過去の書きかけたままにしていた未公開ブログを眺めていて、ふっと自分自身のなかでの歴代天文イベントって何だろう、という疑問に駆られた。
天文に興味を持って以来、初めて見た月面クレーターや三日月形の金星、木星の縞模様や土星の環、オリオン大星雲やこと座のドーナツ星雲など都度新鮮な驚きと喜びが天文熱を加速させるモチベーションだった。
そんな中で、天体ショーとして、生涯に一度経験できるかどうかの出会いに相当するイベントは考えてみるとそれほど多くない。
きちんと時間をかけて過去を振り返ってみた。
以下、印象に残っているイベントを時系列で列挙してみたが、いずれも優劣つけ難い程個人的に印象に残っているものばかりだ。
・1970年3月 ベネット彗星
こんな凄い彗星が、当時地球に接近していることを知ることなく、たまたま夜中の3時を過ぎたくらいだったろうか、星座観察のつもりで起きだした際のことだった。東天に如何にも”ほうき星”然とした明るく輝く大きな核と立派な尾をもった大彗星が目の前にあった。
当時の記録によると、マイナス3等まで達したとのことから、夜空を見上げたら見逃すわけがない。それまでに天文図鑑で見たことのあるハレー彗星にそっくりな姿だった。紛れもなく彗星であることを確信し、興奮しながら父親を起こすと二人で薄明が始まるまで眺めていた。
その後しばらくはこの彗星が何という名前なのかも分らぬまま、後日ベネット彗星であることを知った。
この経験以降、数々の彗星を目にしてきたが、このベネット彗星ほど明るく、立派な尾を持った彗星らしい彗星は見たことがない。私の中では今でもBest Cometである。
・1970年5月9日 水星の太陽面通過
当日は運良く快晴かつ土曜日で、午前中で学校が終わると大急ぎで帰宅し、庭に4cm屈折望遠鏡を持ち出し、H20mm(40倍)にサングラスを装着し、直に太陽面をゆっくり通過していく水星をずっと眺めていた。4cmでどの程度見えるかどうかわからなかったが、初めて見る水星は予想以上に黒々とはっきりした輪郭を伴って見えた。初めての天体観測と言って良いイベントだった。
後年金星の太陽面通過も目にすることが出来たが、水星と比較してその大きさには改めて驚いた。
・1975年7月 小林・バーガー・ミロン彗星
期末テストが終わり、晴れ晴れした気分で久しぶりに夜空を見上げた時の思い出である。
ビクセンの50mm×7倍の双眼鏡を持ち出し夜空を眺め始めた矢先、イルカ座近辺に見慣れない明るい光芒が。こんなところにM天体などあるはずは無かった。天体望遠鏡で確かめてもただ丸い光芒が大きくなるだけでディテールは見えてこない。
ひょっとしたら...ただこれだけ明るい彗星が未だ発見させていない訳はない。とはいえ非常にかすかな期待を抱き国立天文台に電話を入れた。それが小林・バーガー・ミロン彗星だった。
赤道儀を持ち出し、200mm望遠でガイド撮影した初めての彗星となった(今もどこかに写真が残っているはずだ)。
世の中の順番はともかく、自分の中では単独発見の彗星だ。
・1976年3月 ウェスト彗星
休日前に友人達と集まって、ウェスト彗星を見るための楽しい天文合宿の思い出だ。ウェスト彗星観望そのものというよりも、夜を徹して星仲間と過ごした時間がより思い出として深く残っている。
夜中3時を過ぎ、ようやく皆で外に向かい東の空を見ながら待機していた。今か今かと待ちわびていたが、しばらくして東天の地平線に近い薄明るい部分が彗星の尾であることが分かり、皆でそれぞれ大慌てでカメラを向けた。
明るさで言えばベネット彗星ほどではなかったが、尾の雄大さが非常に印象的な彗星だった。
・1994年7月 シューメーカー・レヴィ第9彗星の木星衝突
別のブログでも書いたが、米国駐在中に40cmドブソニアンで木星面に刻々と増える黒々とした衝突痕を眺めていた。木星が哀れに思えたことを良く記憶している。
衝突痕の一つの大きさがほぼ地球くらいあったのではないかと思う。
後から思うと、もしこれが地球に及んでいたらと考えるとゾッとする。彗星の分裂などという非常事態に現代の科学ではどの程度臨機応変に対処できるのだろうか。
・2001年11月18日/19日 しし座流星雨
昔ジャコビニ流星群の大出現の予報が報じられ、楽しみに待っていたが、薄雲に覆われた空で、期待した流星雨は降らずじまいだった。
2001年11月18日10時過ぎ、しし座流星群が接近していることは知っていたため、気にして夜空を見ていると都内の空でも流れ星がかなりの頻度で飛んでいた。
日曜日の夜だっただけに遠出を迷いながらも、とりあえず高橋の128mm屈折だけを車に積みこんで深夜12時関越道を北上した。

運転中もずっとフロントガラス越しにしきりと流星が飛んでいた。何か只ならぬ気配がしていた。
深夜1時前に東松山インターをおり、暗い見晴らしの良い場所を探す。
心づもりとしては流星群をほどほど眺め終えたら、その後は暗い空で久しぶりに天体観望を、などと考えていた。
が、現地では望遠鏡の組み立て準備も憚れるほど圧倒的な数の流星雨が降り注いでいた。
空のいたるところで数秒と間隔を開けず流れ星と流星痕が。しかも時折、嘘ではなく、何度もシュッという音も耳にした。
輻射点のしし座から北斗七星やオリオン座のあたりまで流れていて、どこを注視すれば良いかもわからず全天が流星で覆われ続けた。
明け方までこの流星雨を浴び続け、この晩は流れ星の出現頻度は衰えることを知らず、薄明で強制的に天体ショーは幕を下ろした。
こんな凄まじい流星雨に立ち会えたことが嬉しかったと同時に明るくなった時にほっと一息ついたものだ。
高速道路からの帰宅中、月曜の朝が始まろうとするなか東の低空には水星が見えていた。
何も記録に残すことはできなかったがしっかりと目に焼き付けた一晩の夢の世界だった。
あんな流星雨をもう一度見ることなど出来るのだろうか。
・2012年5月21日 日本国内の金環日食
当然このイベントを外すわけにはいかない。
朝から薄曇りの中、時々やってくる家人を迎え3階のベランダで欠けゆく太陽を見守った。
晴天とはいかなかったが、大半の過程を見ることができた。
1,ベランダの塀に投影した像

2,投影版への投射像

3,皆既日食
月の見掛け視直径が太陽に比べ小さかったため、皆既食の際は期待していたほど周囲が暗くならなかった印象が残る。

・2020年12月20日 木星・土星のランデブー
これも400年ぶりともいわれた現象なので加筆
75倍の視野の中央に木星と土星と衛星群が。
ガリレオ衛星とタイタンは見えていたと思う。

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