総合知学会2012/1/12資料
偶感「ことばあそび ~知識人 インテレクチュアル
とインテリジェンスの違いについて~」
荒井康全[1]
平成25年1月
<はじめに>
*「知識人」ということばがある。 このことばがおもしろいのは、まだ一度も「私は知識人です」といったひとに会っていない点である。
*技術系の企業やアカデミーのOBがメンバーの中心ある総合知学会の研究会でプレゼンテーションを依頼された。
*ふと、ここに集まる人たち、何とお呼びするかということが 気になりはじめた。「学識経験者」ということばもありそれでいいかと思ったが、良い機会なので、いろいろ単語をめぐらせた。
*英語なら何というかも脳裏を走る。思いつくままにあげると以下になる;
*elite、sophisticated、educated、career、professional、intelligent。
*すこし くだけるが 筆者がこのごろよく使う “people as usual”つまり「いつものひとたち」も出てくる。
*そのひとつ ひとつをことばあそびとして 調べるとかるく一週間はすぎるであろう。ここでは、切り口でひとつintelligent つまり「知識人」を選んでみる。
<目次>
1.<「ことばあそび」知識人>
1-1<知識人>
1-2<知識人(intellectual)>
1-3<インテリジェンス(intelligence)>
1-4<インテレクチュアル 2>
2.<社会学からのインテレクチュアル(知識人)は?>
2-1<国家理性に挑戦する人々>
2-2<新しい理想や理念を提出し広める人々>
2-3<既存の秩序や制度の価値を擁護し防衛する人々>
2-4<認識パラダイムのシンボル創造者として>
2-5<専門知識を越える普遍的価値にかかわる活動をする
3.<知識人の位相を観る、Where are you now?>
4.<考察>
5.まとめ
1.<「ことばあそび」知識人>
*いつもの「ことばあそび」としてく国語辞典として三省堂の大辞林、簡易な英和と和英辞典、英々辞典としてブリタニカ辞典、そして 事典として岩波書店の哲学・思想事典を手元に置く。 それ自身の意味、語源、類似語、反意語などを調べる。そしてその過程で思考のKeywordsを絞ってていく趣向である。また、これらのことばの連関図を想定し、思考活動の時・空間環境と作っていこうとするものである。
1-1<知識人>
*知識人[2] 高度の知識、広い教養を備えている人。
これは 国語辞典からであった。特に 「教養」ということに注意をひく。
*知識人[3] [英]intellectual [仏]intellectuel
これは 哲学・思想事典からであるが、とりあえず 英語での訳に着目した。
この知識人(intellectual)を 英々辞典で あたりをつけることにする。
1-2<知識人(intellectual)>
その基になるintellectについて
*英和辞典[4]では
intellect 「知性、知力、;理知;知識人」
*また、英々辞典[5]のintellect第1義は以下である;
「認知や思考の能力もしくは力;インテリジェンス;意思;感覚や記憶とは区別されるより高い思考の力。[6]」 語源からみるとラテン語の理解(understand)意から来ている。
[ <L. intellectus perception , understanding, sense <intelligere understand]
1-3<インテリジェンス(intelligence)>
*上で もう一つのインテレクトに近い語で インテリジェンスがでてくる。この二つの区別は紛らわしい。これを調べると以下である。
*参考のため、英和辞典[7]では 以下である;
intelligence 「 知力、思考力、理解力;知性、聡明;知的存在;報道、情報;諜報機関」
*また、英々辞典でのintelligenceの第一義は以下である;
「行動的な”intellect”の質、もしくは生成物;知識;より精神的な機能の運用への能力としている。[8]」
*また、語源は ”間から選ぶ“からきていて intellectと同根である。
[intelligentia < intelligens, -gentis ppr. intelligere understand, perceive < inter between + legere choose, pick ]
*したがって、インテレクトとインテリジェンスは もともと語源は同じであるが 前者は感知し、理解することでやや受容的であるのに対して、インテリジェンスは 行動的な知という雰囲気が読み取れる。実際の英語でのニュアンスもそうであろう。
1-4<インテレクチュアル 2>
*さて 上の知識が前提となって もう一度 知識人の元である“インテレクチュアル”に帰ると以下である;
英々辞典でのintellectuals[9] [10]は以下である;
形容詞
1. (知性、知力)への保持;もしくは(知性、知力)を実行し、より高度な容量(capacity)に至らしめること。
名詞
1.(知識人)
intellectuals[11] adj.
