囲碁漂流の記

週末にリアル対局を愉しむアマ有段者が、さまざまな話題を提供します。初二段・上級向け即効上達法あり、懐古趣味の諸事雑観あり

海坂藩をゆく夏㊦

2022年08月24日 | ●○●○雑観の森

 

【碁を打つことと、書き物をすること、との関係】

 

藤沢周平の小説に

「碁を打つ」場面が

ときどき出てくる

 

お気に入りの短編から

ひとつだけ紹介したい

 

碁を打っている者にとっては

「どこにでも実際にあったろう」

と思わせるシーンである

 


     ◇

 


■「切腹」(オール読物 昭和58年2月号初出)より抜粋


不意の争いは、

その碁から起きた。

 

めずらしくひまがとれた、

と甚左衛門が訪ねて来て、

まだ日があるので酒は後にしようと、

碁になった。

そのころ二人は、

囲碁に熱中していたのである。

 

棋力は助太夫の方が少し上で、

甚左衛門がほとんど追い付くところまで来ていた。

 

「その石、ちょっと待て」

と助太夫が言った。

甚左衛門が打った一石で、

助太夫の一群の白石が死んだところだった。

 

「いや、この石は待つわけにはいかぬ」

と甚左衛門は言った。

「待てば、わしの石があぶない」

 

「しかし、この手があったのだ」

助太夫は、甚左衛門が置いた石を

盤面からつまみ上げると、

その前に打った自分の一石を音高く打ち直した。

それで逆に甚左衛門の黒石が死んでいる。

(後略)

 


     ◇

 

この後、二人は刀をつかみ、

碁盤をはさんで、にらみ合った

そして、斬り合いに至らないものの

しかし、絶交する

 

二十年の時が流れ、

親友・助太夫の「待った」を

許さなかった甚左衛門は

藩政上層部の不正をあばこうとする

だが権力者の奸物から逆襲を受け

自裁を余儀なくされるのである

 

碁のちょっとした所作を伏線として

構成を組み立てるあたりが

アマ有段の物書きならでは

の観察眼と想像力といえよう

 

書くことは考えることだ

と、改めて思う次第である

 

 

 



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