ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
「ぐだぐだ写真館」、始めました

幽霊のパラドックス

2010年06月02日 22時49分35秒 | 小説
ある人に聞いた話だが、

「幽霊はいない」ということを証明することはほぼ不可能なんだそうだ。

だからこそ、現代でも霊媒師という職業が存在できるんだろうが。






-1-



「あそこは出るぞ」


駒井はいつになく真剣に言った。


「あの林か?まあ確かに心霊スポットって噂だけどな」

「あれはマジでヤバい。俺も最初は疑って行って来たんだけどよ」


笹川は椅子にもたれながら話を聞く。


「林の入り口から見たら、奥の方に青白い光が見えてな」

「懐中電灯か何かだろ」

「いや、あのボヤッとした感じは違うな。あんなのは今まで見たことない」


まだ怯えているのか、駒井の声は少しうわずっていた。


「あれ絶対に幽霊だぜ、この目で見たんだから間違いない」



笹川は、こらえきれないという風にクスクス笑い始めた。


「何がおかしい」

「だってさ、この時代に幽霊って・・・正気か?」

「バカにしてんのか」


「俺が幽霊とか宇宙人とかそういうの大っ嫌いなの、知ってるだろ。

最近もさぁ、急に心霊映像とか流行り出して・・・」


笹川は真面目な顔に戻って言った。

駒井も負けじと張り合う。


「じゃあお前は、幽霊はいないって言いきれるのかよ」

「それは・・・」


笹川は言葉に詰まったが、噛みつくように言い返した。


「いないね、絶対に」




駒井と笹川は、中学校からの友人である。


―――「友人」と言っても、相容れない仲ではあるが。


二人は周囲からは似た者同士と言われている。

自分の意見を曲げない頑固さ、それでいて素直に負けを認める潔さ、

どんなことにでも取り組むアクティブさなどなど、

どの点を取っても双子のように同じ。


ただ、そこまで性格がそっくりなのにも関わらず、

二人は一度として意見が合ったことが無い。

例えば、駒井は肉派だが、笹川は魚派。

駒井はアウトドア派だが、笹川はインドア。

駒井はカラオケ命、笹川はボウリング信者。

ここまで意見が正反対(?)なのも珍しい。



そんなわけで、いつもこんな風に水掛け論をしているのだ。



ふーん、と言いながら、駒井は話を持ちかけてきた。


「じゃあ、あの林に本当に幽霊がいるか、賭けてみないか」

「はは、面白いな」


二人とも互いをバカにしたような口調で続ける。


「じゃあ、とりあえず千円賭けるか」

「いや、千円じゃつまらねーな。一万円にしようぜ」


そして3日後、それぞれ証拠を持ってこの食堂で会うことを約束した。






-2-



「・・・という訳なんだけどな」


笹川はヘラヘラしながら事の顛末を話した。



約束を取りつけた時、笹川は内心儲けたと思っていた。


―――幽霊なんかいるわけねーだろ。小学生か。


ただ、それでは駒井を説得することはできない。

何とかして証拠を作らなければ。

というわけで翌日、まずは協力者を呼ぶことにしたのだ。



「へー、お前らって・・・子供みたいだな」


真っ先にもっともな意見を言ったのは木沢。

笹川と駒井の高校からの共通の友人で、

どうでもいいことで言い争う二人を傍観してきた常識人。


「まあ、霊なんかがいるとは思えないけど。誰かが噂流したんだろ」


流石木沢。常識人は言うことが違う。


「でもさぁ・・・本当にいたらどうすんだ?俺あんまり気進まないんだけど」


菊池の腰が引けているのはいつもの事だ。

笹川の幼馴染で、天性のビビり。

大学でたまたま再会した時も、昔と何ら変わりなかった。


笹川が菊池を協力者に選んだのには理由があった。

こんなビビりでも確信を持って「いない」と言えれば、

これ以上ない証拠になると思ったからだ。