[<L. intellectus perception, understanding, sense < intelligere understand. See INTELLIGENT]
2.<社会学からのインテレクチュアル(知識人)は?>[12]
さて、上の用語上の意味を踏んだうえで もう一度 「知識人」を社会科学的に復習しておきたい。調査の結果からは つぎの4つのタイップに区分されるようである。
2-1<国家理性に挑戦する人々>
2-2<新しい理想や理念を提出し広める人々>
2-3<認識パラダイムのシンボル創造者として>
2-4<専門知識を越える普遍的価値にかかわる活動をする人びと>
これらを歴史的なながれにそって以下に、簡単に触れておきたい。
2-1<国家理性に挑戦する人々>
19世紀末 フランス ドレフュス事件で世論に抗してドレフュス大尉の容疑に抗したひとたちを意味した。国家理性に挑戦する政治的・文化的な前衛たる人々というニュアンスを含んでいた。 19世紀中ロシアのインテリゲンチアの含意もあった。
2-2<新しい理想や理念を提出し広める人々>
新しい思想や理念を提出し広める、そして彼らの活動に抵抗する現実を批判する文化的な創造者であることを意味してきた。
2-3<既存の秩序や制度の価値を擁護し防衛する人々>
擁護し防衛することを役目とする人々がいる。批判的知識人のコッミトする革命運動が成功するなら、その役割は前者から後者へと移行することもありうるのである。
2-4<認識パラダイムのシンボル創造者として>
現代的には既定の認識パラダイムの拘束から自己を解き放ち新しいものを創造しようと
するシンボル創造者と、彼らのつくりだした知的生産物を理解し、管理し、普及することを任務とするシンボル管理者とを区分することができ、前者を知識人とする定義がある。(L.コーザー[13])。この場合教師・教授からジャーナリスト、そしてノーベル賞を受賞する科学者や作家までシンボルにかかわる人びとをすべてではないとする。
2-5<専門知識を越える普遍的価値にかかわる活動をする人びと>
現代の科学・文化の専門分化とかかわらせて、シンボル生産にかかわる多くは狭い範囲の専門分野で特殊化された問題に対し具体的な回答をもたらそうとしていることが多いが、ここでは断片化された知見がもたらされる。芸術や科学でもとめられている知性は、プラグマティックな課題や専門知識を越える普遍的価値とかかわるもので、そのような活動を行うのが知識人であるとされる。( E.W.ザイード[14])
3.<知識人の位相を観る、Where are you now?>
*さて、上の文脈を一応尊重して、存在位相を つぎの軸で考えてみたい。
軸X (新規性・創造性)~(管理性・実用性)
軸Y ((普遍性・一般性)~(特殊性・専門性))
これを 図式にしたのが 図 “Where are you now?”である。
*この位相のすべてが 社会にとって必要不可欠ではあるが、現実に存在するドメインを思惟的なモデル的に括ると 以降の思考をたすけてくれそうである。以下の図にとりあえず5個のドメインを括った。
I型 (管理性・実用性)と(普遍性・一般性)
II-1型 (新規性・創造性)と(普遍性・一般性)
II-III型(新規性・創造性)と((普遍性・一般性)~(特殊性・専門性))
III-IV型 原点を中心に広がっている。
(新規性・創造性)~(管理性・実用性))と((普遍性・一般性)~(特殊性・専門性))
IV型 (管理性・実用性)と((普遍性・一般性)~(特殊性・専門性))
4.*<考察>
*1たとえば上の説明でザイードのいう知識人は II-I領域らしい。また、コーザのいう知識人はII-III領域らしい。
具体的な演習課題を選んで考えると、
*2職業や職種などによって現実にどこにどういう人々(Who’s who ?)がいるか?
いまのままでいけるのか?
知力としてどういう領域が 必要なのか?
実は、文系と理系はどういう領域でつながっていくか?
民~産~学~官はどのようにつながっているのか?
領域を変動したり、つなげたりする知力とは具体的にどういうものであるのか?
