私が初めて出会った建築は宮城県美術館でした。今から約40年前のことです。
宮城県美術館
水平と垂直がきれいな建物で周辺環境に溶けこんでいました。入口へのアプローチはピロティになっていて、隣には大きな中庭があります。
アプローチの床タイルには斜め模様のデザインが施されており、光の反射で道のようなものができ、入口へと誘ってくれました。とてもきれいだったその当時のことを、今でも鮮明に覚えています。設計者は前川國男です。
はじめて体験した建築が前川の作品だからなのかわかりませんが以後、弘前市民文化会館、弘前市立博物館、西洋美術館、東京都美術館、東京都文化会館、国際文化会館(六本木)、前川國男自邸を見学します。
無意識に一人の建築家を追っていました。
弘前市民文化会館
ル・コルビュジエの近代建築5原則
前川は大学を卒業するとすぐ渡仏し、ル・コルビュジエの下で働きます。ル・コルビュジエはドミノシステムを考案し、近代建築の5原則(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由なファサード)を唱えます。
それを実現させたのが有名なサヴォア邸で、前川も設計に携わっていました。
上野にある西洋美術館の設計は、ル・コルビュジエで、モダニズム建築群として世界遺産に登録されていますが、実質の設計はル・コルビュジエの弟子である前川國男、板倉準三、吉坂隆正です。この建築も前川作品と言っていいと思います。
板倉準三設計の鎌倉近代美術館も見学させていただきました。手すりのデザイン、材料の使い方、天井に映る池の水面はきれいで素晴らしく、建築の衝撃を受けました。師のル・コルビュジエを超えた作品ではと思っています。
鎌倉近代美術館
アントニン・レーモンドの5つの原則
フランスから帰国した前川は、高校時代の英語の先生がアントニン・レーモンドの奥さんという縁もあり、日本にあるアントニン・レーモンドの事務所で働きます。
アントニン・レーモンドも「5つの原則」を唱えていて
1.自然(ナチュラル)、2.単純(シンプル)、3.直截(ダイレクト)、4.正直(オネスト)
5.経済(エコノミー)
自然は人工より美しい。
単純さと軽快さは複雑なものより美しい。
建物の広さにしても材料にしても節約は浪費より、美しい結果を生む。
この「5つの原則」は相互に関連しあっていて、自然なものはおよそ単純であって、単純なものはダイレクトで正直で、それは結果的に経済的であると…。
経済性とは決して安くつくるということではなく、何事も無駄にしないことであると言います。
アントニン・レーモンド「5つの原則」の考えは、実は日本の家屋から見出したと言われています。西洋人の「装飾」とは反対に、日本にあるのは必要の生み出した「美」であると。
今では地産地消や省エネ、自然エネルギーという言葉もここに含まれてくると思いますが日本の住宅には、もともとこの5つの原則が備わっていたのです。
前川國男自邸
前川の自邸は大屋根で水平、垂直で、ダイレクトやシンプルさが伝わります。
中央にあるリビングには大きな吹抜け、南側には大開口部あり、太陽エネルギーや景色を取り込むようになっています。
戦時中の住宅30坪制限の中、この豊かな空間を実現しました。金物など使えないこの時代、建具のレールは木製だったり、柱には電柱も利用したり…。
アトニン・レーモンドの「5つの原則」に則った家づくりが、この家からも感じられます。
前川國男自邸(東京たてもの園)
誰もが手の届く自然素材と省エネの家とは
この「5つの原則」が基本としてあり、次の項目を意識して計画しています。
○ 広がり間取りで、小さくつくって大きく住みます。
○ 外部と内部がつながるプランを提案します。
○ 視線が通る場所を見つけ、小さくても大きな空間になるように心がけています。
○ 小さくつくることは生産時のCO2も小さくなり、 近くの木と職人で家をつくるはCO2の固定化や
運搬等のCO2を小さなものにしてくれます。
○ 吹き抜けを設けることで、冬季の太陽エネルギーを取り込むことが出来、タタミ2枚分の窓サイ
ズでは約500Wの自然エネルギーを取り込めます。
○ 地震時や防風時の応力は、シンプルな構造体にダイレクトに伝わるように計画します。
○ 次世代省エネ基準以上の高気密高断熱仕様(UA値0.40)にすること、耐震等級3にすること
は、多少お金がかかりますが、それが正直な仕様、お金の使い方だと思っています。
中山の家
利府の家
常にブラッシュアップを心掛け、これからも正直な家を提案していきます。
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