さて、そうは言ってもこの“セイバーメトリクス”がメジャーでどの程度普及しているのでしょうか。
ちょっと調べてみました。
2013年4月30日カブス対カージナルス。
3対3で迎えた九回裏カージナルス攻撃の場面。ノーアウト一塁でバッターは四番ジム・エドモンズさん。ここでベンチからはバント(結果はファール)。そしてエドモンズさんはフォアボールで一・二塁となり、今度は五番スコット・ローレンさんにもバント。最終的にローレンさんの送りバントが効いて、カージナルスはサヨナラ押し出しで勝利。
カージナルスのラ・ルーサ監督は守旧派。いわゆるセオリー重視のベースボール。例え同じアウトでも、ランナーを進める生産的アウトを決めることが勝利の決め手になると考えるからこその采配と言われています。
2013年5月19日ツインズ対ブルージェイズ戦。
6対5で1点ビハインドの九回裏ブルージェイズの攻撃。ノーアウト一塁の場面で強攻の結果、ピッチャーゴロ・ダブルプレーの最悪の結果。
日本だったら同点にすることを考えて、送りバント。しかし、ブルージェイズは送りバントは愚かな戦略という新思考派。信念を持っての強攻策だったのです。その背景には「内野ゴロでダブル・プレーになる確率は5%。5%しか起こらない最悪の結果を恐れてバントでアウトをプレゼントできるか」というのです。
2013年6月1日レッドソックス対エンジェルス戦。
4対6と2点リードされた七回表レッドソックスの攻撃。ノーアウト一・二塁でバッターのドーバックさんが自分の判断で送りバントを試みた。結果は見送りのボール。ですが、突然のバントの構えに塁を飛び出した二塁ランナーのラミレスさんがキャッチャーからの牽制でアウト。
ベンチに戻ったドーバックさんにフランコーナ監督が怒り、ドーバックは翌日から先発メンバーをはずされ、6月10日にマイナー降格。フランコーナ監督はバントは無意味とする新思考派の旗頭。バント「禁止」のチームの方針を無視した選手に怒ったのです。
2013年6月11日レッドソックス対ドジャース。
1対1の同点で迎えた九回裏レッドソックスの攻撃はノーアウト一塁。バッターは二番ベルホーンさん。
もちろん新思考派のレッドソックスは絶対にバントをしませんでした。ベルホーンさんは出塁率が4割近く“アウトになりにくい”バッター。結果はベルホーンさんに2ベースが出て、次バッターのオーティースさんのサヨナラヒットでレッドソックスのサヨナラ勝ち。
新思考派と言われるセイバーメトリクスによる統計的ベースボール。
生産的アウトに対して敵にアウトを進呈しないことがその思想の根幹。
また、バッターの資質として“打率”よりも“出塁率”を重視しています。つまり、「出塁率=アウトにならない率」と考えるからです。これらの新思考派にとってはバントは敵にアウトをプレゼントする馬鹿げた戦術ということだそうです。
確かに試合中で必要なアウトは27個。3つ送りバントをされるのならば、1イニング分のアウトを労せずもらえる訳です。とすれば、あと24個のアウトを取ればいい。バントをされればされただけ、楽にアウトが取れる訳なのです。おまけにピッチャーの球数も少なくて済むかも知れません。
守旧派の理論は長い間“セオリー”として誰からも疑われることはなかったものです。
それには経験的な積み重ねがあってのものです。生産的なアウトによって、ランナーを1つでも先のホームに近づけていくパターン。
ノーアウト一塁から得点が入る確率と1アウト二塁から得点が入る確率は32.1%:28.4%です。
この4%の違い。どう考えるかです。
セイバーメトリクスに基づいた統計的野球が新時代のセオリーとなるのか,100年以上に渡って経験的に積み重ねてきた伝統的セオリーが残るのか・・・
ちなみに、ここでの例のカージナルス・ローレンさんのバント。
サインの見間違いだったらしいのです。なぜ、サインの見間違いをしたかというと、ローレンさんは前年カージナルスに所属。カージナルスは送りバントは大事という守旧派代表だったからだという。