「その時は、テレビ局にでも送りつけるまでだな」


笹川は右手に持ったビデオカメラをちらつかせた。

公平な証拠には、なんだかんだで映像が一番。




薄暗くなってきた頃、3人は問題の林へ向かった。


入り口の道から少し入ると、開けた場所からすぐに林が広がっている。

向こう側は草むらになっているが、その先には住宅地があるらしい。

今はまだ奥まで見渡せるが、夜になれば少し先も見えなくなってしまう。


「・・・ほんとに行くの?」

「バカ、一万円かかってんだよ」


菊池をたしなめ、3人は林へ入っていく。


「今置いて朝取りに来れば、バッテリーは持つはずだよな」


木沢の意見で、暗くなる直前にカメラを置くことにした。


まずは奥から入り口側に向けて1つ、

さらに林の左右の端に1つずつカメラを設置

これで、林全体をくまなく見れることになる。


「・・・まるでテレビの企画だな」



こうして準備は完了し、3人は林を後にした。


「これで何も映ってなければ、とりあえずは証拠になるな」


笹川は林で一晩過ごすくらい覚悟していたのだが、

この程度で済んで余裕しゃくしゃくといったところ。

菊池は菊池で、夜中に来ることにならなくてよかったと一安心。

そんな中、冷静な木沢が一言。


「・・・明日撮った映像全部見るんだよな?」




木沢が予想した通り、次の日は朝から地獄だった。


朝一でカメラを回収、すぐにチェックに入る。

映像は夕方から朝まで12時間、しかも3台。

3人でビデオを早送りで回してみるわけだが、とにかく単調作業。

3時間で3人とも完全ダウン、ビデオだけが流れる状態になってしまった。


「・・・これなら真面目にバイトした方が稼げる気がしてきた」

「もう別に見なくてもよくね?どーせ何にも写ってないし」

「夜の林のビデオ3時間とか・・・こっちが幽霊になるっての」



そして、笹川がビデオを止めようとすると、木沢が声を上げた。


「・・・ん?あれなんだ」


木沢が指差す先には、何やらキラリと光るものが写っている。


「ああ、あれは西側のカメラのレンズだろ。ちょうどあそこに仕掛けたはず」

「なんだよ、脅かすなよ・・・」



3人の視線が画面に向かっていたちょうどその時、

画面の奥にふわっと青白い光が見えた。


「・・・・・・ん?」


無言になる3人。


「・・・まさかな」


3人は光が現れた場所をじっと見つめた。


次の瞬間。


「・・・あっ」


今度はもっとはっきりと、不気味に光る影が現れた。


「・・・レンズ?」

「いや、あのボヤッとした感じは違うな。あんなのは今まで見たことない」


笹川は駒井の台詞をそのまま繰り返した。


「あれは幽霊だな、うん」


ゆっくりと揺れ動く様子、怪しく光るその姿、

それはまさに幽霊だった。


「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・嘘だろ・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・ガクガクブルブル」


3人は茫然としたまま、いつまでも画面を見続けていた。






-3-



笹川のグループがビデオを見た日の夜―――


「ほ、ほんとに行くの?やめといた方がいいって」

「う・・・一万円だからなぁ」


駒井は林の入り口で迷っていた。



駒井は駒井で、「幽霊がいる」という突拍子もないことを証明しなければならない。

一番確実なのは、笹川に幽霊を目撃させることなのだが・・・

尤もこの時の駒井は、笹川がその幽霊を見てしまったことを知らない。


そもそも、駒井がこの林までやってきた理由は別にある。

一時は「一万円賭ける」と言うほど自信を持っていた駒井だが、

冷静になってみると、自分が言っていることに疑問を抱き始めた。


―――あれは本当に幽霊か?俺の見間違いじゃないのか?


