heart・break=悲嘆, 断腸の思い
{ハートブレイカー}
罪つくりな[薄情な]女.
三省堂提供「EXCEED 英和辞典」より
このところ心魅かれる、この単語。今宵は二人でタンゴを踊ろう。
「心臓を破壊する女」
いるんだ、蝶の様に舞い、蜂のように刺す女が。
たまらんべ、ヤラれてないか、ふにゃチン野郎共?
この手の女との会話の最後にはいつも
徒労と虚無と敗北を味あわさせられる
「あなたがもっと上手なら」
「あなたに今より誠意があれば」
「あなたがそんなに下品でなければ」
「あなたに自分の醜悪さを自覚する知性があれば」
「あなたにカラダを許す女の気がしれないわ」
「あなたがもう少し他人の気持ちに敏感なら」
「あなたの単細胞でガサツな脳みそがもう少し進化してくれれば」
「あなたが女を濡れた肉塊じゃなく人間として扱えらるなら」
「あなたならきっとありあわせの肴にもなれないわ」
「あなた流のひとりよがりな愛し方の過ちに気付けるなら」
「あなたに抱かれる心の準備はあったのに」
「あなた自慢のセックス・テクなんてたぶん井の中の蛙よ」
「あなたってそんな女のサインにも気付けないのね」
「あなたはしょせんピンチ・ヒッター。レギュラーにはなれないわ」
「あなたには女の欲しがる優しさが永遠にわからないの」
聴こえるだろ?
何気ないやりとりの中に秘められた、声にならない、男への憐れみとあきらめが染み出してくるのが
眸を覗き込んでみろ
男に期待し夢を観て、男の不甲斐なさに絶望を重ね、それでも本能のベクトルは男を指し示す
抗い、弄び、心臓を切り裂いて鮮血を搾り、生ゴミの日のステーションに放り投げるか、
粉々に砕いて鴨々川のコイのエサにばら撒くくらいのヒマつぶしにしかならない
9月の午前6時。少し頼りなげな太陽を腐臭が揺らめかせる
「さよなら。私が黒を着てるのは、私が美しくて、よくない女で――希望がないからよ」
(『かわいい女』“THE LITTLE SISTER”Raymond Chandler著 清水俊二訳 創元推理文庫53版 P.212)