ある時代との対話

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ある時代との対話

2021-07-11 20:21:00 | 日記

 資本論にはマルクスがドイツ古典哲学を受けついでいることから、ある種の難しさがある。哲学の本はよく日常語で書かれているから原書で読めばわかりやすいと言われる。ただ哲学が日本には明治以前にはなかった学問であり、哲学用語の中にはプラトンやアリストテレスの時代からはるばる旅をして近代にやってきた用語もある。そういう用語が現代では日常語として使われていても、学問的に使われた場合、難しい場合がある。そういう哲学固有の難しさがあることは事実だと思う。これは原書で読んでも同じだと思う。


例えばphilosophy だが、普通は哲学と翻訳され誰もそれを疑わないが、philosophy ー実は知を愛するという類の意味らしい。西周がphilosophy を哲学と翻訳したのはどうもオランダ留学中にヘーゲルの精神現象学を読んで、ヘーゲルが哲学を学問に高め云々と述べているところからphilosophy を哲学と翻訳してしまったらしい。Religion が宗教と翻訳されているが、宗教はもともと仏教の中の言葉で、仏教の上位の概念としての宗教一般をさすのに相応しい言葉とは言えないと思うが、それでずっと通ってきてしまっている。またReligionのラテン語のReligioは、もともとキリスト教の宗教儀式をさす言葉らしい。誤訳だとかそういうことをあげつらいたいわけではなく、もともと横文字を日本語にうつしきれない固有の困難があり、その点を考えながらマルクスでもカントでも読んだほうがいいと思われる。


資本論では、最初に価値実体だとか価値形態とか日本語にはない言葉が出て来てこれに惑わされる。価値実体は、Wert Substanz . 価値はドイツ語ではWert.英語ではvalue.

実体は、Substanz だがこの言葉、実体以外にも内容、実質、物資などの意味があり、一番苦労させられる商品章を読む場合、実体以外にも、内容や物資などに置き換えて読んで見るとわかりやすいと思われる。またアリストテレスのウーシアからはるばるラテン語、ドイツ語になってきた言葉でその辺の意味も考えると面白い。スコラ手紙では神さまの意味になったこともある。


さて価値形態はWert form で英語ならvalue from.

form はなぜか形態という仰々しい訳語をあてられているが、形式という意味もあり、形のフォーム。実体、形態などと最初から出てくると誰しも訳文で辟易させられるのだが、価値形態なら価値の形式ぐらいに読み変えて読んでみると腑に落ちるかもしれない。


マルクスの資本論と言えば科学と言われているが、この科学、ドイツ語ではWissenschaft という言葉が使われており、Science とは互換性はないらしく、自然科学の意味での科学として使うとわかりにくくなる。資本論には政治経済学批判との副題もついていて、むしろ科学批判の文脈で読めばわかりやすいのではないかと思う。


資本論の翻訳についてどれがいいのか、よくわからないが、岡崎次郎訳、などが文庫でも手に入り読みやすいのではないかと思われる。