囲碁漂流の記

週末にリアル対局を愉しむアマ有段者が、さまざまな話題を提供します。初二段・上級向け即効上達法あり、懐古趣味の諸事雑観あり

熱すぎれば害になる

2021年07月21日 | ●○●○雑観の森

 

【早く元の生活に戻りたいというが、「元」とは何か

 ~ 元? 戻る? 時間は止まらない の巻】

 


明治六年七月

東京府庁は風呂屋業界に「お達し」を出し

浴槽の傍らに、これを貼りだすよう命じた。

 


「湯に入って

身を清めるのはいいが

熱すぎれば害になる

と医者も言っている。

ことに子供はいけない。

風呂屋も熱い湯を

すすめるべからず」

として

適温として「九十度」を勧めた。

 


華氏九十度は

摂氏三十二度ほどである。

ちょっとぬるい。

 


ところが

風呂屋はこれを守らない。

ましてや字の読めぬ客が多い

とくるから、始末が悪い。

一向に「九十度」とはいかない。

九十度を九十回と読む者もいた。

 


ある男は

早朝から何十回となく

入浴していた。

百度まいりのようで

全身エビを煮たように

真っ赤になっている。

 


番頭は驚いて尋ねた。

「もしもし、あんた

いったいどうしたんです?

身体にでっせ」

 


「なにい、だと?

この掲示板を見ねえ

お上(かみ)が

ちゃんと言っているじゃねぇか

九十度(回)は健康によろしいと」

 

ほかの風呂屋でも

小さな珍事が起きた。

これまた九十度を

一カ年九十度(回)と誤解釈し

一年三百六十五日を九十で割り

きちんと四日おきに入浴する者もいた。

 


「いままでの習慣を改めよう

とすれば、このような例が出ている」

と当時出回り出した小新聞が

珍事を紹介して戒めている。

 

その頃はひどいもので

戸口はあけっぱなし

往来から丸見え

客も平気で裸のまま。

二階から女湯を覗いたり

ザクロ口に小便をしたり

心臓な奴は、犬を入浴させた。

 


たまりかねた新政府は禁令を出し

ビシビシ取り締まった。

小便をした者を

一晩留置しては

罰金七十五銭を取った、

という話も残っている。

 


    * * *

 


ことほど左様に

世の中が変わっても

おっちょこちょいやら

アタマがキンコンカンコンやら

人の話を受け入れないやら

としたものである。

 

コロナ前とコロナ後は

世界が変わってしまったことを

どうしても受け入れられない

人間が数多くいる。

時代の変化を受け入れられないのが

人間という生き物らしい。

 

政府も政府なら

庶民も庶民という

昔と今のお話である。

 

 

 

 

 



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