野球小僧

世界最強の労働組合

先日、ロサンゼルス・エンゼルスに移籍の決まっている大谷翔平選手の代理人事務所、CAAスポーツが球団オーナー側を非難する声明を発表。野球部門のブロディー・バンワガネン共同代表が選手によるキャンプのボイコットを示唆しました。

これは動きが非常に遅くなっている今オフのMLBのFA移籍問題が発端です。今オフのFA市場は異常事態と言ってもいいくらいで、FAになった選手は166人ですが、2か月以上が経過、投手、捕手のスプリング・トレーニング(春季キャンプ)開始直前というのに契約に至ったのは31人。まだFA全体の18.6%しか行き先が決まっていません。

先発ナンバーワン評価のダルビッシュ有選手がようやくシカゴ・カブスに契約が決まったものの、ジェイク・アリエッタ選手、J.D.マルティネス選手、エリック・ホズマー選手といった実績のある選手らに、イチロー選手や上原浩治選手といった日本人選手は所属先が決まっていないまま、いよいよスプリング・トレーニングが開催される時期になりました。

今回の遅れの要因として、各球団が来オフに備えて今オフの補強を控えていること、名物代理人のスコット・ボラスさんが好条件を引き出すために契約を先延ばしにしていることなどが上げられていますが、一番の被害をこうむっているのが選手そのものです。

米国・ワシントンの放送局「CBS・DC」では特集で、今オフの動きの遅さに対し、選手によるストライキが実施される可能性があることを報じています。

現在、MLBでのストライキは24年間実施されていませんが、1994年8月から1995年2月まで232日間行われたスポーツ史上最長のストライキでは「サラリーキャップ制度」の導入が問題となり、同年はシーズンが途中で打ち切られてワールドシリーズも行われず、米国で伝説的な存在となっているベーブ・ルースの生誕100周年にストライキ続行という事態を危惧した当時のビル・クリントン大統領自らが調停に乗り出すなど大問題となりました。

日本でも2004年の球界再編の際にストライキが行われ、球界だけでなく日本社会にも大きな衝撃を与えただけに、米国での半年以上に渡るストライキは深刻なファン離れを引き起こすなど、深刻な影響を残しました。

また、2002年にも労使協定が上手くまとまらずストライキの危機を迎えるなど、経営者側と選手会は対立を繰り返してきています。

今回も経営者側の方針で選手の所属先などが脅かされていることもあり、選手会が、この問題に本腰を入れる可能性もあるようです。

「選手は怒っている。いや、激怒している。(未契約選手の多い現状からの)劇的な変化を求める波が起こりつつあり、(オーナー側との)闘いが用意されつつある。春季キャンプのボイコットがその始まりになるかもしれない」

補強資金が潤沢な球団は追徴課税(ぜいたく税)の対象となるチームの総年俸が、1億9700万ドル(約217億円)を超えない経営を目指しています。さらに、今シーズン終了後にFAになり、超大型契約が見込まれるナショナルズのブライス・ハーパー選手、ドジャースのクレイトン・カーショー選手の獲得に備え、資金を温存している背景も、FA市場の停滞の一因となっています。

「(不満を持つ)選手の声は大きくなり、1994年のように団結しつつある。(球団側の)態度が変わらないのなら、4月の第2週になっても選手は給料を受けとらない。これから2年間、裁判で戦うか?おおいに結構だ」

と、私から見ればいかにも「アメリカだぜ」という感じの声明文はストライキが起こった過去まで持ちだして、オーナーら球団幹部を非難しています。

選手会はすでにキャンプのボイコットを検討しており、2016年に締結された球団オーナー側と選手会の労使協定では、キャンプ参加のリミットは今月24日で、それまでのバッテリー組キャンプなどには強制力がありません。そのため、選手会では24日までのボイコット案が浮上しているそうです。

そこで俄然注目されるのが「世界最強の労働組合」と呼ばれる「メジャーリーグベースボール選手会(Major League Baseball Players Association, 略称MLBPA)」です。

MLBの選手らにより組織されている労働組合で、アメリカンリーグ、ナショナルリーグの各球団の25人、あるいは40人のロースター登録枠の選手はすべて加入しています。日本プロ野球選手会とは違い、選手の肖像権管理などを通じて資金力があるため、契約交渉や有力選手のFA移籍、トレードに関しても強い影響力を持っていることから「世界最強の労働組合」と呼ばれています。

現在の選手会が結成されたのは1965年で、結成から間もない1年後の1966年にアメリカ鉄鋼労働者合同組合からマービン・ミラーさんを選手会会長とします。当時は100年近く解決されなかった保留事項が存在し、いったん選手は球団と契約を結ぶと半永久的に球団に拘束されるという仕組みになっていました。これは、選手のオーナーに対する立場の弱さにつながっていたと考えられたため、選手側は組合を結成して対抗しようとしたのです。

1968年に球団オーナーと団体交渉の協約で、基本給与、年金などを取り決め、選手協会とオーナー側とのはじめての協約を結んだほか、最低年俸の増額、養老年金の充実、年俸調停制度の創設、そして、1976年オフのフリーエージェント制度の導入などの成果を挙げました。

いよいよ、1994年~1995年のMLBストライキ以来、23年ぶりに世界最強の労働組合が立ち上がるのでしょうか。

さて、1970年代半ば以降、日本ではストライキの減少傾向が続き、国民の関心も大幅に薄れています。ある年代以上の方には、懐かしい出来事になってしまいましたが、春先には決まってストライキのために交通機関が止まるニュースが流れていたものです。戦後の日本では、労働組合と経営側との労使交渉において、1955年に「春闘」と呼ばれる方式が開始され、1960年代以降に定着しました。

「春闘」方式とは、日本で主流の企業別組合(特定の企業や事業所ごとに、その企業の従業員のみを組合員とする労働組合)によって行われる企業ごとの賃金交渉を、毎年春に足並みを揃えて短期集中的に行うものです。自動車や電機、鉄鋼といった製造業の有力な労組が交渉の口火を切って賃上げ相場のパターン・セッターとなり、そこで獲得された賃上げ相場を、他の産業の賃金交渉や、さらには労組に組織されていない中小企業の労働者の賃金水準にも波及させることを狙った戦術です。春闘を通じた賃上げは、日本の労働者全体の生活水準を向上させることに大きく寄与しました。

なお、賃金交渉の妥結水準をめぐる攻防の中で実施される「春闘スト」は、1980年代初頭までは日本の春の風物詩の1つでした。


コメント一覧

まっくろくろすけ
eco坊主さん、こんばんは。
今年は選選手会が独自にフロリダ州でスプリング・トレーニングを開催することになったようですが、カメラマンを含め、メディア非公開で行われるとのことです。
ということは、大谷選手の練習風景のニュースも見られないということでしょうね。残念ですよね。

もちろん、労働者側の権利ですが、楽しみにしているファンだけは、ないがしろにして欲しくはないですよね。

・・・日本でストライキは、過去の遺産になってしまいましたね。
eco坊主
おはようございます(*Ü*)ノ"☀

労組、春闘、スト・ガンバロー・・懐かしい響きだな~
ここ数年は全く関係のない職だから。

確かに今年のFAは異常ですよね~
あのダルビッシュ有選手でさえ2月だなんてねー
シーズンのストライキはして欲しくないけど・・・
野球小僧たちが減っているというニュースもあるしね。


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