買い物に行くと「○○カードをお持ちですか?」とレジで必ず聞かれます。この聞かれているカードはポイントカードを指します。
電器店などでよく見かけるのが、「購入金額に対して10%のポイントを付け、そのポイントは現金同様にその店で買い物をするときに使える」という、「ポイント還元」と「その場で10%の現金値引き」というものです。
基本的にどっちも10%なので、同じように思えるのですが、実は明らかに値引き率は異なります。
10%ポイント還元の場合、10万円の買い物をすると、1万円分のポイントがもらえます。しかし、支払うのは10万円です。
現金値引きの場合は10万円の文字どおり10%の値引きでで、9万円の支払いでいいのです。
さらに、現金値引きでならば、安くなった分、他の物を買うことも出来ますし、貯金することも出来ます。つまり、現金値引きには汎用性がありますので、実際はお得なのです。
ところが実際には現金値引きよりも、ポイント還元をしているお店の方が多いです。また、ポイントを溜めることの方が、なんとなく嬉しく思える傾向があります。
これが「保有効果」という心理的な傾向なのです。
保有効果とは、人間は自分の持っているものを高く評価する傾向があり、そのためにいったん手に入れたものは手放したくなくなるという心理のことを言います。
米国の大学での実験で、学生を2つのグループに分け、一方のグループには大学のロゴマーク入りのマグカップを渡し、もう一方のグループには何も与えず、マグカップを与えたグループのメンバーに「あなたが持っているそのマグカップ、いくらだったら売りますか?」と質問したところ、平均5.25ドルだったそうです。一方、何も持っていないグループに同じマグカップを見せて、「あなたはこのマグカップ、いくらだったら買いますか?」という質問に対しては、平均2.75ドルだったそうです。
同じマグカップなのですが、持っている人と持っていない人との間では評価金額が倍近く違うと言うことになりました。つまり、人は一般的に自分のものになっている場合、高い評価を与え、出来れば手放したくないと考えるとの結論です。なんとなく、思い当たる節があると思います。
また、通販などで「○○日以内であれば返品自由。ただし、輸送料は負担」とすると、買い物行動に対する心理的ハードルが下がり、売り上げが増えるそうですが、実際の返品は2~3%なんだそうです。これも持ち続けたいという心理をあらわす保有効果と言われています。
つまり、ポイントを貯めることを好むのは、この保有効果が働いているそうです。貯金通帳を眺めて嬉しい気分になるのと同じで、実際にポイントが貯まると何となく嬉しい気持ちになります。それにある程度貯まってくると、「もっと貯めたい」という心理が働いてくるようで、なかなか貯まったポイントを使おうとしません。私も同じようなものですが、出来るだけポイントを貯めて、まとめて高価な物をポイント(無料)で手に入れたいと思っているからです。
逆に現金値引きの場合、買った時は得をしたと思いますが、そのうち値引きのことは忘れてしまいます。
しかし、本当はポイントを貯めることは、経済的には合理的ではないとのことです。なぜならば、ポイント自体には金利が付かないからです。ポイントを使わずに貯めるのは、つまり貯金箱にお金を貯めるのと同じです。別にタンス預金が良くないと言っている訳ではありません。また、貯金箱は自分でお金を入れるだけで済みますが、ポイントは少なくとも、その何倍もの買い物をしないと付きません。
つまり、100円で1ポイントが付くような日本最大手の○ンタで、100円分のポイントを貯めるためには1万円の買い物が必要となるのです。案外、非常に不合理なことをやっているということになるのです。行動経済学ではこれを「選好の逆転」と言うそうです。結果的に目的がポイントを貯めることになってしまい、そのための手段として結果的に買い物金額が増えるという、本末転倒なことになってしまいます。
「同じ買い物をするなら、ポイントがもらえるお店にしよう」と、わざわざ遠いお店に出かけたり、「今日はポイント2倍デーだから何か買い物しなきゃ」といったことは、売り手の作戦にはまっていることになります。
ポイント自体を貯めることは悪いことでも何でもないです。ですから、ポイントを貯めることはそれほど気にせず、ポイントを付けてもらいたいために無駄な買い物をするのではなく、単におまけレベルで考えておくことが良いでしょう。