私の月刊天文誌の購読は1969年5月号の天文ガイド(120円)からスタートした。それから2年程は月一冊とたまっていくバックナンバーも一抱えにして暇さえあれば繰り返し読み返し、そのせいもあって最初の2年分の天文ガイドの傷みが著しく激しい。 百科事典の大口径天体望遠鏡による素晴らしい写真にもあこがれたものだが、最新ニュースや天体望遠鏡情報、身近な小口径による見え味など一か月毎の情報更新ではあったがライブ感のあるmust buyの雑誌であった。
当時のお気に入り記事は、富田弘一郎氏による各社天体望遠鏡のテスト&レビューや各社双眼鏡、接眼レンズの比較レポート。今読み返してみると、読者として最も関心のある光学性能や見え味以上に梱包、取り扱い説明書や保証書、構造設計(特に三脚や三角版の取り付け構造に関してはよく言及されていた)に関するパートにかなりの紙面が割かれていた。 肝心の光学パフォーマンスに関しては、天候不順のため、機会があればまた、のように言及されないままのレビューもそこそこ有ったが、手にすることの出来ない最新望遠鏡の使用レポートは最もワクワクする記事の一つであった。最後の〆は、あまり基準のはっきりしない暖かい評価点が付されて終わることが多かったが、国内の天体望遠鏡メーカのブランドイメージに大きな影響を与えた記事だったと思う。
もう一つのお気に入り記事は、藤井旭氏の季節の星雲、星団紹介。各対象物を双眼鏡や5cmの小口径による見え方から始まり、8cm、10cmと口径ごとのイメージを紹介してくれた。天体写真以上にきれいなスケッチが印象的で、今夜の空の透明度が良いことを祈りながら将来の大口径望遠鏡へのあこがれをより一層強くするものだった。
当時月刊天文雑誌としてはもう一冊、地人書館の”天文と気象”があったが、大抵は書店先で立ち読みに終わっていた。その理由は、雑誌の薄さと印刷クオリティだった。当時の天文ガイドと比べると、記事ページのボリュームはそれほど変わらなかったが、天体望遠鏡メーカの広告が明らかに少なかった。読者にとってはこれら天文関連広告も重要なコンテンツで、最新の望遠鏡情報がたとえ広告であっても少ないことは雑誌の魅力を低減させた。
それと、なぜか写真の印刷がアンダー気味で、天体写真がきれいに再現されていない点も気になっていた。”月刊天文”に誌名を変えた頃には投稿写真コーナーも刷新されたが、残念ながらほどなくして休刊になってしまった。 現在も何冊かは保管しているが、地人書館には申し訳ないが、各号天体写真コーナーは、個人でスクラップとして切り抜いていて虫食い状態となっている。
ただ、これらを購入した理由は、興味深い記事が有ったからで、望遠鏡メーカー各社を訪問したり、天文業界の著名人の自宅訪問など面白かった。写真は当時大口径による火星観測で有名だった田坂氏宅に訪れ、53cm反射望遠鏡を取材したもの。
天文ガイドは400冊くらいまでは購読していたが、2000年代に入ると天文ガイドよりスカイウォッチャー、後続の星ナビに移行していった。
理由は、昔ながらのアナログ天体観測、観望より、より専門的な天文学、天体写真等のハイアマチュア向けの記事が増え、私自身が天文の最新トレンドについていけなかったためだ。
メディアは視聴者/読者と共に成長していくべきか、否か、は常に議論されるテーマであるが、天文ガイドは競合雑誌が少ないことで、一定広告収益が確保できていることから、あまり発行部数を意識せずに編集部はついついハイエンド志向に突き進んでいる気がする(以前片岡編集長のころ話した記憶がある)。
星ナビは記事内容が全般に初心者も意識した柔らかめのトーンで、文化的香りのする連載もあったりして、湯船で読むには最適だと思っている。 ただ、アストロアーツが編集にあたっているということで、どうしてもデジタル撮影、画像処理系が多いところは多少気になるところだ(個人の意見です)。
自分自身が懐古主義とは思わないが、私は50年前の天文ガイドが好きだ。 私の欲する記事は、あくまでも眼視による天体観望記事である。特に星雲星団に関しては、昔の5cm、8cm、10cmではなく、15cm、20cm、30cmの口径での見え味を詳細にレポートしてくれたり、当時の小口径では見えなかったNGC#の紹介などである。見る対象物も従来の星雲、星団の見え方も違ってきているはずである。ブログで探した方が早いだろうか。 いつかは自分でやってみるべきテーマかもしれない。