囲碁漂流の記

週末にリアル対局を愉しむアマ有段者が、さまざまな話題を提供します。初二段・上級向け即効上達法あり、懐古趣味の諸事雑観あり

ショーペンハウアーとわたし

2022年10月11日 | ●○●○雑観の森

 

【〝厭世哲学者〟の名作

 ~素人解釈の「読み解き方」あるいは「味わい方」】

 

 

ひと昔も前のこと

ヒトに〝やりたくないことをやらせる役目〟

つまり企業管理職をやっていた頃のこと

 


慣れない計数管理の責任者にさせられ

初めての難解な実務に混乱していたところ

捨てる神あれば拾う神あり、で

何人かの有能な部下がフォローしてくれ

〝クビの皮一枚〟でつながったことがある

 


それでも、人間関係はなかなかに難しく

部下の顔色をうかがっているわたしがいた

若い頃には想像だにしなかったストレスが

元々よろしくない腹具合を悪化させた

 


そんなときに

京都の書店で手に取ったのが本書である

 


哲学のメーンストリートから少し外れた

しかし、日本ではデカンショといわれ

それなりに評価されたことのある思想家

というイメージがあったが

なかなかどうして、一気にはまった

 


     ◇

 


1851年「筆のすさびと落穂ひろい」(随想録)

に載った最大編「処世術箴言」の全訳である

 


他の出版社から

「孤独と人生」等の標題で

数冊の訳書が出ている

 


しかし、

わたしは「幸福について――人生論」

を断固としてオススメしたい

訳文がよいのである

 


名訳の主(訳者)のことばを借りると

たとえば解説にこんなくだりが出てくる

少し長いが、熟読玩味していただきたい

 


     ◇

 


本論文は、

哲学専門家ならぬ人たちに人生の意義を説き、

人の求める幸福ははたしていずこにあるか、

真の幸福とは何かを教えたものである。

 

俚諺、格言、詩文を至るところに引用し、

ユーモアと風刺をまじえ、肩もこらずに

全編を一気に読破させる文章の旨味は

ただただ感嘆するばかりである。

 

幸福は人間の一大迷妄である。

蜃気楼である。

だがそうは悟れぬものではない。

この悟れない人間を悟れないままに、

幸福の夢を追わせつつ、

救済しようというのである。

 

人生はこの意味で、

そのまま喜劇である。

戯曲である。

ユーモアである。

 

したがってこれを導く人生論も風刺的、

ユーモア的たらざるをえないではないか。

著書の説く一大哲理の背後に、

ペロリを出した著者の舌を

見逃さないでいただきたい。


(幸福について「解説」 新潮文庫363㌻)

 

▲十年ほど前に1冊購入し、2年余前にもう1冊を買った

定価は514円から590円に、版数は48刷から52刷になっている

 

 

アルトゥール・ショーペンハウアー(1788~1860) ダンツィヒに生まれる。ポーランド語でグダニスク。第二次世界大戦は、ナチスドイツのダンツィヒ攻撃で始まった。近世以降、ポーランド領とドイツ領で揺れ動いた。若い頃にベルリン大学の私講師となるが、ヘーゲル人気に圧倒されて、1年で退職。スイス、イタリアへの旅のあと、ベルリンからフランクフルトに移り、著作に専念する。キルコゲールやニーチェ、トーマス・マンに至る孤独な超人思想の源流とされる。科学的精神や東洋哲学に通じ、戦前の日本ではデカルト、カントとともに人気の哲学者のひとりだった。

 

 

 

 



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