(木村恵吾,1953)
これも映画を見た後、原作(小説)を読む。小説の方は、久生十蘭らしい、極
めてお洒落な、しかし凝ったプロットの織りなす珠玉の短篇、といった趣きのも
のだが、本作映画版は、登場人物の一部の設定を借り、『君の名は』の二番煎じ
のような通俗的なメロドラマに仕立て上げている。ほとんどが映画オリジナルの
プロットだ。しかし、映画としては、これでいいのだろう。
本作の主人公の男女は森雅之と久我美子。二人の出会いは日比谷公園の音楽堂
だ。桜の花の季節。楽団がヴェルディの「ラ・トラヴィアータ」(椿姫)を演奏
する。二人は同じベンチで隣り合って座る。演奏終了後、突然、敵機の空襲があ
り、桜の花びらが振りかゝる。東京で初めての空襲、という科白があったと思う。
二人はこの音楽堂で一緒に過ごすようになる。楽団は軍楽隊になり「箱根八里」
なども演奏するが、曲目は「愛国行進曲」のような軍歌に変わっていく。あるい
は同盟国ドイツのマーチ「双頭の鷲の旗の下に」や「親しき戦友(旧友)」。
この映画は2時間ちょっとの尺だが二部構成で、一部は戦時中、二部は敗戦後
とはっきり分かれている。この戦時中のバートでは、主人公二人の他に、森の見
合い相手-木村三津子と、久我に横恋慕する憲兵隊将校-三國連太郎が加わって、
ドラマが進む。三國は相変わらず鬼気迫る悪役造型で、出色の存在感。彼は自分
の権能で森に召集令状を発行し、久我を手に入れようとする。応召され北海道の
連隊へ向かう森と、久我との別れの場面が、宇都宮駅のモブシーンで、こゝは、
沢山の人と車内を横移動する撮影がなかなか見ごたえのある良い場面だ。また、
三國が部下の伍長-伊藤雄之助を殴る場面では、真剣に殴っているように見える。
逆に、久我が三國を叩くシーンでは、久我に本気で叩かせている。
そして第二部は、敗戦後、銀座の通りに星条旗が見えるカットから。久我は伊
藤雄之助がやっている飯屋を手伝っているが、三國は退場し、代わりにマーケッ
トの顔役、菅井一郎が悪役だ。やはり、久我は体を狙われる。また、当然ながら、
タイトル通りのプロット、久我と森の再会が描かれるが、はたして二人は幸せを
つかむことができるのか、という展開。これ以上は詳述しないでおくが、エンデ
ィングは、冒頭と同じ日比谷公園の音楽堂、というお定まりのパターンで、メロ
ドラマとして落ち着きのいいものだ。
さて画面造型については、木村恵吾なのでローアングルが多いのだが、本作で
もあまりこだわってはいないようだ。お話も通俗的だが、画面も特記すべき部分
が少ないが、青森の港のシーンで見せた、手前に建物と人物、背景に船が見える
というカットの背景部分は、スクリーンプロセスだろうか。また、戦後の場面で
の、路地の後景の高いところを電車が走るカットも、スクリーンプロセスが使わ
れているように見えたのだが、いずれも、上手く奥行きを出した、凝った使い方
だと思った。
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