そうするうちに不安にかられた結果、

もう一度自分の目で確認しようと思い立ったというわけだ。



「だって私もこの前聞いたよ、林から変な声がするの」

「香田は直接見たわけじゃないだろ」

「・・・疑うの?」


別に疑ってるわけではないんだが。俺も見てるし。

「絶対幽霊いるって!」と肯定派を前面に出していたから呼んだのであって、

好きで香田を連れてきたわけじゃない。


余談だが、笹川と木沢は香田を駒井の彼女だと思っているらしい。

駒井にとっては迷惑な話だ。

ただやたらとくっつかれてるだけなんだけども・・・

そう言うと決まって返ってくる言葉はこう。

「そういうところがリア充なんだよ」



さて話を戻して、林に入っていく駒井と香田。


「えー・・・絶対ダメだって・・・」


・・・これじゃ完全に肝試しに来たカップルだな。

まあ一応証人が増えるってことでよしとするか。


そんなことを考える駒井の前に、早くも待望の光景が現れた。


「・・・あ、で、出たっ」

「え?ちょっと待って、まだ心の準備が・・・」


林の奥に見えたのは、数日前に駒井が見たぼんやりと光る影。

だが改めてみると、前に見た時よりも不気味に、ゆらゆらと揺れている。

2人は思わず声を上げた。


「ちょ、あっけないからもう少し引っ張れよ!」

「文章の尺足りなくなるじゃない!」


2人の言葉とは裏腹に(?)、光る影は少しずつこちらへ近づいてくる。


「た、退散退散!」



逃げ出そうとする2人の背後から、どこか間の抜けた声が聞こえてきた。


「すいませーん、大丈夫ですかー?」



??となる駒井と香田の後ろには、気味悪く光る影。

恐る恐る目を向けると、申し訳なさそうな顔をした若者が立っていた。


「大丈夫ですか?驚かしちゃったみたいで・・・」


はあ、と言ってキョトンとする2人の耳に、何やらぼやく声が聞こえてきた。


「あーあ、変なの写りこんじゃったよ」

「これじゃ台無しじゃんか・・・ったく空気読めよ・・・」


しばらくして、連れと思しき2人の学生がやってきた。


「すいません、ご迷惑おかけして・・・」


いかにも反省しているかのような顔。


―――さっきの声、聞こえてたぞ。


駒井は心の中で呆れかえっていた。


「あのー・・・どういうことですか?」


香田はすぐさま疑問を投げかけた。

カメラを持った若者が、頭を掻きながら答える。


「いやー・・・僕達、大学のサークル仲間なんですけどね。

この林が出るって噂なんで、流行りの心霊写真でも撮れるかと・・・」


もう一人の大学生が話を割って続ける。


「でもね、噂は噂。心霊写真なんて撮れっこないですよ。

で、『ここで撮ったら信憑性出るんじゃね?』ってわけで・・・」


隣の薄気味悪く光る男を指差す。


「こうやって、ボヤーっと光る服作ったんですよ。

え、どうやって作ったかって?いや、ちょっと高校の理科部でかじったのをね」


思わず謝ることを忘れて話し出す若者を制し、光る男がさらに続けた。


「できるだけバレないようにって、裏の方から入って」


指差す先には、林の奥から裏に抜ける草むらがあった。

なるほど、あそこが抜け道になってたのか。

誰もこの3人の存在を知らなかったわけだ・・・

いや、感心している場合ではない。


よく見れば安っぽい作りの服を着た学生が、控えめに付け加える。


「あの・・・このことはどうか秘密に・・・」


なるほど、こいつらは全く悪びれてないってことか。

安心しろ、明日キャンパス中にばらまいてやるよ。


「とにかく、驚かしてしまってすみません。もう二度としませんので」


頭を下げる3人の前で苦笑いしながら、駒井は心の中で呪った。


―――こいつら・・・一万円返せよな






-4-



翌日。


駒井は残念そうにキャンパス内を歩いていた。

幽霊はインチキ。駒井や香田の早とちり。

しかもあの3人が写真を撮りまくっても心霊写真の類いは1枚もなし。

これで、あの林に幽霊なんてものはいないと証明されてしまった。


今思えば、何であんなくだらない事に一万円も・・・

後悔してもしきれない。



一方、笹川は約束の食堂へ向かう途中、願うような気持ちでいた。

自分で置いたカメラに幽霊が写りこんでいた。

逆に相手の証拠を作ってしまった上に、

余計な証人を2人も作ってしまい、墓穴を掘る結果になった。


笹川は正直なところ、駒井が約束を忘れていてくれないかと思っていた。

食堂に行っても駒井の姿が無ければ・・・


だが、その願いはあっさり崩れた。

食堂の2人席で苦笑いする駒井に、笹川は苦し紛れに笑みを返した。



向かい合って座った2人。

互いに何の言葉も交わさず、相手の出方を伺う。


しばらく沈黙が流れた後、

2人はほぼ同時にポケットから一万円札を取り出し、

テーブルに叩きつけて叫んだ。


「参りました!!」





その夜―――


サークル仲間の3人は、相変わらず林で撮影をしていた。

駒井の読み通り、「2度としない」はあっさり破られた。


「あーあ、昨日はリア充に邪魔されるし、

一昨日は変なカメラがあって入れなかったし・・・

今日は面倒なことが起きなきゃいいけどな」


写真の出来を確かめるため、カメラマンのもとに集まる。


「・・・ん?この光ってるの何だろ」


デジカメの画面を指差す先には、ぼんやりと光る2つの影。

1つはもちろん光る服を着た1人。

もう1つは・・・


「多分、服の光が反射したんだろ」

「はは、そうだよな。」

「ったく驚かすなよ・・・」


ひきつった笑いを浮かべる3人の背後を、

微笑を浮かべた、青白く光る影が通り過ぎた。


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