▲小目から発生する「ひっくり返す定石」(現在は廃定石)
絶対に黒が悪いと百年来言われ、プロは誰も打たなかった
↓
それに納得いかない呉清源が黒番で打った
↓
白が悪いとの評価確定まで、それから十年掛かった
【時代で変わっていく「定石の評価」の巻】
■師弟関係の厳しかった戦前は、
若手が「新手を打つ」のは相当な勇気を要した。
よほど有力な手でない限り、一喝されるのがオチだった。
■呉清源は来日するまでの少年時代、独学で力を付けた。
本因坊秀策が残した四百に及ぶ棋譜をひたすら並べた。
来日後、瀬越憲作門下は自由な発想を許されていた。
瀬越は一つ一つの手を、いちいち云々することはなかった。
碁の世界は、凡庸な前例踏襲主義の多数者がつくるカベを、
才能と努力と勇気を持った少数者が命懸けで打ち破るたび、
進化と深化を続けたのである。
■呉が大ナダレの「内マガリ」を初めて打った時、
検討室の棋士たちは「呉さんが定石を間違えた!」と大騒ぎした。
しかし、その後に有力手と分かり、大流行したのである。
◇
■わたしは、新しく覚えた手は局後に変化図を並べて、
相手の感想を聞き、意見交換するのが好きである。
これが手筋といわれても、それを自分のものにするには、
一度やってみたところで、身に付かない。
定石通りやったとしても、勝ちにつながる保証はなし。
本を眺めていても、あくびが出るだけ。
うろ覚えでは、実戦には使えない。
自分でやってみて、しくじったり、うまくいったりで、
変化を感覚的につかみ、自分のモノになり、
次第に洗練され、血肉になっていく。
そうして対局相手と、何かが通じていく。
そんなことが、リアル碁の楽しみではあるまいか。
▼黒Aが内マガリ、黒Bが外マガリ
現代はわずかの違いとされるが、プロレベルでは大変な違いなのだろう
昭和32年の日本最強決定戦リーグ
大ナダレ定石の「内マガリ」が初めて打たれた
先番・呉清源 ー 本因坊秀格(高川格)
▼実戦1 1~32
黒7と下ツケに対し、今は白は11に押さえることが多い
白8とブツカリが「ナダレ定石」の始まりになる
左下スミの星にある白石との間にできる「大きな谷」を意識している
黒11と3本ノビルのが「大ナダレ」の様相
黒が32にハネルと「小ナダレ」になる
黒25のハネダシが級位者には怖くて打てないようだが
黒29のシチョウアタリを見ている
黒31とカカることができては、左辺は黒模様の雰囲気
左上で未完成の白のカベを消している
白32で大ナダレに突入する
現代の見解では、左辺の黒29に石があると、白32はムリ筋
▼実戦2 1~29
黒5が「呉清源が打った問題の内マガリ」
「その場の思い付きで打ってみた」と言う。
白14は悪手だが、黒がとがめられず……
黒19が後悔の一手
ここは「20の一路下」に打ち、ケイマで白を圧迫すべきだったようだ
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