などがすぐに思い浮かぶ。
*3いずれにしても 既存の権威や価値に越えて新しい理想やパラダイムを創り出し、社会的に影響を与える存在を知識人と定義していると理解する。 専門意識を越えるという意味論が強調されると芸術や科学などの非実務的なひとたちがその場を占めることになる可能性がある。
*4しかしながら、専門知識をもたないもしくは経験は、おそらく知的能力の必須の素養でああろう。その要件が欠如した人々を以て 「シンボル創造者」として 社会が喧伝しているきらいがあるとみている。
*5 インテリジェンスとインテレクチュアルは 欧米人でもその微妙な使い分けに気付いているようである。すでに、述べたように「*したがって、インテレクトとインテリジェンスは もともと語源は同じであるが 前者は感知し、理解することでやや受容的であるのに対して、インテリジェンスは 行動的な知という雰囲気が読み取れる。」は 重要な違いと読み取ることもできる。
I型 (管理性・実用性)と(普遍性・一般性)とIV型 (管理性・実用性)と((普遍性・一般性)~(特殊性・専門性))をひとつにして、つなげてきた中心は 民間企業などの実務界の人たちであったことを思い起こせば、これを「行動的な知」つまりインテリジェンスと定義してよいかもしれない。
*6それに道筋をつけることは 総合知の役割の第1相とみることもできよう。
*その差を認めたうえで、これまでの「インテレクチュアル(知識人)」とのコミュニケーションの方法を考えだすことになろう。
5.まとめ
この「ことばあそび」から なにがはじまるかはわからないが、たぶん ここ、総合知学会にかかわり、思考していく筆者のアイデンティティをみずからに問いかけることと理解する。ひるがえって思うに、たとえば この学会のメンバーの方々の背景が 多分、理科系で、実務を経験されて、実績も積まれた、そして、いまは現役ではない。 その方々のアイデンティティを語ることは意味あるとおもう。 なにも自らが知識人とはいわぬまで 上の知intellectualの位相図で、Where are you now? から活動的な知(intelligence)のありかた、役割りを考えるとは意味のあることであろう。 ここに位置する人々・・であるが故に、また、・・であるからこそというミッションはあるとおもう。また それに関心をもち、関与すること、特にネットの時代である、情報交流の活動(agility)が加速している。この昨今を考えると、急に「生きがい」が大きくなり、一方の絵などの感性世界との
生活上のバランスが必要になってくる。 しかしそんな悠長なことを言って許されるのもありがたいことではある。 以上
[1]荒井康全 Yasumasa Arai 男性 1938生れ 神奈川県 日本人
上席化学工学技士 元東京工業大学資源化学研究所特任教授
東京都町田市 E-mail: araraiypol1a@nifty.com
携帯電話:090:7634-0161
[2]松村明・三省堂編修所 大辞林 三省堂 ISBN 4-385-14001-4 1998
[3] 廣松・子安・三島・宮本・佐々木・野家・末木 岩波哲学・思想事典 岩波書店 ISBN4-00-080089-2
[4]研究社辞書編集部 Kenkyusha'sNew Little English-Japanese Dictionary 新リトル英和辞典 研究社
[5] Funk & Wannalls Standard Dictionary of the English Language,combined Britanica World Language Dictionary Encyclopedia Britanica,Inc.
[6] intellect 1. The faculty or power of perception or thought; intelligence; mind; spometimes, the higher thinking powers as distinguished from the senses or memory.
[7] [7]研究社辞書編集部 Kenkyusha'sNew Little English-Japanese Dictionary 新リトル英和辞典 研究社
[8] intelligence 1. The quality, or product of active intellect ; knowledge; ability to exercise of the higher mental functions; readiness of comprehension.
[9] Funk & Wannalls Standard Dictionary of the English Language,combined Britanica World Language Dictionary Encyclopedia Britanica,Inc.
[10] intellectual adj.
1. Pertaining to the intellect; bringing into acting the intellect or higher capacities; mental.
2. Possessing intellect or intelligence; characterized by a high degree of intelligence.
3. Requiring intelligence or study;
noun; 1. An intellectual person.
2. pl. Archaic. The mental faculties; intellect; often in the plural.
[11] Funk & Wannalls Standard Dictionary of the English Language,combined Britanica World Language Dictionary Encyclopedia Britanica,Inc.
[12]廣松・子安・三島・宮本・佐々木・野家・末木 岩波哲学・思想事典 岩波書店 ISBN4-00-080089-2
[13] L.コーザ『知識人と社会』培風館,1970
[14] E.W.サイード 『知識人とはなにか』平凡社,1995
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