予選】
一回戦 ●0-1 工学院大付高
【第 99 回全国高等学校野球選手権東東京大会】
二回戦 ●5-8 江戸川高
【春季大会本大会】
一回戦 ●4-6 東京農大一高
2016 年度
【秋季大会東京都高等学校野球大会一次予選】
一回戦 ○6-5 日比谷高
二回戦 ○9-2 東村山高
【秋季大会東京都高等学校野球大会本大会】
一回戦 ●3-7 堀越学園高
【第 98 回全国高等学校野球選手権東東京大会】
二回戦 ●5-6 三田高
【春季大会一次予選】
一回戦 ○13-6 足立東・桐ヶ丘・杉並工・農産
二回戦 ●0-11 石神井高
2015 年度
【秋季大会東京都高等学校野球大会一次予選】
一回戦 ●0-9 明大付中野八王子高
【第 97 回全国高等学校野球選手権東東京大会】
一回戦 ○7-0 目黒高
二回戦 ○10-0 田園調布高
三回戦 ●5-6 青山学院高
【春季大会一次予選】
一回戦 ○14-0 秋留台高
二回戦 ●9-10 田無高
2014 年度
【秋季大会東京都高等学校野球大会一次予選】
一回戦 ○10-2 橘高
二回戦 ○8-0 桐ヶ丘・足立東・田柄高
三回戦 ●5-6 錦城高
【第 96 回全国高等学校野球選手権東東京大会】
二回戦 ○12-10 上野学園高
三回戦 ●1-6 岩倉高
【春季大会一次予選】
一回戦 ○5-4 東京農大一高
二回戦 ○10-0 南平高
【春季大会本大会】
一回戦 ●1-9 駒込高
2013年度
【秋季大会東京都高等学校野球大会一次予選】
一回戦 ○11-1 和光高
二回戦 ●0-8 日大二高
【第 95 回全国高等学校野球選手権東東京大会】
二回戦 ○4-1 渋谷教育学園渋谷高
三回戦 ●1-8 日大一高
【春季大会一次予選】
一回戦 ●0-14 日大二高
2012年度
【秋季東京都高等学校野球大会 1 次予選】
二回戦 ●0-10 足立学園高
【第 94 回全国高等学校野球選手権東東京大会】
二回戦 ○3-2 学芸大付高
三回戦 ●0-2 文教大付高
2011 年度
【第 93 回全国高等学校野球選手権東東京大会】
一回戦 ●0-10 攻玉社高
硬式野球部の監督に就任したのが、鈴木淳史監督です。鈴木監督は高校時代、新潟明訓高で二年生の夏に甲子園出場、三年生時にはキャプテンを務め、最後の夏は新潟大会決勝戦まで勝ち進んでいます。卒業後は、東都リーグの中央大学でプレー。在学中に教員免許を取得し、その後、山梨県の日本航空高でコーチを経験してきました。
「創部してすぐに、野球部に11人の部員が入ってきてくれました。だけど、ユニフォームを着てグラウンドに全員が集まることはなく、しばらくすると、9人が辞めてしまった。今、振り返ってみれば、僕と部員の野球に対する気持ちの温度差が大きかったんだと思います。だけど、その当時は気付けなかったんです。それから部員が2人になって、大会にも出られない状況で、それでもその2人は野球部を辞めませんでした。他の部員と比べても、決して野球が上手いわけではなかった。だけど、彼らは野球がもっと上手くなりたいからと、残ってくれた。あの2人が残ってくれたからこそ、今もこの野球部が存続しているんですよね。あいつらが、目白研心野球部のパイオニア。この野球部は、一番ヘタで、一番マジメなやつが、作ってくれた野球部なんです」
また、そんな2人と、僅か3ヶ月間、一緒に野球が出来た当時の一年生部員3人にとっても、先輩の前向きに練習に取り組む姿をみて、感じるものは大きかったそうです。
三年生が引退後、鈴木監督は一年生部員の3人にこんなことを伝え続けてきました。「これからは、お前たちのチームだ。この3人で、目白研心野球部の歴史をさらにつなげていくんだよ」。
まだ、野球部のルールもなく、上下関係もない。目白研心というチームを、どんな色に染めるのか。どんな雰囲気にするのかは、彼ら自身でした。鈴木監督は、自らが経験してきたような強豪校特有の雰囲気を部員たちに求めることはいませんでした。3人の部員たちと共に動き、共に考え、そして見守り続けました。
「この状況で、この人数で野球をするのだから、何でもありなんです。僕自身がこれまで“何でもありではない”環境で野球をやってきたので、逆にそれをさせない。僕の期待をいい意味で裏切ってくれるような野球をしてほしいんですよね。だから練習でも、全員で声を出そうとか、そういうことを求めるのではなくて、それぞれの役割というのを考えていく。一人ひとりの色を大事にしていきたかったんです。選手が自らつくった雰囲気のチームじゃないと、試合では勝てないですから」
翌年、春になって、3人の部員たちが二年生になると、野球に興味がある生徒を鈴木監督自ら声を掛け、「一緒に野球をやろう」と熱い思いを伝えて回り、その結果、12名の一年生が入部しました。
「創部したばかりのチームで、この場所でしか経験できないことを選手たちには身に付けてほしいんです。練習時間も、実際にグラウンドが使えるのは、平日は週3日の1時間30分のみ。だからこそ、物事の捉え方や考え方を工夫しながら、チームを作っていってほしいんです」
「僕はこれまで日本一を目指す野球をしてきました。だけど、ここでは、目標は選手それぞれが持っていていいと思うんです。甲子園に行きたい選手もいれば、代打でもいいから一度でも打席に立ってみたい選手もいる。どんな目標でも、そこに向かって工夫しながら、3年間やり抜いてほしい」
そして、野球部員のその頑張りこそが、男女共学となったばかりの学校にも、活気を与えられるのだと、鈴木監督は考えていました。
「新入生約170人の生徒の中で、男子生徒は60~70人。その男子生徒の6人に1人が野球部なんです。元々は女子校だったので、女子生徒のパワーが強い校風の中で、まずは野球部が男子生徒を、そして学校全体をも盛り上げるきっかけになってほしいんです」
そんなスタートだった目白研心高野球部が、今年の暑い夏を思い出させるような、熱い風を吹かせてくれました。